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計画を伝えた後は、私とルイスは時間を忘れ、互いの身体を密着させ、会話をし、間が空いたらキスをしていた。
「ロザリー、部屋にあるもの、何かくれないか?」
その間、ふとルイスが私の私物を欲しがった。
私は「いいわよ」と言い、ルイスに渡せるものがないか、クローゼットの中に入る。彼に渡すものは本ではなく、アクセサリーがいいだろうと思ったからだ。
装飾品がまとめられた宝石箱を持って、ルイスの元へ戻る。
「ルイスが気に入るものがあればいいけど……」
宝石箱を開け、それをルイスに見せた。
その中にはマリアンヌとお揃いの黄色の薔薇を模したピアスと三人で買った緑色の飾り石のネックレスも入っていた。
(屋敷に戻っていなければ、二つとも持って帰れなかったのよね)
宝石箱の中に入っている二つのアクセサリーのことを思いだした。
「うーん、そうだなあ」
ルイスは真剣な面持ちで、選んでいる。
「貰ってもロザリーのものだって、分かりづらいな」
宝石箱の中に、気に入ったものがなかったらしい。
ルイスは私の部屋の中を周り、ものを探し始めた。
「……これがいい」
悩んだ末、ルイスは私の机の上にあるものを手に取った。
「それは――」
私の机の上には、本が二冊飾ってある。
一つはルイスから貰った童話の本、もう一つは形見の本だ。
ルイスが手に取ったのは、形見の本だった。
「俺が暖炉に落とした本。これが欲しい」
私はルイスの傍に立つ。
昔、私はルイスにその本を奪われた。
あの頃は少し背が高いくらいだったのに、今はもう越されている。
「もう、届かないよな」
「ええ。背伸びしてもだめね」
ルイスは本を頭上にあげる。
試しに背伸びをしても、本には届かなかった。
ルイスは背伸びをしている私の背に触れ、支えてくれた。
「これはお母さんの形見の本」
「……返して欲しいか?」
私は首を横に振る。
昔の私は、ルイスに意地悪をされた。
返してと手を伸ばしたが、その結果、形見の本は暖炉に落ち、焦げてしまった。すぐに水をかけたので、原型は残っているものの、中を読むことはできない。
当時の私はルイスが大嫌いだった。
でも、今は違う。
私はルイスが大好きだ。
「その本はお母さんから貰った大事なもの。でも、それはルイスとの思い出も混ざっている」
「ああ。これが一番ロザリーを感じられる」
「……分かった。その本をあげる」
私は隣に置いてあった童話の本を手に取る。
形見の本も大事だ。でも、私は大切な人から沢山のものを貰った。
ルイスが欲しいというなら、彼に託してもいい。
「ありがとう。大事にする」
ルイスは私の形見の本を選んだ。
「気に入ったものがあって、良かったわ」
「にしては、浮かない顔してるな」
「……お揃いのアクセサリーがあればよかったなあって」
その不満が顔に出ていたようで、常に私を見てくれているルイスに気づかれてしまった。
本音を呟くと、ルイスも「約束してたしな……」と残念そうな返事がきた。
「ロザリーがフォルテウス城へ帰るのは明日か明後日、なんだよな」
「ええ」
「だったら、俺が街で買い物しても間に合うよな」
「……プレゼントしてくれるの?」
「ああ。一緒に選べないけど、仕方ねえよな」
「ルイス、ありがとう!!」
本当は一緒に行きたいけど、街へ私がいったら、アンドレウスに行方がバレてしまう。
ルイスが帰ってくるのを待つしかない。
揃いのアクセサリーをプレゼントしてくれると約束をしたところで、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ロザリーさま、ルイスさま、夕食の時間です」
メイドが夕食の準備が出来たと知らせに来たようだ。
「プレゼント、楽しみにしてるね」
「朝に出かけて、すぐに買って戻ってくるからな」
「うん」
私とルイスは手を繋いで、部屋を出た。
そして、食卓でクラッセル子爵たちと再会し、楽しい夕食の時間を過ごした。
☆
夕食を食べ、マリアンヌと共に浴室で汗を流し、寝間着に着替えた私は自室のベッドに寝転がっていた。
(眠れないわ……)
ロザリーとして家族や友人、恋人と楽しい日を過ごせたのはいい。
けれど、ここで眠ったら、明日が来てしまう。
フォルテウス城へ帰る日が近づいてしまう。
それに、ルイスがプレゼントしてくれるアクセサリーが楽しみで眠れなかった。
ネックレスは……、もう揃いのものがあるし、常に身に着けていられるものとすると、ブローチかブレスレットかしら。
(それとも指輪!? で、でもルイスは私の指のサイズなんて分からないだろうし……)
揃いの指輪となると、もうそれは婚約指輪ではないだろうか。
両頬を抑え、ゴロゴロと寝転がる。
ふと喜んでしまったが、ルイスが私の薬指のサイズを知らないことに気づき、冷静になった。
「……ルイスに会いたいなあ」
前回はクラッセル子爵の妨害によって、ルイスの部屋にいけなかった。
今回もそうかもしれないと、私は早々に諦め、自室のベッドで悶々としている。
コンコン。
「ロザリー、いるかしら」
「マリアンヌ。どうぞ、入って」
私の部屋を訪れてきたのはマリアンヌだった。
以前は二人で夜通しお喋りをしていたっけ。
いつものように部屋に招き入れようとすると、マリアンヌは首を横に振った。
「え、違うのですか?」
「ロザリーに渡したいものがあってきたの」
私に渡したいもの?
思い浮かばず、私は首を傾げた。
マリアンヌは隠していたものを私に見せる。
私はそれをみて顔が引きつった。
「マリアンヌ……、あなたからこれを貰うなんて」
「えっ!? ロザリーは使い方を知っているのかしら?」
「そ、その、はい。ルイスと一度使いましたから」
「まあ!! 私もお父様から貰ったのだけど『使い方はチャールズさまが教えてくれる』と言ったきりで……」
受け取ったのは、ドロッとした桃色の液体が入った瓶だった。
これは恋人たちが夜に使うもので、避妊具の一種であることをトキゴウ村で過ごしたあの一夜で体験した。
純粋なマリアンヌが、桃色の液体の用途を知っているわけもなく、クラッセル子爵も渡したきりで、使い方は夫になるチャールズに教われと彼女に伝えている。
クラッセル子爵のことだ。マリアンヌから差し出すことで、使わないという選択肢をなくすため、わざと教えていないのだろう。
「私の口から説明してもよく分からないと思うので、チャールズさまから聞いたほうがいいと思います」
「使ったことのあるロザリーもお父様と同じことを言うのだから、間違いないわね!」
クラッセル子爵の判断は正しい。
私はそれらしい理由をマリアンヌに告げ、誤魔化した。
マリアンヌは疑うことなく、私の話を信じてくれた。
「でも、どうしてこれを私に?」
「お父様がね、夜になったらロザリーにこれを渡しなさいって」
「……ということは、ルイスに会ってもいいのでしょうか?」
マリアンヌが桃色の液体を持ってきたのは、クラッセル子爵に頼まれたかららしい。
遠まわしにルイスと会ってもいいと許可を貰ったも同然だ。
「『渡せばロザリーは僕の意図を理解してくれる』とも言っていたわ」
「そうですか……」
ルイスと一夜を過ごしたことは、クラッセル子爵にはお見通しというわけだ。意図を理解できるのは用途を知っていることであるわけだし。
クラッセル子爵からルイスの部屋を訊ねるお許しが出た事には間違いない。
「マリアンヌ、訪ねて来て悪いのですが、今日は――」
「もちろん! この間は私といっぱいお話したから、今夜はルイスとお話して来てちょうだい!!」
「……お気遣いありがとうございます」
マリアンヌはまだ何も知らない。
私はマリアンヌの満面の笑みに罪悪感を覚えながらも、桃色の液体が入った瓶を持って、ルイスがいる客間へと向かった。