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湿った夜風に、夏の匂いがふわりと混じる。
ミィコは配信部屋のカメラの前で深呼吸をひとつ。
「こんばんは、ミィコだよ」
いつものように微笑み、明るく手を振る。コメント欄には温かな声があふれた。
けれど、その夜は少しだけ、空気が違っていた。
「今日もセバスいないね」
「毎日来てたのに、急に…」
「何かあったのかな?」
ざわつくコメントに、ミィコの指が止まる。
一瞬だけ、その笑顔が陰る。
「……忙しいだけ。たぶんね、ちょっと不器用な人だから」
そう言ってまた笑ってみせた。でも、その笑みはどこか脆くて、少しだけ震えていた。
そのころ、セバスは部屋にこもり、黙々とペンタブを握っていた。
描いていたのは、出版社が主催する個展用のイラスト——30枚。
それは“チャンス”なんかじゃなかった。
彼にとって、それは——「最後の砦」だった。
ミィコの声を聞けば、描けなくなる。
だから、見ない。聴かない。近づかない。
すべて、自分の弱さから逃げるために。
「……バカだな、俺」
汗をぬぐい、モニターの光に照らされながら、自嘲気味に笑った。
その夜、配信が終わり、部屋に静寂が戻る。
ミィコは画面の明かりを見つめながら、ぽつりと呟く。
「……何してるんだろ、セバスさん」
答えは、返ってこない。
けれど、心の奥にはまだ、小さな光が残っていた。
信じていた。
あの人は、逃げているんじゃない。
ただ、今は自分と向き合っているだけだと。
いつか、その光がまた重なる日を願って。
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