テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
冴凛
凛は俺を驚かすのが大好きだ。
これは俺が8歳のとき
「ねぇ、こっち来てよ」
無邪気な声で呼びかける凛は、意地悪そうな顔をしている。なにか企んでいるなと思いつつ、俺は凛の側へ向う。
「なんだ」
凛はふふ、と微笑むと、俺の首に腕を回して、ぐいっと引き寄せる。「どうしたの」そう言い切るときには、俺の顔は凛の胸にあった。
「うわぁ!」
「びっくりした?」
小悪魔みたいに問いかけてくる。俺は凛を見上げた。「りーんーー???」凛の方から仕掛けて来たので、俺は仕返しにこちょこちょをする。
「おら!くくっ、兄ちゃんに勝つには10億年はえぇ。」
俺は凛をソファーから床へ引きづり下ろす。
「にいちゃ、あひゃっ♡やめてーっ!!」
ケラケラと笑いながら転げる凛にどこか心配になりながらも、口では「分かったか?これが兄ちゃんの力だぞー!」とおかしく言う。
「わかっひゃっ、わかったぁ! 」
反省していたので、俺は手を止めてやった。
そしたらお母さんがやってきて、「こら、冴。あんまり凛をいじめないのー」なんていうから、俺は「はーい」と口を尖らせた。
またある日、俺がサッカーから帰るといつもは大はしゃぎで玄関まで迎えに来てくれるりんが、今日は居なかった。俺は心配になり、「凛ー?凛ー!!」と声を大きくした。
誘拐されたのか?凛なら有り得るし、考えすぎか、それとも公園にいるか?いや、そんなことは一度も無い。
俺は小さい小学生の脳みそをフル回転させた。
「ばぁーー!!」
そんなとき、全身に白い布を被った小さいお化けが俺の目の前に現れた。
「う、うわあぁあーー!」
「ひひひ、にぃちゃん、びっくりした?」
布から出てきたのは、凛だった。
「おまえ…」
凛がいた安堵なのか、凛が居なくなる恐怖だったのか、おそらく両方だ。
「急にいなくなるなよ…ひぅっ、」
その後のことはあまり覚えていないが、俺は久しぶりの大泣きだったらしい。それからしばらくの間凛は大人しかった。
そして何度も何度も、時には消しゴムを隠されて、時には凛の髪が短くなったりして、でもその分凛のことを考えるようになった。放っておけなかった、同時に、そんな凛が愛おしかった。
中学生になった。
「俺は明日からスペインに行く」
凛に会えないのはちょっぴり寂しいけど、でも、心はちゃんと、繋がっているから。なんてただの気休めだ、本当はすごく、すっごく寂しい。
「兄ちゃんこっち向いて」
そんなことを考えていると隣にいる凛が俺を呼ぶ。
「なんだ。」
「いいから、みててね」
真っ赤な夕日が凛の頬を染める。
チュ。
「あ…。」
凛の口と俺の口との間に、白い糸が光った。
戸惑う俺をよそに、凛は続ける。
「びっくりした?」
イタズラな笑顔だった。いつもの、いや、少し…なんでもない。
凛は笑うと、口の内側の頬を見せるので、とっても愛らしい。
「なっ、お、お前。今何した」
「なにって…キスだけど」
俺は戸惑うあまり、テンパっていた。
「だめだった…?」
「だめ…というか!…その、俺たちは兄弟だ」
「兄弟だとダメなの?」
「あーだー!!そういうんじゃなくてっ…」
説明をしようとした。
だが無邪気な凛、君の笑顔が失われるくらいなら、それくらいはいいか、と放っておいてしまった。
「これで俺のことも忘れないね」
そういう凛の瞳は、どこか遠く、海の向こうを見つめていた。
「行ってきます」
俺はスペインへ旅立った。飛行機に乗ってる間、俺は昨日の出来事を思い出す。人差し指で、すーっと唇をなぞる。
「はぁーー。」
ため息なのか、恋しさなのか、自分でも分からなかった。
今回も俺の負けだ。きっと、スペインにいる間は凛を忘れることができなくなった。
コメント
1件
感想をありがとうございます。凛ちゃんの「びっくりした?」というイタズラな笑顔が、8歳の頃からずっと変わらず続いているのがとても愛おしいですね。最後のキスシーンで兄が「今回も俺の負けだ」と諦めにも似た温かさで受け入れるところ、切なくも美しかったです。兄弟という関係を超えた凛ちゃんの一途さに、胸がぎゅっとなりました。スペイン旅立ちのシーン、夕日がとても印象的でした。