俺は暫くの間呆然としてしまっていた。鮮明に思い出してしまった、傷について話してはいけない理由。その時の俺には気持ちの整理は全く持ってつかなかった。
「ねえ…!アリンってば!ねえ!」
あ、癒姫華…そっか今は一緒に…
「…癒姫華。俺気失ってたみたいだね。心配させてごめん」俺は俯きながらそう言った。
「大丈夫だよ…でも、でもやっぱりこのまま死んじゃったらどうしよって…焦ったよ…」
…その声色は今にも泣き出しそうなのと俺には分かった。
「ねえ、アリン…?ちゃんと生きてるって、そばにいるって確認したいから抱き締めてもいい…?」あ…俺の優しくて可愛い恋人にそんな顔をしてほしくない。
「もちろんだよ…」そう言って俯く顔をあげて癒姫華を強く強く抱き締めた。癒姫華も同じように俺を抱き締め「アリンが死んでいいのはまだまだ先なんだからっ!これからもずっと私と一緒にいるんだから…!」とついに泣き出した彼女の頭を撫でて「うん…ずっとそばにいるよ。愛してる」
それから落ち着きを取り戻した俺たちは、今もまだ休憩所で座っていた。絵画見れなかったね…と彼女は隣でぽつりと呟く。話によると茶色の扉の向こうにもお目当ての絵画はなかったそう。俺はあの後、警備員に見つけられここに来たという。幸い意識もあったため大事ではないだろうと救急などは呼ばなかったそうだ。
「あ、思ったんだけどその絵画ってどんなタイトル?」
「んーとね、難しいんだよね…確か**“11”**っていう数字から始まってた気がする…」
「え…?もしかしたら、それ俺が見たものかもしれない。話すの忘れてたけど黒の扉の1番奥には部屋があってそこに1枚だけ飾られていた、それのタイトルが**“1112355c”**ってtitleって文字の後に続いてたから」
「…それかも。確か動物の絵だった気がするんだけどどうだった?」…、?
「え、動物?俺が見たものとは全く違うんだけど…」
「え、?じゃあ何だった?」
そう問われ俺は自分が見たものを出来る限り答えた。傷のことは隠して。
「そうだったんだ…そんな絵画だったんだね。あの新聞に書いてあった情報は嘘だったのかな?」
「それはないと思うけど…」
だけど、これで確信できた。俺はあれに導かれたんだ。きっとこの傷のせいで。そしてシウル…そう、何かがおかしいと思って、シウルの日付と時間を見た。(…やっぱりか)
時針は11月11日 午前11時を指していた。
でも俺はシウルは決して壊れないとそうずっと思っている。だから、分かったんだ。今日9月20日と、シウルが示している日が入れ替わっていると。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!