テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
とある晴れた日
イギリスが、海と約束があると言って日帝兄弟の住まう屋敷を訪れた。
しかし、もうかれこれ四時間以上も二人が部屋から出てくる気配がない。
そろそろ日が落ちようとしていた。
居間で寛いでいた陸は、隣でイギリスに貰ったスコーンを嬉しそうに食べている海空に声を掛ける。
「……長過ぎないか?」
「ん?うん。確かに。勉強に熱が入っているだけだと思うけど……心配だし、様子を見てこようか」
そうして、二人は立ち上がると海の自室へと向かった。
「海くん?」
海空が声をかけようとした瞬間ーー
扉の向こうからガタガタという音と、その後に途切れ途切れの会話が漏れ聞こえてきた。
「……イギリス、さん……これ、凄いです……っ」
「もっと近くで……ほら、手を貸してください」
「あっ……おっきぃ……!」
海の上擦った声が聞こえた瞬間、陸は目を見開くと扉を蹴破らんばかりの勢いでこじ開けた。
「うちの海に何やってんだこの野郎!!」
「海くん無事!?」
慌てて二人が駆け込むと、そこには一糸まとわぬ姿ーーではなく、手に戦艦の模型を持って、目を見開いて二人を見つめている海と、笑いを堪えるような表情を浮かべるイギリスの姿があった。
机の上には地球儀が置かれ、その隣には海図が広げられている。
(本当に勉強していただけ、なのか?)
陸と海空が呆然としていると、海がハッとした顔で立ち上がった。
「なっ、なんですか二人共! イギリスさんの前で失礼でしょう!」
海は慌ててイギリスに向かって
「うちの兄弟がすみません」と頭を下げる。
「構いませんよ」と笑顔で応えたあと、イギリスは懐中時計を取り出した。
「おや、もうこんな時間でしたか。随分と長居してしまったようですね。お二人も心配で様子を見に来てくださったのでしょう?」
「私はもっと居てくださっても構いませんのに……」
「いえ、そろそろお暇します。またすぐに会えますよ」
笑ってそう言いながら、イギリスは優しく海の頭を撫でた。途端に、海は嬉しそうに顔を綻ばせる。
一見微笑ましい光景だが、その瞬間イギリスが勝ち誇ったような笑みを浮かべた事を陸と海空は見逃さなかった。
「海っ!」
「海くん、こっち来て」
「ちょっと、どうしたんですか二人共!?」
警戒したように海の手を引いて背中に隠すように前に立つ二人に、海は「イギリスさんのお見送りをするんです」と頬を膨らませながら力任せに陸の背中を叩いた。
その様子をじっと見ていたイギリスと陸は目が合った。
瞬間、イギリスはにっこりと笑い、陸は鋭い目つきで返す。
「……何か?」
「いいえ、随分兄弟想いだと関心していたんですよ」
イギリスが含み笑いを浮かべながら答えると、陸のこめかみに青筋が浮かび上がる。
「見送りは結構です。ではまた」
「――アイツっ、立ち入り禁止にしてやる!!鎖国だ鎖国!」
「何馬鹿なこと言っているんですか、私の師匠ですよっ!」
「俺も陸くんに同意だな」
「海空まで!?」
***
(褒めたつもりだったんですけどねぇ)
最近よく日本を訪れるのは、自分とは縁遠い、軽快な兄弟のやり取りを見るのが楽しみになっているからだという理由もあった。
自分を慕ってくれている愛弟子の海は勿論のこと、
敵意を隠そうともせず正面から挑んでくる陸と、その後ろで全体を見渡し警戒を怠らない海空の事も、
そして今この場には居ないが、寡黙で任務に忠実な陸空の事も、イギリスは成長が楽しみだと密かに目をかけていた。
(彼らのやり取りも、仔犬が戯れているようでとても微笑ましいですし)
「さて、次の手土産は何にしましょうか」
廊下に響く賑やかな兄弟の声を背に聞きながら、イギリスは心の底から楽しそうにクスクスと笑った。