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#青春恋愛
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夏希(なつき)
166
奇蹟あい
1,760
地下資料室。
静寂。
誰も。
何も言えなかった。
「……星羅?」
玲の声。
しかし。
星羅は答えない。
ただ。
自分の胸元にあるペンダントを。
強く握りしめていた。
「……」
「星羅」
「……私」
ようやく。
小さな声が漏れる。
「今……思い出した」
「何を?」
「七年前じゃない」
「……?」
「もっと前」
星羅は。
頭を押さえる。
「私が……まだ小さかった頃」
断片的な記憶。
白い部屋。
誰かの手。
そして。
泣いている自分。
『大丈夫』
知らない女性の声。
『怖くないよ』
『……』
『あなたには、守ってくれる人がいるから』
幼い星羅が。
顔を上げる。
『誰?』
『もうすぐ会える』
女性が笑う。
『あなたが、その子を救うの』
――場面が変わる。
幼い玲。
泣いている。
『お母さん……』
そして。
その隣に。
幼い星羅。
『大丈夫』
誰かが。
二人を見つめている。
『この子を守って』
『この子が』
『あなたの未来だから』
「……!」
星羅が。
目を開く。
「星羅!」
玲が。
肩を支える。
「大丈夫か?」
「……うん」
「顔色が悪い」
「大丈夫」
星羅は。
玲の顔を見る。
そして。
少しだけ笑う。
「玲くんがいるから」
「……」
「平気」
玲は。
何も言わず。
星羅を支え続ける。
「……」
美咲が。
震える声で言った。
「今の記憶」
「……?」
「私も知らない」
「美咲……」
「でも」
美咲は。
黒いファイルを見つめる。
「その女性のことなら」
「……!」
玲と星羅が。
同時に振り向く。
「知ってるのか?」
「少しだけ」
美咲は。
ファイルの中から。
古い紙を取り出した。
「これ」
そこには。
『保護対象:S』
『出生記録:秘匿』
『血縁情報:非公開』
「……」
星羅が。
紙を見る。
「これ」
「……」
「私のこと?」
「そうだと思う」
玲が。
紙を読む。
「出生記録が秘匿?」
「うん」
「なんでだ?」
「分からない」
美咲は。
首を振る。
「でも」
「……」
「あなたの家族について」
美咲が。
ゆっくり口を開く。
「普通じゃない記録がある」
「……」
「星羅ちゃんは」
言葉を選ぶように。
「昔から」
「……」
「誰かに守られていた」
星羅は。
黙っている。
「私が知っているのは」
美咲が続ける。
「あなたが幼い頃から」
「……」
「何人もの大人が」
「……」
「あなたの周りを監視していたこと」
「……」
「そして」
美咲は。
玲を見る。
「玲くんも」
「……?」
「同じだった」
「俺も?」
「うん」
玲は。
眉をひそめる。
「俺の何を?」
「あなたの周りにも」
「……」
「ずっと誰かがいた」
玲は。
しばらく黙る。
「……じゃあ」
「?」
「俺たちは」
「……」
「子供の頃から」
玲が。
星羅を見る。
「誰かに見られてたのか」
「……そう」
美咲が答える。
「でも」
「……」
「二人が出会ったのは」
美咲は。
少し笑った。
「監視していた人たちにとっては」
「……?」
「予想外だった」
「どういうこと?」
「二人を同じ場所に置いたのは」
美咲が。
言う。
「最初は偶然だった」
「……」
「でも」
「……」
「二人が仲良くなってから」
美咲は。
目を伏せる。
「状況が変わった」
「……」
「二人を引き離そうとする人と」
「……」
「二人を近づけようとする人」
「……」
「二つのグループができた」
玲の表情が。
険しくなる。
「だから」
「……」
「俺たちは」
「何度も引き離されて」
「……」
「何度も再会したのか」
「そう」
星羅は。
黙って聞いていた。
そして。
「……でも」
玲を見る。
「一つだけ」
「ん?」
「私が玲くんを好きになったこと」
星羅は。
自分の胸に手を当てる。
「これは誰にも決められない」
「……」
「私自身が」
玲を見る。
「玲くんを好きになったの」
「……」
「私自身が」
さらに一歩近づく。
「玲くんと一緒にいたいと思った」
玲は。
静かに頷いた。
「俺も同じだ」
「……!」
星羅の顔が。
少し赤くなる。
「……本当に?」
「ああ」
「誰かに操られたんじゃなくて?」
「違う」
「……」
「俺が選んだ」
その言葉に。
星羅は。
安心したように笑った。
「……よかった」
「そんなに心配だったのか?」
「うん」
星羅は。
玲の腕を抱く。
「だって」
「……」
「もし私たちの恋まで誰かに作られたものだったら」
少しだけ。
声が震える。
「私、耐えられなかった」
「……」
「でも」
玲の手を握る。
「玲くんが自分の意思で私を選んでくれたなら」
微笑む。
「それでいい」
そして。
玲の肩に。
そっと頭を預ける。
「……もう誰にも邪魔させない」
美咲が。
そんな二人を見て。
小さく笑った。
「やっぱり」
「……?」
「二人は変わらないね」
「何が?」
「何度秘密を知っても」
「……」
「最後にはお互いを選ぶ」
その時。
資料室の奥から。
カチッ。
何かの音がした。
「……?」
玲が振り返る。
棚の奥。
小さなモニターが。
突然点灯する。
『最終観察記録――補足』
「……!」
画面に。
古い映像が映る。
2017年。
幼い星羅。
幼い玲。
そして。
二人を見つめる女性。
「……この人」
星羅が。
画面に近づく。
女性が。
幼い星羅の髪を撫でる。
『この子を守って』
玲が。
息を呑む。
「……この声」
星羅も。
震える。
「……私」
女性の顔が。
少しずつ映る。
そして。
画面が。
鮮明になる。
「……!」
玲が。
目を見開く。
「嘘だろ……」
星羅も。
完全に固まった。
「……そんな」
そこに映っていた女性は。
二人が知っている人物だった。
学校の教師でもない。
美咲でもない。
佐伯でもない。
まして。
知らない他人でもない。
――星羅の母親。
「……お母さん?」
星羅の声が。
震える。
映像の中。
星羅の母親は。
幼い玲と星羅を見つめて。
こう言っていた。
『この二人は』
『絶対に引き離してはいけない』
「……」
『もし二人が離れたら』
『あの子が壊れる』
玲が。
息を呑む。
「……あの子?」
映像の星羅の母親は。
さらに続ける。
『だから』
『玲くんには何も知らせないで』
『星羅にも』
『何も教えないで』
「……」
星羅の母親が。
最後に。
カメラを見る。
『二人が大人になるまで』
『この秘密を守って』
映像が。
そこで終わる。
「……」
誰も。
声を出せなかった。
星羅は。
ただ画面を見つめている。
「……お母さんが」
玲が。
静かに言う。
「俺たちを?」
「……」
星羅は。
答えられない。
しかし。
その直後。
モニターに。
新しい文字が表示された。
『補足記録――対象Aの出生について』
「……!」
美咲の顔が。
青ざめる。
「これ以上は……」
しかし。
玲は。
画面を見る。
そこには。
一行。
『天城星羅は――』
文字が。
ゆっくり表示される。
『あの事件の「被害者」ではない』
「……え?」
星羅が。
呟く。
続いて。
『彼女は――』
そこで。
画面が暗転した。
「……!」
玲が。
モニターを叩く。
「おい!」
映像は。
戻らない。
そして。
暗い画面に。
最後の一文だけが浮かんだ。
『本人に聞け』
星羅は。
何も言わなかった。
ただ。
自分の手を見つめる。
「……私」
震える声。
「何なの……?」
玲が。
星羅の手を握る。
「星羅」
「……」
「大丈夫だ」
「……」
「俺がいる」
星羅は。
玲を見る。
そして。
涙を浮かべながら。
微笑んだ。
「……うん」
しかし。
その瞳の奥には。
今までとは違うものがあった。
恐怖。
不安。
そして。
自分自身への疑念。
――第三章。
最後の秘密は。
星羅自身へと。
向けられた。
コメント
1件
うわ……第51話、めちゃくちゃ重かったですね🥀 星羅が「自分で玲くんを好きになった」って言ったとこ、本当に刺さりました。 誰かに操られた恋じゃないって、自分で選んだって言えるの、強さだと思います。 でも最後の「本人に聞け」と「被害者じゃない」の一文で全部ひっくり返されました…… 星羅の母親が映像に映ってたのも衝撃。 星羅自身が自分を疑うラスト、第三章の終わり方としてめちゃくちゃ効いてます。 続きが気になって仕方ないです。春さん、ありがとうございます🤍