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思わず会いたいと答えてしまったあの日。
《ありがとう。うれしいよ》
その後は具体的には何も話が進まない。進まないことにホッとしているのと、本気じゃなかったんだと残念に思うのと複雑な気持ちだった。
《ミハルって、髪、長いの?》
〈セミロング。長くも短くもないです〉
《身長は高い?》
〈165です〉
《お?ということは仕事中は170くらいになるの?高めだね、かっこいい!》
___あ、仕事中は5センチヒールを履いてるって話したっけ?
もちろんそんなことは、でっちあげだ。
〈最近は疲れるから、ローファーとかが多いです〉
《ふーん…ね、ミハルの写真、送ってよ。見てみたいなぁ》
どきん。
私が翔馬に対して作り上げたミハル像は、現実の私とはかけ離れている。既婚者であることや身長くらいは現実的だけど。
〈私なんてとても!翔馬さんが見たら幻滅してしまうと思うから…〉
《えーっ!俺は正直に写真を送ったのに、なんかズルくない?》
〈でも、ホントに写真なんて送れるものはないですから〉
《じゃ、わかった。会おうよ!写真がダメなら実際に会ってしまお。いつがいい?》
どきん、どきん、どきん。
心臓が早鐘のように鼓動を打つ。やはり、会うことになるのだろうか。会わないと言ったらきっと、翔馬はLINEをしてくれなくなる。
___でも、会ってしまったら?
ただで済むわけがない、と思う。カラダ目的じゃないとは言い切れない、と思う。
ふと、数日前の夫と子どもたちの会話を思い出した。
「えっ!この女優さん、お母さんより年上だよ?」
「お母さんはもう終わってるからなぁ、仕方ないよ」
終わってる…でも、反論できなかった。それを思い出したら、翔馬と会ったとしても女としては見られないかもしれない。もし、求められたらそれはそれで私は終わってないという自信にもなる…かもしれない。
〈会ったとしても、翔馬さんはがっかりすると思います。家族にも女として終わってるなんて言われてるし〉
《そうかな?こうやってやり取りしてるミハルは、俺にとってはとても魅力的な女だよ。会って確かめたいな、そんなミハルを》
___魅力的?私が?
外で何をしてるかわからない夫、私を女として終わってると言った夫を見返してやりたくなった。
〈わかりました。でも、美容院に行ったりしたいし、仕事の都合もあるから少し先でもいいですか?〉
《じゃあ、そうだな、20日後はどう?》
3週間後。頑張ってダイエットして、おしゃれの練習をすればなんとかなるかもしれない。
〈はい、わかりました〉
《やったね!これで仕事のモチベーションもあがるよ。ありがとう、ミハル!》
うれしそうな翔馬のコメントに、私もうれしくなった。それはまるで、人生初めてのデートに誘われたようだった。