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さて、約束の日になった。俺はエリック達、それと俺の師匠兼姉設定のアリアと共に、ギルドマスターの部屋でアーヤ一行と最後の打ち合わせを終え、馬車へと向かうところだ。


「カーズ、そしてアリア殿、王女とこの馬鹿共をよろしく頼むぞ」


エリックにユズリハ、酷い言われようだな。それだけ付き合いも長いんだろうしな。


「「うっさい、ジジイ!」」


この二人、やっぱ息ぴったりだな(笑)


「はーい、お任せあれー」


軽いアリア、平常運転だ。冒険者登録はしてないが、俺の姉で師でもあるとのことでステファンも同行することに異議はなかった。お主の師なら問題ないじゃろ、ってことだ。エリック達が強く推薦したのもあるけどね。


「わかりました、やれることはやってきます」


馬車で待っていたのは護衛の2人、優男のギグスに、大柄なヘラルド。騎士の鎧に身を包んでいる。


「久しぶりだな、嬢ちゃん」

「息災で何よりだ」


説明が面倒くさいので、俺が男だと魔眼で認識を書き換えておいた。それでもギグスの嬢ちゃん呼びは変わらないのだが……。


「ちゃんと護衛の任務は果たしたみたいだな」


俺の皮肉にも笑ってくれる、やっぱいい奴らだなこの二人。エリック達ともすぐに意気投合したようで、問題なく馬車に乗り込み、旅はスタートだ。騎士と冒険者とか、いがみ合いがありそうなテンプレ展開を予想してたが、この二人はそんな態度は取らずに楽しく対等に話している。


アーヤの側には侍女二人が付き添っているため、俺は特に話してはいない。必要があれば通信で会話はできるしな。

それよりもピクニック気分ではしゃぐ姉設定の女神が隣でとてもウザい。とにかく俺にベタベタしてきて、実にうるさい。食い物与えとこうかなあ。

そのせいでアーヤからは姉とはいえ微妙なジト目で見られている。なんだか実にいたたまれない、だが見た目は双子のようなものだし、誰も疑うことはないけどさー。静かにして欲しい。

それに結構豪華な馬車だがやっぱり揺れる、現代の車で快適な運転をしてきたせいでとてもお尻が痛い。フライで少し浮いて衝撃が来ないようにした。痔になりそうだしな。


俺は常に周囲に探知を張り巡らせて索敵しているし、馬車にもアリアが厳重に物理・魔法結界を張ってくれた。奇襲を受けてもまず確実に跳ね返される強度だ。

クラーチ王国に入るまで約3日、必ず奇襲があるということは、ハゲ執事から聞いている。他国で起こった事件ならその国の責任にしてしまえるということだ。汚い、どうしてこう悪いことを考える奴って汚いんだろうかね。

新たな情報を得るためにも、敵の頭は必ず捕縛しないといけない。先手を取るためにもこうして探知を常時発動中だ。王国領内に入ってから王都までは4日程、約1週間。


この数日、俺はとにかく寝ているときの魔力コントロールを必死に身につけた。とりあえず胸が膨らむのだけは何とかできるようになったけど、性別は変わるんだよね。ぱっと見は分からないから誤魔化せるけど。馬車での宿泊をしながら3日目、結界の御陰で見張りも必要ない、みんな元気なままだ。


さてそろそろ国境近くの森を横切る街道に差し掛かる。情報通りならこの辺りだ、ビンゴ、探知に怪しい奴らが馬車の周囲を囲むように待ち伏せている反応が引っ掛かる。約20人、これまた大人数で来たな。だがここで網に掛かるのは想定済みだ。


「さて、情報通りだ。20人程度だが、いけるか?」


この場はエリック達に任せることになっていた。というか譲ってくれなかったんだけどね。


「へへっ、待ってたぜ。任せなカーズ。アリアさんとの修行の成果を見せてやるさ」

「二人の出番は最後の捕虜の尋問だけだけどね」


喜び勇んで馬車を飛び降りる二人。


「任せるけどやりすぎるなよー」

「がんばってねー」


アリアは呑気に欠伸をしている、まあ稽古であれだけしごいたんだ、負けるわけないだろうさ。


(カーズ、あのお二人だけで大丈夫なの? あまりにも多勢に無勢じゃない?)


アーヤから念話が届く。


(ああ、言ったろ? 信頼できる腕利きだって。あいつらは強い、何も心配しなくていいよ)


「作戦通り、護衛の二人は姫を任せる。多分出番はないだろうけどな」

「お、おう」

「わかった、俺達は自分の仕事に専念しよう」


聞き分けが良くていいことだよ、ギグスにヘラルド。どのみちここに攻撃は届かない、アリアが結界を張ってるんだ。


「さて俺は上から戦況を見てくる。姉さん、どうする?」

「私はパスー、おやつでも食べながらスキルで視れるしねー」


ひらひらと手を振りながら、スイーツをモグモグ。まあアリアが出張る必要ないもんな。


「わかった、いざってときはよろしく」

「そんなときはないでーす」


こんにゃろ、そりゃお前の基準だろ。俺はほいっと馬車の上に乗り、気配遮断をかける。さてさてお手並み拝見っと。馬車に近づく奴だけ相手をしてもいいが、あの二人がうるさそうだしなー、それに結界で弾かれるだろ。高みの見物といきますか。アリアはお菓子に夢中だし。


賊共が前方から姿を現す前に、二人は外で戦闘準備を始める。ストレッチしてるよ、余裕だなー。


「おい! いるのは分かってるぜクソ野郎共! さっさと出てきやがれ!」


エリック、お前の科白の方が悪役だぞ……。その声に驚き、森の茂みの中から次々に出てくる賊共。


「何だこいつら! 先に出て待ち構えてやがるとは、どうなってんだ!?」


賊共は襲撃が知られていたことに驚きの表情だ。


「さーて、答える義理はねーな」

「アンタ達はここで壊滅ってことは教えてあげるわよ」


おお、自信満々だな。とりあえず鑑定、全員15~20、30が1人、こいつが頭だな。


「二人とも、一番奥の大剣使いが頭だ!」

「OK、じゃあ雑魚共から殲滅だな、俺は右手側をやる、ユズリハ左側を頼むぜ」

「いいわ、おいで。私たちが遊んであげるわ」


この二人のレベルはここまでの期間の鍛錬で100を超えている。普通の人間の強さじゃない。ぶっちゃけ素手でも勝てるレベル差だ。


「お前ら、いちいち動揺するな! 予定通り王女を捕らえろ、所詮二人だ、さっさと殺せ!」


怒声と共に賊共が二人を取り囲む。


「いくぞオラァ!! 舐めてんじゃねーぞ!」


お、モブAが仕掛けたか、エリックにナイフの2刀ねー。


バキィン!!


手刀でナイフを叩き折るエリック。驚き、折れたナイフを見るモブA。


「なっ、なんだこいつ!!」

「遅え!」


ドゴッ!!


右拳を顔面に叩きつけるエリック。おーおー、吹っ飛ぶなー。


「多数でかかれ! 刻んでやれ!!」


5人程の集団がそれぞれの獲物を手にして一斉に飛び掛かる。だが次の瞬間には全ての武器をエリックに奪い取られた。


「だから遅えってんだよ!!!」


ドゴーーン!


体術のみで全員を吹き飛ばすエリック。おー、強烈だなー。


「カーズやアリアさんに比べたら止まって見えるぜ。バルムンクを使うまでもねえ」


バルムンク・MARKⅡ、また創ってやったんだよね、もっと強度を上げて。さてこっちはどうなってるかな?


「おい、ハーフエルフ、命が惜しけりゃとっとと武器を捨てろ!」

「テメェは魔導士だな、この人数と距離じゃ勝ち目はねーぞ!」


モブB,Cよ、それを言ったらダメだよ、死亡フラグだよ。


「そう? じゃあ試してみたらいいんじゃない?」


杖を構えるユズリハ、その杖が魔力を吸収して形状を変える!


グングニル・ロッド。これも俺が約束通り創ったものだ。普段は約1.5m程の長さの杖の形状だが、魔力を込めることにより、先端に付いた魔力ブーストの役目を持つ魔石が刃の様に変化する。長さも状況に合わせて調節可能だ。魔法だけでなく、棒術、槍術も使いこなせるようにした武器だ。

そして北欧神話の槍・グングニル同様、投擲しても手元に戻ってくるようにした。MPが減っても囲まれても、中近接から遠距離まで攻撃可能となる。俺が頭を捻って創った結構気に入っている武器だ。神話のデザインは分からないけど、色は赤にしといた。だって強そうだろ?

勿論ロッドのままメイスのように打撃武器としても使用できる強度にしてある。


「なっ、何だその武器は!?」

「ハアアアアアアア!!!」


槍となった杖を伸縮自在な鞭のように振り回し、賊共を切り刻むユズリハ。


「「「ぎゃあああ!!!」」」


一振りで数人の命を刈り取る。打撃だけで充分なのになあー、思いっきり刃で斬りつけてるし。自分を取り囲んでいた賊共を肉片に変えると同時にロッドへ戻し、杖の先の魔力ブースターで威力の増幅された魔法が発動する。


ズドドドドドド!!!!!


空中から鋭利な氷柱状の雨が残りの賊共へ降り注ぐ、|氷の雨《アイシクル・レイン》か、しかも逆属性の無詠唱。やるなあー。ていうかユズリハの方が脳筋だよな、全く容赦なしだし、悪即殺って感じだ。彼女が相手をした賊共は全員死んでるし。完全に|やり過ぎ《OVERKILL》だよ…。


「少しは加減しろよな」


お前もあんまり言えないけどな、エリック。


「嫌よ、こういう奴らはさっさと殺した方が世のためなのよ。悪即殺ね」


それは言えてる、魔物になって復活するんだけどね。さて残りは頭だけだな。エリックがズンズンとそいつに向かっていく。


「バカエリックー、殺したらダメよー」

「お前が言うなよな」


呆れ顔をするエリック。賊の頭は目の前で起きたことに呆然としている。


「何なんだ、お前ら!? こんなの聞いてねえ、護衛は雑魚だと聞いてたぞ!」


そら情報漏れてるからね、まあ、ざまぁって感じだけど。暴れ足りないエリックが頭に迫る。


「さーてどうする? やるなら相手になるぜ、部下を放って頭が逃げるとかねえよなあ」


逃げても無駄だけどね、俺が光歩で捕まえる。


「当たり前だ! テメェら俺一人でぶっ殺してやる!」


それは殺られる奴の科白なー(笑) 肩から大剣を抜く頭。さっさと投降するなりした方がいいのに。わざわざ自分で死亡フラグ回収しに行かなくていいのにな。

この世界の賊は頭悪いのか義理堅いのかわからんなあー、普通実力差分かれば逃げるだろ。無駄に勇敢だ。そんな気持ちがあるなら普通に冒険者でもやればいいのに。


「お、いいねえ。しかも俺と獲物は一緒じゃねえか。来な、相手してやるからよ」


仁王立ちで待ち構えるエリック。ほほう、バルムンク使わないのか?


「言われなくてもいってやらあああ!!」


大剣を振り回す頭。だが当然エリックにはヒットしない。躱したり、腕に装備している鉄鋼のような籠手でいなしたりなど、全て捌かれる。


「くそっ、当たらねえ! でけえくせになんて動きしやがる!」

「お前さ、大剣振り回してるくせに、その特性を知らねーのか?」


お、どうした急に?


「何のことだあ!!」


スッと撃ち下ろしを躱すエリック。


「大剣の弱点、デケェから攻撃が単調になる。そして読まれやすく、カウンターに弱い」

「ブフッ!!」


ユズリハが吹いた。いや、まあね、それお前が言われてたことじゃん。何で偉そうに講釈たれてんだ?


(あはははー! エリック面白過ぎますねえー)

(だなあ……)


馬車の中からアリアからの念話だ。受け売りというか、そのまんまだな。笑える。


「つーことで俺が扱い方をレクチャーしてやるぜ、構えなオッサン」


バルムンクを抜き、そして片手で突きの構えを取る。


「調子に乗るなよ、クソガキがー!!」


本当だよ。攻撃に転じようとする頭より先に、エリックが訓練でアリアに何度もボコられた突きを主体にした隙の少ない攻撃で攻め、わざわざ躱せるような大振りから体術に繋ぐなど。やられてたそのまんまじゃねーか。


「何この茶番?」


ユズリハはもう腹を抱えて大爆笑だ。アリアが笑う念話も聞こえる。俺も笑いたいけどさ、一応任務だしね、こらえてんだよ!

ということで最後は頭の大剣をバルムンクで破壊して終了。最後までアリアの真似じゃねーか、茶番過ぎてさすがに堪え切れなくて笑った。


そして今リストリクションで拘束状態だ。さて、前回のように口を割らせる前に死なれては困る。鑑定すると、やはり闇魔法による呪いがかけられているようだ。口を割ると発動する類の毒だ。こういうときはアリアに相談。


「闇魔法の|カース《呪い》ですねー、術者の力量次第で様々な呪いをかけられるので厄介なやつですー」

「なるほど、じゃあ聖魔法の|キャンセレーション《解呪》でいいか?強めにかければ解けるんじゃないか?」

「んーそうですねー、結構強い魔力を感じるので『極』レベルで解いた方がいいでしょうねー、『強』でも多分大丈夫ですけど、念のためにねー」

「じゃあそれでやってみよう」


頭の眼前に手をかざし、発動させる。|キャンセレーション《解呪》・|極《きょく》、聖なる光に包まれて、呪いが黒いオーラとなって体から抜けていった。無事浄化出来たようだ。


「ふぅ、これでいいな。もう鑑定しても痕跡は視えないし」


エリックにボコられて朦朧としている賊の頭に軽く回復魔法をかける。これで意識も回復したようだ。


「じゃあこれから尋問だ、嘘を吐いてもバレるからな。お前は誰の命令でこの馬車を襲った? 既に執事のワルドから大体は聞いているがな」


首元にはエリックのバルムンクが突き付けられている。


「あのジジイ、しくじったのか。道理で情報と違ったはずだ。もうジジイがゲロったならそんなに大したことはそれ以上知らねえな。王国の宰相ヨーゴレの依頼だ、そして護衛が雑魚になるように騎士団長のカマーセがこの任務を出している。聞いた話じゃ副団長の位置人コモノーも協力者ってことだ。宰相は俺達に依頼を持ちかけるのにあのジジイと一緒に部下を送ってきた。そいつから変な魔法をかけられてから逆らえなくなっちまった。さっきそこの嬢ちゃんが解いてくれたみてえだが。そいつは人間には思えなかった。何やら大掛かりな計画を企んでいるようだったぜ。宰相よりもその部下の何だっけか、オロス……、そうそんな名前だった。そいつが糸を引いてるらしいと思うぜ。あの雰囲気、魔人や悪魔かもしれねえ。それと国王が病気というのもそいつらが何かしらの関係があるってことだ。俺が知ってるのはこのくらいだ、嘘は吐いてねえぞ」

「どう? アリア姉さん」

「うーん、嘘は吐いてないですねー。あのジジイの証言とほぼ一致しますしねー」


アリアは正義と公平の女神アストラリアだ、その固有能力で嘘を見破ることができる。その彼女が言うのだから間違いない。


「よし、とりあえずお前はこのまま連行する。大事な証人だしな。」


拘束したまま|異次元倉庫《ストレージ》に突っ込む。俺はここまでのやり取りの間も探知を続けていたが、ずっとつかず離れずの距離を取ってこちらを監視しているような奴がいることに気付いていた。逃げられては困るので知らないふりをしていたが、そろそろ伝えてもいいだろう。


(みんな聞いてくれ、賊共と俺達を離れたところから監視している奴がいる。約700m、しかも距離的に一瞬で拘束出来そうにない、どうしたもんかな?)

(やっぱりカーズも気付いてましたかー、うんうん、お姉ちゃんは鼻が高いですよー)

(わかってたなら言えよな……。姉さん)


全くこいつは。


(で、どうすんだ? カーズがそう言うってことは俺やユズリハじゃあまず無理だぞ)

(そうね、私達じゃあそんな距離は捕まえられないわ)

(んー、じゃあ私が……行くのは面倒なのでー、カーズにバフをかけますからそれで向かってくださーい。気配遮断を忘れないようにー)


こいつ、面倒くさいとか、正直過ぎるだろ。


(わかった、頼む姉さん)


気配遮断を発動する。そこへアリアがペガサスブーツへ|速度上昇《アクセラレーション》をかける。ペガサスブーツと呼応して効果が格段に跳ね上がる。ペガサスアクセラレーションか、このブーツがあって初めて成り立つ威力のバフだな。


(じゃあ空から向かってくださいねー、魔力隠蔽もかけておきましたから、向こうから探知されないはずですよー。接敵したら私も向かいます。二人は馬車をお願いー)

((わかった))


念話でも息ぴったりだな。


(よし、じゃあ行ってくる!)


俺はブーツに魔力を収束し、フライで上空まで飛んだ。監視のターゲットはまだ動かない。このまま一気に空中から距離を詰める!

あっという間に対象の頭上まで来た。このまま静かにス――ッと下降する。地面には降りない。着地音が聞こえるのはマズイからだ。

ターゲットの背後に来た。全身を真っ黒なローブで覆っている、明らかに怪しい。鑑定、どうやら人間じゃないな。さっき賊の頭が言っていた悪魔や魔人ってやつか? 魔族と何が違うんだ? レベルも高い、まずは拘束だ! 背後からリストリクション神聖拘束をかける!


「ウグッ、ナンダコレハ!? 動ケヌ!!」


効いたな、もう姿を現しても大丈夫だろう、首筋にアストラリアソードを突き付ける。


「動くな! お前は誰だ、ここで何をしている!?」

「キサマ、神ノ眷属カ!? ソノ神格、人間ノフリヲシテイルナ!!」


何のことだ?


「黙れ、こちらの質問に答えろ」


拘束を強くする、指一本動かせない程の圧力でこいつの体を絞め上げる。


「早く答えろ、それとも四肢を斬り落としてやろうか?」


何だ……? 自分が恐ろしい言葉を口にしている。


「クソッ、ナゼ我ノ存在ガワカッタノダ」

「お前はずっとつかず離れずこちらを監視していただろう、誰の指図だ、言え!」

「ククク、我ハ魔人、名ハナイ。偉大ナル魔王様ノ配下ダ」


魔王だと、何でそんなのが出てくるんだ?


「なぜそんな奴がこんなところにいる、王女暗殺とお前らが何の関係がある?」

「神ノ眷属ガナニモシラヌトハ、愚カナコトダ」

「こちらの質問に答えろ、目的は何だ!」


こいつの声を聴いていると異常に気分が悪くなる、何なんだ?


「ククッ、ジキニワカルコトダ」


ザシュッ!!


両足を切断する。もはや身動きは取れない。だが湧き上がるムカムカは収まりそうにない。


「ギィイアアアア!! ククク、我ヲ殺シテモ最早ナニモカワラヌゾ……」


くそ、全く要領を得ないことばかり言いやがる。斬り捨てるのは容易いが、それでは何もわからない。魔眼を使うべきか?


「カーズ、待ちなさい!!」


そのときアリアが到着した。


「アリア! 助かった、こいつと話していると胸がざわついて仕方ないんだ……。魔人って何なんだ? 魔族と何が違うんだ?」

「カーズ、落ち着いて下さい。魔人とは魔王の眷属、人の心を悪に染め争いをまき散らす悪魔と呼ばれる者達のことです。魔族は魔力が高い人類の人種の一つ、悪意に満ちたこいつらとは違います」

「クカカカ、キサマノ神格、唯一神ダナ、下界デナニヲシテイル」

「あなたには関係ありません。それよりも魔王が復活したということですか?」

「神デアリナガラ何モシラヌトハ、バカメ……」

「こいつとは全く会話にならないんだ、それに気分も悪くなる」


ローブの下も全身真っ黒だ、形は人間のようにも見えるが、目は赤く光り濃い緑色の血が傷口から流れている。うえっ、気持ち悪い。心が汚染されていくような感覚だ。


「こいつはかなり低級の魔人です。言葉は話しても意思の疎通は難しいでしょうね。ですがクラーチには既にこんな奴らが入り込んでいるのでしょう。そしてこいつらは人間の悪意を増長させます。気分が悪いのもその影響です。魔力を全身に巡らせて体からその感情を追い出すのです」

「わかった、ぐっ、うううううおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


パーン!!


体内に巻き起こった魔力を一気に放出する。確かに落ち着いた。


「常に魔力で体を覆って、ガードしてください。所謂鎧装ガイソウというものです。ヴェールだけでは浸透してくるみたいですし。そうすれば何ということはありません」

「了解だ。そうしておく」

「さて、あなたには色々と聞いておかなければなりませんね」

「クカカ、我ハ下位ノ魔人ニ過ギ。キサマラノ聞キタイコトナド知ランゾ……」

「さて、それはどうでしょうねー」

「何か策があるのか、アリア」

「こいつらは上位の魔人に意識を乗っ取られた元人間の亡者です。死者と変わりません。確率は低いですが、その魂をここに呼び戻します。普通は滅却するだけですが、もしかしたら今回の事件に巻き込まれた重要な人物の可能性もありますからね。ではいきます……。『正しき輪廻から引き剥がされた哀れな魂よ、女神アストラリアの名の下、穢れたその身より抜け出し、あるべき姿を取り戻したまえ!』|死者復活《リザレクション》!!!!」


アリアが|祝詞《のりと》を唱えるほどの大魔法だと!!?


カカァアアアアアアアアアアア―――!!!!


目を開けていられない程の神々しい光。途轍もない魔力だ、すごい! どうなるんだ?!


「グギャアアアアアアアアアア―――!!!」


魔人のドス黒い体に温かみのある肌が現れ始める。同時に黒い魂のようなものが体から抜け出して天へと還ってゆく。すさまじい魔法だ。

これは俺が身に着けられるレベルじゃないな……。光が収まったとき目の前には中年の男性が転がっていた。俺が斬った両足も繋がっている。とんでもないな……、恐らくSSランク相当だろう。


「ふぅ、久々ですが上手くいきましたねー」

「蘇生させたのか? あの状態から」

「まあ、本当は死者に使うものですけどねー、さて、起こしましょうか。キュア!!」


寝転がっていたオッサンが目を覚ます。


「う、何だ……? なんだか途轍もない悪夢を見ていた気がする……」

「オッサン、あんたは魔人に意識を乗っ取られていたんだ。とりあえず自分のことで分かることを教えてくれないか? 今クラーチ王国がヤバい状態なんだ、もしかして何かの関係者だったりするのか?」

「はっ、そうです。私は宰相ヨーゴレ様の下で政務を担当しているオロス・ネーロと申します。この度は命を救っていただき何とお礼をすればよいのか……、言葉もありません」

「オロス?! じゃあ宰相を操っている奴と同じ名前だ、そいつがあんたに成りすまして王国の転覆を狙っているんだ。アーヤ姫の暗殺を謀ったのもそいつだ!」


オロスは信じられないという顔をして呆然としている。だが恐らく事態は切迫している、待ってはいられない。


「オロス、向こうの馬車にアーヤ姫もいる。わかることを全て教えてくれ、このままだと王国の危機なんだよ!」


オロスは深呼吸して立ち上がり、顔を引き締めた。


「わかりました、恩人の方々。魔人にされていたときの記憶も残っております。詳しいことはアーヤ王女のところでお話し致します。案内してはいただけませんか」

「ああ、俺はカーズ、アーヤ姫の護衛を頼まれて同行している。こちらは姉のアリアだ。あんたを救ったのは彼女だ、礼は彼女に言ってくれ」

「ありがとうございます、アリア殿、そしてカーズ殿。それでは参りましょう」


本物のオロスは真面目で実直、義理堅い人のようだ。この人を連れて行けば問題解決の大きなカギになるはずだ。俺達は馬車で待つ一行と合流し、情報の擦り合わせを行った。魔王の眷属が王宮に入り込んでいること、そしてオロスの記憶によると魔王の復活が近いとか、定かではないがそういう目的で魔人達が動いていることを知った。

思ったよりもヘビーな状態だ。危険度からエリックとユズリハには引き返すことを勧めたが、聞くはずもなかった。まあ分かってたよ、こいつらバトル大好きだし。


(アリア、思ったより大事過ぎないか? 魔王とか関わりたくないぞ)

(そうですねー。でも任務遂行のためには王国に行かないとですしー。管轄している身としては魔人の動向を知る必要もありますしねー)

(まあ、そうなるよな。って魔王がいるなら勇者とかいないのかよ?)

(うーん、そういう特異点的な存在は一定周期で現れるんですけどねー、今のところそれらしきことは起こってないんですよねー。私の|星の目《スター・アイ》はこの世界の森羅万象を見通すことが出来るんですが、それらしき予兆は感じられないんですよねー。何だか嫌な予感は感じるんですけどー)

(それは完全にフラグだろ、マジでやめてくれよ。それに色々と聞きたいことも増えた、行きしなに聞くからな)

(はいはーい、まあここまではチュートリアルですね。ここからが色々と起こりそうですしねー)

(はあ、そうだな。てか俺はチュートリアルで何度も死んでることになるんだけど……)

(あははー、長く険しいチュートリアルでしたねー(笑))



笑い事じゃないんだよなー、まだ転生して1週間とちょっとだぞ。どんどんと色々なことに巻き込まれてる気がする。新しい人生、前世と変わらず問題事ばっかりだぜ。夢見たスローライフからは遠ざかる一方だ。


やれやれ、また派手に|やりすぎる《OVERKILLする》ことになりそうだ。でもここに転生して大事な仲間や、アーヤという不思議だが、特別な人も出来た。

例え何があっても、それらを護るためなら俺はこの剣を抜く。容赦はしない。この先どんなことが待ち受けているんだろうか? そんなことを思いながら、俺達は王都への馬車に揺られ続けた。





第一章 転生と新世界 完






次回から王国編スタートです!

続きが気になる方はどうぞ次の物語へ、♥やコメント、お星様を頂けると喜びます。執筆のモチベーションアップにもつながります!

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