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あたしに、頼み……!
「な、なんでも言ってください!」
つい勢いこんで言ってしまった。魔物退治じゃなんら役に立てる気がしないから、できることなら何だって頑張っちゃうよ!
ただ、元気よく返事しすぎたのか、若干リカルド様は引いてるみたいだ。ちょっぴり目が泳いでる。なんかごめんなさい……。
「……その」
そう言ったっきり、リカルド様はうつむいてしまった。耳の端が赤くなってるから、照れてるか、どう話したらいいかに迷っているんだろう。
ここはきっと変に焦らせちゃいけない。はやる気持ちを抑えて、あたしはリカルド様が落ち着いて話し出すのを心の中で応援しつつ、じっと待つ。
頑張れ、リカルド様!
「……君は、魔力が豊富だろう」
おっ、話し始めた! しかしここでがっついてはいけない。リカルド様が驚かないように、ちょっと小さめの声で返事をする。
「はい、魔力だけはたっぷり」
「その魔力を分けてもらえると助かるんだが」
リカルド様の思わぬ申し出に、あたしはポカンと口を開けてしまった。
「魔力って、人に分けてあげたりできるものなんですか?」
そんなの聞いた事もないんだけど。
「正確には、ドレインというか、魔力を吸いとる感じだ。君は何もしなくていい、俺が君の魔力に働きかけて、少々分けてもらうイメージだと思ってくれ」
少し落ち着いてきたらしいリカルド様は、丁寧にそう説明してくれる。
「あ、それならいくらでもどうぞ」
あたしは一も二もなく了承した。だってさ、あたしが何かするってワケじゃなくて、リカルド様がやってくれるんだったら、失敗するって事も無いだろうし。
普段は宝の持ち腐れ感がハンパない魔力がリカルド様のお役に立てるんなら、むしろありがたいってもんだよ。
「ありがとう、実はさっき倒したBランクの魔物との戦闘と、転移とで結構魔力を使ってしまったんだ。助かるよ」
あ、ほんのちょっとだけ、目尻が下がった! これは結構、喜んでくれてるのかも。
よくよく見ていると、ちょっとした表情が分かるようになってきていることに、あたしは密かに自信を得る。無表情だと思ってたけど、こうして注意してみてると、意外と分かりやすいかも知れない。
「どうぞどうぞ」
嬉しくなって両手を広げた。どっからでもかかってこい!
「あ、いや。確かに、全身だと効率はいいかも知れないが……さすがに、それはちょっと……たぶん、握手で大丈夫だ……」
なんとも面映ゆそうな表情に、やっと思い当たる。ハグを求めているように思われたのか!
違う、さすがにそこまで積極的じゃないからね?
あらぬ疑いをかけられたままだとあたしの沽券にかかわる!
慌ててあたしはサッと右手をさし出した。右手で! 右手でお願いします!
「……」
しかし、なぜかリカルド様はあたしの手をじっと見つめたまま、一向に手を掴もうとしない。
「? リカルド様?」
しびれを切らして問いかけたら、リカルド様の顔が急激に茹でだこのように赤くなった。
「で、で、で、では、失礼、するっ」
思い切ったように差し出された手が、面白いくらいにぶるぶる震えている。
え、まさかこれ、照れすぎてなかなか手すら握れなかったと! そういうことですか?
あたしだってなんとなく恥ずかしかったけど、リカルド様の照れっぷりとこのブルブル震える手を見てたら、なんかもう恥ずかしさとかぶっ飛んじゃった。
首席騎士様とまで呼ばれた方が、まさか握手くらいでこんなに緊張するなんて。いや待てよ、そういえばリカルド様の浮いた噂って聞いたことないかも。
呆気に取られて見上げたら、サッと視線を逸らされてしまった。
ええい、いつまでモジモジしているつもりだ!
仕方あるまい、ここはあたしが引導を渡してやろうではないか。
しびれを切らして、あたしはリカルド様の手をぎゅっと力強く握った。
「うわっ」
「おおっ!?」
驚いたらしいリカルド様の手がびくんと大きく縦に揺れる。
その反動で、あたしの体もちょっと揺れた。っていうか、軽く足が浮いた。
リカルド様ときたらどんな筋力してるんだ、驚き過ぎて「おおっ!?」なんて可愛くない声が出ちゃったじゃないの。
腹いせに「どうぞ、どうせ使わない魔力なんで、たっぷり持ってってください」なんて言いながら、にっこりと笑いかけてみた。
そして案の定リカルド様は、真っ赤にゆだっているのに無表情という不思議な体を保ったまま、壊れたおもちゃみたいに首をコクコクと縦に振っている。
結論。
リカルド様は極度の人見知りな上に、女性への免疫が皆無。それも、予想よりかなり重度だ。
なるほど、これはジェードさんが心配する筈だなぁ。
『極度の人見知り』で、『挙動不審になる』って言ってたもんなぁ。
学年首席で、剣の腕前も凄くて、家柄も良い。身長も高いし体格だって立派、しかも人間が出来てる。完全無欠みたいに思えたリカルド様の、このうろたえっぷりは、あたしとしてはなんだか親しみがわいてきて、ぐーんと好感度アップだ。
うん、リカルド様が挙動不審になった時には、慌てず騒がず、こっちからコミュニケーションをとるようにしよう。きっと、ジェードさんみたいに、ちょっと煙たがられるくらいがちょうどいいんだわ。
微笑ましく思っていたら、頭上から「……すまない」の声が降って来た。
「あ、終わりました?」
「い、いや、まだ……その、手汗が出て気になって。すまない……」
まだだったんかい! と突っ込みたくなるのをぐっとこらえた。リカルド様、既に充分しょんぼりしてるしね。
リカルド様、頑張れ……!