和田は一度、言葉を切った。
「コイツはな、親にすら見棄てられてるんだぞ。毎日、自分の子供がズタボロになって帰ってきても、気にも止めないバカ親に、な」
ハンドボールを掴むような手付きで和田は根岸の頭の上に手を置くと、根岸の顔を覗き込んだ。
「だろ?根岸。パパもママも、自分の実力以上の大学を受験して何度もすべってる、身の程知らずの長男に夢中なんだよな?バカ親にバカ息子。馬鹿って劣性遺伝の筈なんだが、お前の一族だと優性遺伝なんだな。メンデルもびっくりだ」
自分だけではなく、家族まで馬鹿にされた悔しさに、根岸は奥歯を噛み締めていた。
それを見た和田が、更に追い込みをかける。
「なあ、悔しい?悔しいよなぁ。悲しいけど、これが現実なんだわ」
「うわっ。きっつーい。和田君、本気でネギっちの心を折りにいってるわぁ」
増田が感慨深げに言う。
「それとな、今まで敢えて言わずにいてやったんだが……根岸、お前、いつも心の中で折りしてんだろ?」
「〜〜〜ッ!」
和田の思わぬ言葉に、根岸は驚いた表情で和田の顔を見返した。
「バ〜カ。俺は超能力者じゃねぇよ。殴られたり蹴られたりしている時に、お前が小さい声で、神様とか、助けて下さいって言ってるのを皆、聞いてるんだわ」
和田が冷たく笑う。
「この半年間、必死こいて祈ってきたみたいだが、結果はこれよ。調査兵団と同じで、何の成果もなかっただろ?そりゃそうよ。だって、お前、神様にすらも見棄てられてんだもん」
背後で白井がプッと吹き出すのが聞こえた。
「和田君、ひど過ぎぃ。そこまで言われたら、ネギっち、ジ○ツするしかないじゃん」
バカ女が笑ってる。
「ああ、そうだな。死ねばいいと思うよ」
和田がそれに返す。
「なぁ、新学期も始まったことだし、そろそろ新しい奴隷が欲しくないか?」
シネ。コンナ奴、シンデシマエ。
コバンザメ野郎と野球バカが、それに対して何か言っているが、もう何も聞こえない。
シネ。コイツ等モ、シンデシマエ。
耳鳴りが酷くて何も聞こえない。
もう、何も聞きたくない……
これ以上、心を抉られたく無い……
度を越した怒りで、 一心不乱に他者の死を望む愚者に、根岸は成り果てていた。
唯、ひたすらに心の中で、呪詛を吐く。
死ね、死ね、死ね。コイツ等全員死に絶えて、地獄の底で焼け焦げてしまえ。
ニヤニヤ笑いの増田が、拳を握って根岸の前に立つ。相変わらず品の無い笑顔だった。
そして、根岸は気付く。
そうだ、神様。アンタ、僕のことが嫌いなんだよね。
だったら……
……だったらもっと早く、こう祈るべきだったんだ。
ハイル、サタン。
偉大なるサタン様。貴方の下僕をお導き下さい。お助け下さい、サタン様って。
そして−−
雷光。
数秒遅れて、岩壁が崩れ落ちるような雷鳴が轟いた。
先程まで星空が広がっていたのに、気が付けば上空は雲が厚く立ち込めている。
まだ秋だというのに、氷のように冷たい突風が、公園を吹き抜けていった。イジメ・グループのメンバーは、思わぬ寒さに身を縮こませた。
根岸の背後にいるのは白井の筈なのに、根岸の耳元で凛とした女性の声がした。
「たった今、貴方の願いは聞き入れられました」と。
コメント
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タイトルはそういう事だったんですね 続きが楽しみです