コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「今日は本当にありがとうございました。ご飯も美味しかったし、大満足です」
「喜んでもらえたなら良かった。実を言うとな、正直不安だったんだ」
「不安……ですか?」
「ああ、店に着いてから気付いたんだが、若い女だったらああいう定食屋は好まねぇかと思ったんだよ」
「そんなことないですよ。寧ろ私はああいうお店の方が大好きです。高級でお洒落なレストランなんかよりも落ち着くので」
「俺と考えが似ているのかもしれないな。だから、一緒に居ると心地良いのかもしれない」
「…………」
蒼央は思ったことを口にしただけで深い意味は無いのだろうと千鶴は思ったものの、やはりそんな風に言われれば少なからず意識してしまうもの。
「……わ、私も、蒼央さんと居ると……心地良い……です」
黙っているのは変だろうし、何か言葉を返さなくてはと千鶴は自分も同じように蒼央と居ると『心地良い』ということを途切れ途切れに伝えたのだ。
千鶴の返しを聞いて、「そうか」と一言だけ答えて頷いた蒼央。
それ以上何も口にはしなかったけれど彼もまた密かに千鶴を意識していたのだ。
それから暫くは特に会話は無く、千鶴は窓の外を眺め、蒼央はラジオから流れる音楽を聴きながら車を走らせて千鶴の住むアパートまで向かう。
そんな中、蒼央は千鶴に関して気になることがあり、その話をいつ切り出すかタイミングを窺っていた。
けれど、そのタイミングはなかなか掴めず、気付けば千鶴の住まいのアパート前へ辿り着いていた。
「送ってくださってありがとうございます」
シートベルトを外し、お礼を口にした千鶴が車を降りようとしていたさなか、彼女のバッグから電話の着信音が鳴り響く。
「すみません」
降りてから確認しても良かったのだけど、急ぎの電話だと困ると思った千鶴は一言断りを入れて電話の相手を確認すると、スマートフォンの画面を見た瞬間、千鶴の動きはピクリと止まる。
「どうした?」
そんな彼女を不思議に思った蒼央が声を掛け、「誰からなんだ?」と尋ねると、
「……母からです」
どこか気まずそうな表情を浮かべながら千鶴は母親からの着信であることを告げた。
「出ないのか?」
何故か電話に出ない千鶴。
何度か鳴り続けた電話だけど、なかなか出ないことで諦めたのか切れてしまう。
切れてもなお、スマートフォンを手にしたまま固まっている千鶴に蒼央は、
「千鶴、話があるんだが、もう少しだけ、時間を貰ってもいいか?」
このまま別れるのは違うと考え、話があるからもう少し時間を貰えないかと確認する。
すると千鶴の方も何かを話したかったようで、
「はい、大丈夫です。実は私も、聞いてもらいたいことがあるので……」
時間は大丈夫だと答え、それを聞いた蒼央は再び車を走らせアパートから遠ざかって行った。