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「麒麟の塔」が激しく震動し、漆黒の外壁が剥がれ落ちていく。
剥き出しになったのは、この国全体の脳波を強制的に同期させる巨大な「精神共鳴アンテナ」だった。
「……久我山、お前がどれだけ綺麗な理屈を並べても、これはただの支配だ!」
俺は磁力拘束を強引に引きちぎった反動で、全身の毛細血管が弾け、視界が真っ赤に染まっていた。
だが、脇差を握る手だけは不思議と熱い。
「支配ではない。調和だ、黒嵜君…君一人の『ノイズ』が、一億人の『平和』を邪魔しているのが分からないのか?」
久我山がコンソールの最終エンターキーに指をかける。
「あと数秒で、この国の全意識は一つに繋がる。紛争も、差別も、無駄な感情も消えた……美しい基板へとね」
「……そんなもん、誰も頼んじゃいねえんだよッ!!」
俺は残された全精神力を、情報の濁流で鍛えられた右脳へと集約させた。
志摩が仕込んだEMPの残響、親父から受け継いだ執念
そして昨日まで一緒に泥を啜ってきた仲間たちの記憶。
俺自身を巨大な「ウイルス」に変え、久我山が守る完璧なシステムへ、生身の魂を叩きつける。
「いっけえええええええッ!!!」
ズガガガガガガッ!!!
俺の脇差がコンソールを貫き、俺の脳から溢れ出した「人間臭いノイズ」が麒麟の塔の回路を逆流していく。
計算不能な愛、理屈に合わない怒り、そして明日を信じる根拠なき希望。
デジタルな秩序が、予測不可能な「生の奔流」に飲み込まれ、火花を散らして崩壊を始めた。
「…ば、馬鹿な…ッ、私の計算が……人間のバグに負けるというのか……」
久我山は呆然と立ち尽くし、崩れゆく床と共に、自らが作り上げた虚構の深淵へと消えていった。
◆◇◆◇
数ヶ月後────
新宿の街には、相変わらず騒々しい喧騒が戻っていた。
都庁の跡地は更地のままだが
そこには新しい露店が並び、人々が笑い、怒り、そして生きている。
組織の支配は終わり、100日後の更地という予言も、今や古びた都市伝説に過ぎない。
「兄貴、またサボりですか? 源蔵さんが『新しい店の看板、いつ描くんだ』って怒鳴ってましたよ」
山城が、少し大人びた顔で俺に缶コーヒーを差し出す。
「……ああ。今行く」
俺は、あの戦いで感覚を失った右腕をさすりながら、高層ビルの隙間から見える空を見上げた。
志摩は今もどこかでデジタルな闇と戦い、源蔵さんは街の復興に汗を流している。
俺たちは、神様が作った綺麗な予定表の上を歩いているわけじゃない。
いつだって泥を啜り、予定を狂わせ、自分たちの足で汚い路地裏を駆け抜けていく。
「……さて、今日も生きるか」
新宿の野良犬たちは、今日も喉を鳴らし、明日という名の不確かな闇へと走り出した。