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サノナム?今回も共依存
夜の街。
ネオンが水面のように揺れていた。
喧騒は遠く、路地裏の一角。
そこだけ時間が止まったように静かだった。
サノスは、壁にもたれて煙草に火をつける。
無言のまま、煙を吐き出す。
その横顔は、怒っているようで、悲しんでいるようで、どこまでも遠かった。
ナムギュは、数歩離れた位置で立ち尽くしていた。
さっきから何度も「名前を呼びたくて」喉が震えていたのに、声が出なかった。
今日──
ただ、笑っただけだった。
昔の男の話を振られて、「別にどうでもいい」と鼻で笑っただけだった。
でも、その笑いが。
サノスの地雷だった。
「⋯⋯あのとき、ほんとにどうでもよかったんですって。
ただの昔話じゃないですか、ヒョンには関係ないでしょ⋯?」
そう言ったナムギュに、
サノスは一言も返さず、席を立った。
それから、ずっと無視だった。
LINEも既読がつかない。
電話も出ない。
部屋の前で待っていても出てこない。
やっと捕まえたのが、今日の夜。
それでも、まだ話してくれない。
ただ無言で、煙草だけが燃えていく。
ナムギュは震えた声で言う。
「⋯ヒョン、無視しないでくださいよ⋯⋯」
返事はない。
ただ、煙が冷たく宙を漂っていく。
「おれ、そんなつもりじゃなかったんですよ⋯⋯」
やっと出た言葉は、涙と一緒にこぼれた。
「ほんとに、他の誰かのことなんか考えてないし、
おれの頭の中、今も⋯⋯ずっと、サノスでいっぱいで⋯⋯
⋯だから⋯⋯許してよ⋯⋯っ」
足元が崩れそうだった。
喉が締めつけられて、息がうまくできない。
それでも泣きながら、懸命に言葉を重ねる。
「ごめん、ごめん、
ほんとに⋯⋯なんでもするから⋯⋯
ヒョン嫌いになったりしてないから⋯⋯っ」
その瞬間。
「──ナムス、」
サノスが、低く呟いた。
「⋯⋯ごめん、って、言えば許されると思ってんのか?」
その声に、背筋が凍る。
「誰にも触れんなよって、
何度も言ったよな」
ナムギュの心臓が止まりそうになる。
「俺のものなんだよ、お前は」
サノスがゆっくりと近づいてきた。
「他の男の話なんか、しなくていい。
笑うな。名前も出すな。
目も、向けるな」
片手が、ナムギュの顎に添えられる。
「俺のことだけ見てりゃ、それでいいだろ」
その目は、冷たいほどに真っ直ぐで、
でも奥底に、狂気じみた“愛”が渦巻いていた。
ナムギュは、涙に濡れた瞳のまま首を振った。
「ちがう⋯
ちがうんです、ヒョン⋯⋯
おれは⋯⋯ほんとに⋯⋯」
「俺がどれだけ、ナムギュに夢中になってたか、分かってないよな」
サノスの手が、ナムギュの首筋に回る。
指が喉元に軽く触れる。
その圧が、ほんの少しずつ強くなる。
「誰にも渡さないって思ってた。
ずっと、俺の中に閉じ込めておきたいって⋯⋯
でもお前、勝手に他の話して、笑って⋯⋯
お前だけは、裏切らないって信じてたのに」
「⋯⋯っ、⋯⋯ごめ、ん、なさっ⋯」
涙が止まらない。
喉が詰まり、声にならない謝罪が漏れる。
「泣くなよ」
でもその手が、首からすっと離れて、
代わりに、頬を撫でた。
「泣かせるつもりじゃなかったんだよ、俺は⋯⋯
ただ⋯ただ、“俺だけ”でいてほしかっただけなんだって⋯」
サノスの目にも、涙が浮かんでいた。
「ごめん⋯⋯
俺が壊れてんだよ。
ナムギュを愛するほど、
どんどん、おかしくなってく」
そのまま、ナムギュの額をそっと額で重ねた。
「もう他の誰にも触れるな、
誰の話もしないで。
笑うなら、俺だけの前で笑え」
ナムギュは、小さくうなずく。
「⋯うん。おれも⋯⋯
ヒョン以外、見ない。
アンタだけでいい⋯⋯」
二人は、音もなく抱き合った。
ぐしゃぐしゃに泣いたまま、
傷だらけのまま、
壊れかけのまま、
それでもお互いしか信じられなくて。
──この愛が、いつか終わるとしても。
今だけは、壊れたままで抱きしめて。
コメント
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こーゆー系大好きです🫶