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声からして威勢のいい女だ。おれの名前をあんな風に叫ぶとは、一体何者なのか。戦った記憶と覚えがまるで無いということは、あまり印象に残らなかった相手だろう。
「一応聞くが、何故おれの名を知っている? お前は誰だ?」
おれの声に反応し、ざわついているのは後方に控えているシーニャたちだ。そうなるとシーニャが知っている女のように思えるが、全く見当がつかない。
「あの時は獣だったから頭までもが畜生程度というわけか? あたしは、ヘルガ! Sランクの短剣使い《ダガーキャスター》だ!! 思い出させてやろうか? あ?」
短剣使いでSランクでヘルガ……しかも獣だった時のおれを知っている?
あぁ、思い出したぞ。獣狩りパーティーの女か。獣時にラクルまで吹き飛ばした女だったな。魔術師の男と一緒にいた強化者《ブースター》があまりに印象強かったから、今の今まで忘れていた。
この場に強化者がいないということは、魔術師の方が扱いやすいと判断されて置いて行かれたか。そうなると思念飛ばしの不意打ち連中はこの女の復讐戦には干渉してこないとみていい。
せいぜい遊べと言っていたし、そういう意味だな。短剣使いの女以外で気を付けるべき相手は、バウンティハンター《賞金稼ぎ》が数人か。奴らは金の為なら非道なやり方を平気で実行するし、この場所を選んだのも奴らの罠が仕掛け放題だからに違いない。
「いいや、今思い出した。それで、ヘルガだったか。大人数でおれを潰すのか?」
「誰がそんなみっともなくて雑魚な戦いをするかよ!! 獣の力を使うてめぇなんぞには、こいつらで十分だ!」
「こいつらというと、剣や槍を持っていながら身震いをさせている男たちのことか?」
「減らず口を叩いても無駄だ。こいつらは興奮しているだけさ! 追放者を自分らで殺せるってことになぁ!!」
追放者と言われても、ラクルの連中は倉庫に住むことをうるさく言わなかった。そうなると、この女と男連中がそれにこだわっているだけに過ぎない。そもそもヘルガという女をラクルに吹き飛ばしてから、かなり日数が経っている。
まさかのことだが、その時から町に潜んでいたとは正直言って驚きでしかない。
「イスティさま! 来るっ!!」
「あぁ、見えてる」
ヘルガの合図に呼応し、前面に立っていた多数の戦士らしき男たちが鬨《とき》の声を上げる。
手にしている武器はほとんどが片手剣だ。その中の数人は慣れない槍を持っていて、勢いそのままに突進して来る。よほど不人気なクエストだったのか、間に合わせの兵らしい。
「う、うおおおおおお!! ボサっと突っ立ってんじゃねえええ!」
戦士の一人が剣を振り下ろしてくる――が、フィーサを鞘から抜くまでも無くその先を取った。突出して攻撃を仕掛けて来た男に対し、それよりも一瞬素早く動き出したおれの拳が男の上体に命中。
男の剣の軌道はすぐに崩れ、息を切らせた状態で地面に倒れ込んだ。おれの拳によって、青銅製の鎧はあっさりと破壊。鎧系防具に守られている戦士たちは驚きと戸惑いの声を漏らしている。
「――な……!? き、近接戦闘者!?」
「両手剣を身に着けていながら拳を繰り出して来るなんて……そんなバカな!?」
「お、おい、お前行けよ!」
「お前こそ行け。あんな化け物なんて聞いてねえぞ……」
やはりフィーサを使うまでも無かったか。ラクルのような小さな港町のギルドクエストに、そこまで命をかける奴なんていないからな。突出して来た男一人だけは、戦う意志があったからまだいいとしても。
一応の陣形を整えた男たちは後ずさりながら向かって来る気配が無い。
「どうした、来ないのか?」
おれが向かって行けば間違いなく戦士たちは全滅、もしくは一目散に逃げ出してしまう。ヘルガという女はともかく、おれは連中に対して恨みも無ければ倒す理由も無いわけだが。
そう思っていると、ヘルガが後方の彼女たちに指示を出し始める。
「おい、後ろの支援系!! 野郎たちに強化をかけまくりな!」
復讐と言いながらも、集まった連中に戦わせて弱らせる戦法か。バウンティハンターにも前に出るよう促しているし、Sランクを武器にして従わせているようだ。
シーニャは回復魔法だけで強化は使えない。ミルシェはおれに依存した防御魔法が使えるが、連中に何をかけているのか。
「おぉっ! 物理耐性が上がった気がする!!」
「体が軽くなった!」
どうやら期待を持たせた強化をかけたみたいだ。さすがに今度は集団でかかってくるようだし、拳はやめてフィーサを振り回すことにしよう。
「行けるな、フィーサ」
「はいなの!」
「魔法剣は取っておく。基本だけで行くぞ!」