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初めて会ったときから、他の子とは違う気がした。
他人とは思えなかったのはー
「ー誠に勝手ですが、採用内定取り消しの件、事情ご理解の上お聞き入れ下さいますよう何卒よろしくお願いいたします。まずはお詫びを申し上げます。 敬具」
そう締めくくられた白い紙をぐしゃりと握りつぶすと、彼は唇を噛んで河川敷の斜面に身を倒した。
川から吹く風が生ぬるい。
本格的に梅雨のシーズンを迎えるまであと少しだろうか。
そんなまとわりつくような周りの空気も、背中から伝わる地面の湿り気も、すべて気分が一層逆撫でていった。
一体自分が何をしたというのだ、と。
(何が「敬具」だ、ちくしょうー)
デフレ、サブプライム問題、リーマンショック·····平成も二十年を過ぎ一向に景気が回復しない中、近年立て続けに海外で起こった金属危機の余波もあり、学生たちの就職活動は「氷河期」と呼ばれるほど過酷を極めている。
そんな中、彼は週末という週末をほぼ会社説明会に充て、脚を棒にして何十社と訪問し、ようやく希望としていた業種の一社に採用された。
ストレスから体重を二割近く落としたりもした。
通知が来た日は嬉しくて、何ヶ月も連絡をしていなかった実家にまで電話をかけてしまった。
「アンタ、入ったからにはちゃんと勤めなさいよ」
母は喜びながらそう口にした。
もちろん、母親に言われなくても、せっかく採ってもらった会社だ。
ちょっとやそっとのことで辞めるつもりはない。
今まで迷惑をかけてきた分、いくらか貯金ができたら両親に贈り物でもしよう。
旅行につれていくのもいいかもしれない。
そんなことすら思い描いていた。
それなのに、なんでー
こんな紙切れ一枚で、その覚悟も計画もすべて消えてしまった。
ここ数ヶ月の努力だけでなく、今までの人生すべてが否定された気分になる。
悔しいーけれど、涙の一つも出ない。
同じような思いをしている学生もどこかにいるかもしれない。
そういった者と傷をなめ合うことができたら、この気持ちも少しは楽になっただろう。
けれども、四年進級時に留年をしてしまい、友達の多くがすでに卒業していった彼にはその痛みを分け合う仲間すらいない。
行き場のない鬱屈した思いをぶつけるように、生い茂る雑草を靴底の底で踏みつけた。