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作者です。
自分でも何書いてるのかよく分からなくなってきました。
一体どうやって風呂敷を畳めば良いんだ。
ふと、胸ポケットに硬い異物が入っている違和感に気付いた。
(……あれ? 何か入ってる)
私はポケットに手を入れた。指先に触れたのは、ひやりとした金属の感触。取り出してみると、手のひらサイズの銀色の時計だった。
「……時計?」
精巧な彫刻が施された蓋。しかし、その一部はひび割れ、焦げたような跡がある。蓋を開けると、文字盤のガラスにも亀裂が入っており、針は23時59分を指したままピクリとも動かなかった。中から小さなバネが飛び出している。
けれど、それを手にした瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚があった。
悲しいような、懐かしいような。これは、きっと大切なものだ。私の失われた記憶を繋ぐ、唯一のよすが。
「なんだ、大事なモン壊しちまったのか?」
見上げると、オレンジの工事用ヘルメットを被ったガタイの良い男が立っていた。腰にはツールベルトを巻き、ハンマーやレンチを装備している。Buildermanさんだ。
「あ、Buildermanさん……。これ、直せますか?」
「貸してみな」
彼は無骨な指で時計を摘まみ、職人の目つきで観察し始めた。
「ふむ……。裏蓋が歪んでるな。中のゼンマイもイカれてる。こりゃあ相当な衝撃を受けたはずだ」
「……やっぱり、無理ですか?」
「ハッ、俺を誰だと思ってる。この世で俺に直せないものはねえ」
彼はニカっと笑うと、腰のポーチから精密ドライバーを取り出した。
その作業スピードは圧巻だった。太い指先からは想像もできないほど繊細な手つきで、飛び出したバネを戻し、歪んだフレームを矯正していく。
カチッ、カチッ、カチッ……。
やがて、時計は再び時を刻み始めた。
「ほらよ。道具ってのは大事にしろよ」
「ありがとうございます……!」
私は時計を受け取り、安堵の息を吐いた。
「――時は川の如く流れ、壊れし物は新たな息吹を得る……。匠の技、ここに極まれり」
不意に、厳かな声が響いた。ふわり、と私の隣に誰かが浮遊してきた。白いローグを纏い、手には長い杖。そして何より異様なのは、その頭部だ。不気味な青いカボチャ。そこから黒い鹿の角が生え、目と口からはオレンジ色の火の玉がゆらゆらと燃えている。
「よお、Dusekkar。相変わらず仰々しい喋り方だな」
「Buildermanよ。汝のハンマーは今日も世界を繋ぎ止めている……。良きかな」
「はいはい、褒めても何も出ねえよ」
すると、そこへもう一人、騒がしい男が割って入ってきた。
「おいおい! 水臭いぞお前ら! 俺様を差し置いて会議か?」
フライドチキンを片手に現れたのは、Shedletskyだ。彼はBuildermanの肩をバンと叩き、Dusekkarの周りをくるちと回った。
「時計が直ったなら祝いだな! Matt、チキン食うか? あ、お前カボチャだから食えねえか! ガハハ!」
「……Shedletskyよ。汝の魂は相変わらず騒々しく、そして脂っこい。……だが、その活力こそが我らの希望なり」
「うるせえよ! 褒めてんのか、それ!?」
黄色いヘルメットの職人、カボチャ頭の魔法使い、そしてチキン好きの陽気な男。タイプはバラバラなのに、彼らの間には不思議な連帯感――長い時間を共有してきた戦友のような空気が流れていた。
その時、横から視線を感じた。Chanceさんが、私の手元――直ったばかりの懐中時計をじっと凝視していた。
「……おい」
彼の声が、少し強張っていた。
「お前、それをどこで手に入れた?」
「え? どこって……気付いたらポケットに入ってて……」
「……ちょっと、見せてくれ」
彼が身を乗り出す。私は戸惑いながらも、時計を差し出した。Chanceさんはそれをまじまじと見つめ、指先で蓋の彫刻をなぞった。
「Chanceさん……?」
「……いや、なんでもない」
彼は眉間を抑えた。
「……大事にしな。そいつはきっと、ただの時計じゃねえ」
「は、はい」
私は首を傾げつつも、直った時計を大切に胸ポケットへしまった。
「おーい、お前ら! 休憩時間は終わりみたいだぞ!」
Shedletskyさんの陽気な声と共に、部屋の照明が明滅し、ブォン、ブォン、と低いサイレンが鳴り響いた。
次の『ゲーム』が始まる合図らしい。
「ちっ、早いな。ピザを消化する暇もありゃしない」
Chanceが気だるげに立ち上がり、銃の撃鉄を起こす。Guest 1337も立ち上がり、ボキボキと首を鳴らした。
「総員、配置につけ! 次のマップへ転送されるぞ! 油断するな!」
床が激しく発光し始める。
今までの白い光とは違う。どこか赤黒く、不吉な色の光だ。
「……嫌な予感がするな」
Chanceさんが呟く。
私も、胸ポケットの直ったばかりの時計を握りしめた。
次の舞台はどこなのか。光に包まれる直前、私は霧の向こうに、見覚えのあるネオンサインを見たような気がした。
意識が、闇へと落ちていく。
転送された瞬間、目に飛び込んできたのは極彩色の光だった。
赤、青、金。点滅するネオンサイン。
耳をつんざくようなスロットマシンの電子音と、軽快なジャズピアノのBGM。
「ここは……」
私たちは、豪華絢爛なカジノホールのど真ん中に立っていた。
壁一面に並ぶスロットマシン、緑のラシャが敷かれたカードテーブル、そして頭上で回る巨大なルーレットのオブジェ。
これまでのマップとは明らかに異質な、人工的な華やかさに満ちた場所だ。
「うわぁ、すっごーい! キラキラしてる!」
Veeronicaさんがスケートボードでカーペットの上を滑りながらはしゃぐ。
しかし、Guest 1337さんは厳しい表情で周囲を警戒していた。
「警戒せよ! 『新マップ』だ!」
「新入りが来た時の定番だな!」
Shedletskyさんが呑気な声で言い、周囲の探索を始める。
皆、新しい環境に浮かれている様子だったが……私の隣でChanceさんだけが、息を呑んで立ち尽くしていた。
「……ハッ。こいつはまた、悪趣味なジョークだ」
彼の声が微かに震えている。私を助けてくれた時のような余裕のある笑みは消え、険しい表情で周囲を睨みつけている。
「Chanceさん?」
「……『ソネリーノカジノ』。俺が全てを賭けて……すべてを奪った場所だ」
彼は忌々しげに吐き捨てた。
「あいつらのシマだ。……嫌な予感がしやがる」
私がその真意を聞こうとした、その時だった。
カジノの奥、VIPルームへと続く重厚な扉が、ゆっくりと開いた。
カツ、カツ、カツ。
響く足音。BGMのジャズが、不協和音へと歪んでいく。
現れたのは、黄色い肌をした恰幅の良い男だった。
黒のピンストライプが入ったスリーピーススーツに、白いドレスシャツとストライプのネクタイ。その上から羽織った長い黒のオーバーコートが、威圧的に波打っている。
目深に被った黒いフェドラ帽が目元に影を落とし、ベストのポケットからは黄金の懐中時計の鎖が覗いていた。
彼が歩くたびに、周囲の空気が張り詰めていくのが分かる。
「……探したぞ」
低い、腹の底に響くような声。
男はゆっくりと歩み寄りながら、無骨な拳をボキボキと鳴らした。
「我がカジノの金を持ち逃げし、あまつさえ死んで逃げおおせようとはな。……だが、地獄の底まで取り立てに来てやったぞ、Chance」
「……相変わらずしつこいな、ボス」
Chanceさんは一歩も引かずに言い返した。しかし、額には脂汗が滲んでいる。
「あいつは……?」
私が小声で尋ねると、Chanceさんは視線を逸らさずに答えた。
「……『Mafioso』。ドン・ソネリーノだ」
「総員、退避ィッ!!」
Guest 1337の怒号が響く。
直後、Mafiosoが懐から何かを取り出し、無造作に放り投げた。
手榴弾? いや、あれは……白い毛玉のような……
「ウサギ……?」
私が目を凝らした瞬間。
その可愛らしいウサギが、砲弾のような速度でスロットマシンに激突した。
ドガァァァァンッ!!
スロットマシンが粉々に砕け散り、コインと部品が散弾のように飛び散る。
冗談みたいな光景だが、威力は本物だ。
「うわあああッ!? なんだ今の!?」
「散れ! 固まるな!」
サバイバーたちが散り散りに逃げ出す。
Chanceさんは舌打ちをして、銃を構えた。
「カリス、走れ! 俺が時間を稼ぐ!」
「えっ、でも!」
「良いから行け! あいつの狙いは俺だ!」
彼は私を突き飛ばすと、Mafiosoに向けて発砲した。
カチッ。
――不発。
「……チッ、ここでもかよ」
Mafiosoがニヤリと笑い、コートを翻して懐からギラリと光る長剣を抜き放った。さらに彼が指を鳴らすと、床の影から黒服を着た部下らしき人物が数人、這い出るように召還される。
「終わりだ。利子も含めて、その命で払ってもらうぞ」
殺される。
Chanceさんが死ぬ。
Mafiosoが剣を振り上げ、部下たちが包囲網を縮める。
その光景を見た瞬間、私の頭の中でノイズが走った。
(あの日も、そうだった)
雨の降る夜。人気のない裏路地。
『テメェ、嵌めやがったな!』
『彼』が叫ぶ。理屈じゃなかった。引き金が引かれる瞬間、私の体は思考よりも先に動いていた。
私は彼を庇うように飛び出した。両手を広げ、MafiosoとChanceさんの間に割って入る。
「やめて……ッ」
「カリス!?」
――私は不運だ。
私の周りでは、物が壊れる。落ちてくる。爆発する。まるで、世界から攻撃されているように。
だったら。自分に向かってくる不幸を、目の前の敵へねじ曲げてやれば良い。
私の中でスイッチが入った。
ドス黒くて、激しい何かが、身体の底から噴き出す感覚。
Mafiosoの剣が振り下ろされる。
私如きが防げるはずもない。真っ二つにされる。
バヂンッ!!
カジノホールの照明が一斉にショートした。
それだけじゃない。
私の頭上にあった巨大なシャンデリアの鎖が、何の前触れもなくブチリ、と千切れたのだ。
「――は?」
Mafiosoが上を見上げた時には、もう遅かった。
数トンの重量があるクリスタルガラスの塊が、彼めがけて落下した。
ズドォォォォォンッ!!
轟音。床が抜け落ちるほどの衝撃。
Mafiosoがシャンデリアの下敷きになり、その衝撃波で周囲の部下たちも吹き飛んだ。
しかし、私たちは無傷だった。
シャンデリアは私の鼻先数センチのところに突き刺さり、私とChanceさんを避けるようにして、敵だけを押し潰していた。
いや、避けたんじゃない。私が呼んだ『不運』が、敵に降り注いだのだ。
「な、なんだ今の……!?」
Chanceさんが目を白黒させている。
私は自分の手を見た。震えている。でも、さっきまでの恐怖の震えとは違う。
手に残る、奇妙な熱さ。私は『不運』を操ったんだ。
「Chanceさん、今のうちに!」
「お、おう……! お前、マジで何者なんだ……!?」
私は呆然とするChanceさんの手を引き、瓦礫の山となったカジノの奥へと走り出した。
アビリティ:『Calamity Trigger』
概要:周囲の確率を強制的に書き換えるアビリティ。
効果:発動すると数秒間、周囲に『絶対的な不運』のフィールドを展開する。効果範囲内でキラーが攻撃行動を行おうとすると、『物理的なアクシデント』が強制発生し、攻撃が失敗・中断・スタンする。