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えぇ……めちゃくちゃ好きなんだけど!本当に何回昇天したことか……
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい社長〜」
小さい体を一生懸命動かして仕事終わりの私を玄関で出迎えてくれる剣持さん
衝撃的な出会いから、さらに半年が経ち2人は、すっかりこの家に馴染んでいた
最近では、何が気に入ったのか執拗に『社長』呼びをしてくる
「……。」
「?」
私の顔をじっと見て何かを待っている様子の彼に、ああ!と合点がいき両脇に手を入れて抱える
片腕に座らせるように抱っこすると上機嫌に、んふふと笑った
「今日は、僕特製のカレーですよ!」
「それは、美味しそうですね」
話しながらリビングに向かうと鼻腔をくすぐる良い香り
一緒に暮らすうち剣持さんの特技が、料理だと知った
男一人暮らしである事と多忙な日々のせいで味気ない食事だった私の生活に彩りを与えてくれている
しかも、何をリクエストしても美味しい
料理をしたいと提案された時は人形の体でどうやって?と疑問だったが、問題はすぐに解決した
「あ、ハヤトさんお帰りなさい」
「ただいま伏見さん」
人間の姿に化けた伏見さんが、あれこれ指示を出されて動き回っている
「今日も忙しそうですね」
「本当っスよ!刀也さん人使い荒いんだぜ〜」
見た目は大学生くらいだろうか?目鼻立ちのハッキリした美青年で、唯一ミステリアスなのは瞳の色が金色である事
初めて、この姿を見た時は、流石に私も驚いた
見知らぬ人がいきなり家にいたら警察呼んじゃうでしょう普通
「あ!ガクくん、そっちじゃなくてあっちのスパイス使って」
「えー?これどう違うんだぁ?」
「全然違いますよ〜」
私の腕の中から指示を飛ばす剣持さんは、とても楽しそうでいきいきしている
実質これは、剣持さんではなく伏見さんの手料理なのでは?
「あ」
笑顔を見ていて思い出した
「剣持さん…プリン買ってきましたよ、お好きでしょう?」
「!!」
彼は、花開くように顔を綻ばせ一瞬喜びを露わにするがハッと我に返り恥ずかしさで、すぐにそっぽ向いてしまう
「あ、ありがとうございます…」
羞恥を感じながらも、お礼は絶対に言う剣持さんが面白くて微笑ましい
「どういたしまして」
「何ニヤけてんですか」
「気にしないで下さい」
買った甲斐があったな
「2人とも、ありがとうございました。とても美味しかったですよ」
「お粗末様だぜ」
3人でワイワイ談笑しながらの食事を終え私と伏見さんは、後片付けを始めた
今では皿洗いが、すっかり私の担当になり、それぞれが役割分担する事で意外と共同生活は上手くいっている
「剣持さん?」
ふと視線をやると目を擦りながらフラフラと寝床にしている鞄へ向かう剣持さん
足下が覚束ず実に危なっかしい
「…すみません、2人とも僕もう眠いので先に休ませて頂きますね」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おやすみ刀也さん」
「…最近、すぐに眠ってしまいますね…お疲れなんでしょうか」
「……。」
2人して閉じてしまった鞄を見つめる
何気なく呟いた私の言葉に真剣な顔で押し黙ってしまった伏見さんが気になったが、これ以上何をどう訊いて良いのかわからず皿洗いを再開した
シャワーを浴びてラフな格好になった私は、外の空気を吸いたくてベランダに出た
タイミング良く、今日は綺麗な満月らしい
ボーッと出来る幸せを噛み締めつつ先程の2人を思い返す
剣持さんは、2週間程前から眠る時間が極端に長くなった
睡眠って必要なんですか?と伏見さんに尋ねると昔は必要なかったと含みのある回答が返ってきて、それきり口を閉ざしてしまった
時折、長く一緒に過ごしてきた2人にしかわからない空気感がある
それを少しだけ寂しいと思うくらいには、私も情が移っているみたいだ
「ハヤトさん、ちょっといいか?」
ベランダの引き戸が静かに開けられ伏見さんが遠慮がちに顔を出す
「ええ、どうしました?」
「あー、えっと…ハヤトさんに話しとかないといけない事があってさ」
「…剣持さん、ですか?」
「正解…そりゃわかるよなぁ」
伏見さんは、1人分の距離を空けて私の隣に来ると空を見上げた
「ハヤトさんって良い人っスね」
「なんです?急に」
「いひひ、ここまで刀也さんが心許してる相手って珍しいんスよ?いや、初めてかもしれない」
「そう、なんですか」
「ああ…だからこそハヤトさんには、言わなきゃって思ってる。俺のコト。刀也さんのコト」
月を見ているようで何処か遠くを見ている彼に強い不安を抱く
スゥッと瞳が細められ、月と同じ輝きを持つ目がこちらを向いた
「お願いだハヤトさん、俺と一緒に刀也さんを救ってくれ」
つづく
おやおや?雲行きが怪しくなってきたぞ
ここからシリアスモード入りますので、ほのぼのしてないと無理という方は残念ですがお帰りになった方が良いかもです。
あ!人形の剣持が、ご飯食べるの?とか寝るの?とかごもっともな質問は、ガクくんに訊いて下さい
伏見「え?そこは、ほらファンタジーだから…」