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第10話:祭りの夜に、花が咲く
涼架side
夏祭り当日。
私は、デパートで選んだ淡いクリーム色に赤い花柄が映える浴衣をまとい、待ち合わせ場所の駅前に向かった。
着慣れない浴衣で少し動きにくいけど、胸の高鳴りがそれを忘れさせる。
この花柄が、私の内なる「熱」を若井くんに届ける勇気の象徴だ。
待ち合わせ場所に着くと、既に三人が揃っていた。
「あ、涼架!おそいよー!」
綾華に声をかけられ、若井くんの方に目をやると、彼は紺色の落ち着いた浴衣を着ていた。
しかし、その表情は硬い。いつものクールな「狼」ではなく、慣れない服装と緊張で完全にソワソワしているのが見て取れた。
その戸惑う姿が、なんだか可愛らしくて、私の緊張が少し和らいだ。
「ごめん、待たせて。若井くん、その…浴衣すごく似合ってます」
私が声をかけると、若井くんは一瞬ビクッと肩を震わせた。
「お、おう…藤澤さんも、その…」
彼は、私の赤い花柄の浴衣に視線を向け、すぐに逸らした。口ごもって、続きの言葉が出てこない。
すかさず、元貴くんがフォローに入った。
「若井が似合ってるってさ、涼架ちゃん!」
「おい、元貴言ってねぇだろ!」
若井くんは顔を真っ赤にして元貴くんに反論する。綾華がすかさず笑いながら元貴くんの背中を叩いた。
「元貴くんナイス!若井くん、素直に『涼架の浴衣、めちゃくちゃ綺麗だよ』って言えばいいじゃん!」
「う、うるせぇ!…きれい、だよ。似合ってる」
若井くんは、しぶしぶといった表情で、でもしっかりと私の目を見て言った。
その一言だけで、私の心臓がまた激しく跳ねた。
「ありがとうございます」
四人揃ったところで、綾華が主導権を握る。
「さて!じゃあ、この最強の援護隊が、この不器用な二人をエスコートしてやるぞ!まずは焼きそばだ!元貴くん、若井くん、奢りね!」
元貴くんと綾華は、積極的に屋台を回り、場を和ませてくれた。
若井くんは、元貴くんと話している時は少し安心したように笑うけど、私と目が合うとすぐに逸らしてしまう。
本当に、不器用な狼だ。
しばらくして、綾華が「ちょっと暑くなってきたから、飲み物買ってくる!」と言い出し元貴くんも「じゃあ、俺もなんか買ってくっかな」と二人は人混みに消えていった。
綾華たちの意図は明らかだった。
私たちは、花火が見える、少し人通りの少ない川沿いのベンチに二人きりで残された。
辺りには、お祭りの賑わいと、高揚感が満ちている。
「…静か、ですね」
私がそう呟くと、若井くんは持っていたラムネの瓶を見つめながら答えた。
「ああ。屋上より、全然静かだな」
そして、彼は意を決したように、少しだけ私の方を見た。
「あのさ、藤澤さん。その…」
ちょうどその時、夜空に一発目の大きな花火が上がった。ドォンという音に、若井くんの言葉はかき消されてしまう。
「え?ごめんなさい、聞こえなかった」
花火の光で、彼の横顔が鮮やかに照らされた。彼は、深く息を吐き、もう一度、今度ははっきりと口を開いた。
「…この前は、本当にごめん。楽器店で、素っ気ない態度取ったこと。藤澤さんが、あんなに勇気を出してくれたのに…俺、最低だった」
「若井くん…」
「急すぎて、どうしたらいいか分かんなかったんだ。いつもクールでいようとする自分が、勝手に出てきて…元貴に言われたよ。俺は、臆病な狼だって」
彼は、自分の弱さを、初めて私に打ち明けてくれた。その正直な言葉が、私の胸に温かく響く。
「私は、若井くんが不器用なだけだって、分かってるつもりです。だからもう一度言わせてください。夏祭り、一緒に来てくれて本当にありがとう」
私は、彼を真っ直ぐ見つめた。
「あの、若井くん。私の浴衣の花柄、どう見えますか?」
「すごく…綺麗だ。その…赤い色が、目を引く」
「この花は、私の勇気の色なんです。若井くんの隣で咲かせたかったんです」
私は、少しだけ身を乗り出した。彼の照れているけど、真剣な眼差しから逃げないように。
「若井くんの音は、強い狼のように振る舞いたいのに、その自信は見当たらない、不器用な男の子の音です。でも、その奥にある音は、誰よりも優しくて、熱い。私は、それを描きたいんです」
若井くんは、花火の光の中、静かに私の言葉を聞いていた。
やがて、彼はそっと手を伸ばし私の肩に置こうとして、寸前で止めた。
「もう、逃げない。次の夏祭り、四人じゃなくて、俺と二人で…よかったら、会ってくれるか?」
彼の言葉は、夜空を彩る大輪の花火のように、私の心に鮮やかに咲いた。
「はい。喜んで」
私は、満面の笑みで頷いた。
次回予告
[たこ焼きと見つけた君の一面]
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🎅メリークリスマス🎄🎁
コメント
7件
うぎゃぁぁぁぁ!!!最高!!若井さんがやっと素直になった!
メリークリスマス…仕事だったけど、
若井くん!凄いなぁ~🤣涼架ちゃん やったね💛この先 楽しみです✨