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馬車に揺られながら、私は不思議な気持ちを抱いていた。

一体どうして、こんなことになったのだろうか。改めて考えてみると、色々とおかしな話である。


『なるほど、事情はよくわかりました。アルシエラさん、どうぞ真相を確かめて来てください』

『い、いいんですか?』

『ええ、もちろんですとも。もしかしたらそれは、アルシャナ様が果たせなかったことかもしれません。それを果たすのは、アルシエラさんしかいないでしょう』


ラナキンスさんは、私が東の拠点に行くことを快く了承してくれた。

それなりに長い旅になり、色々と穴を開けることになるというのに、許してもらえたのは正直少し意外である。

もっとも、元々私がいなくてもあの拠点は回っていた。ロッテアさんは、涙を流して私を見送ってくれたが、別に私が抜けた所でどうということはないということだろうか。


「アルシエラさん、心配ですか?」

「え?」

「いえ、そのような顔をしていましたから」

「えっと……」


そんな私の憂いを、ギルバートさんは見抜いていた。

その言葉によって、私は思考を切り替える。もう行くと決めたのだから、迷っている場合ではないと。


「まあ、少し複雑な心境ではありますね。私も、あの拠点でそれなりに力になれていると思い始めた矢先でしたから……」

「アルシエラさんは、必要とされていない訳ではありませんよ。ただラナキンスさんは、それよりも優先するべきことがあると考えただけでしょう」

「そうなのでしょうか?」

「……もしくは、これを好機と見たのかもしれません。あの方は強かですからね。ランバット伯爵家との繋がりを得られる可能性に賭けたのかもしれません」

「それは……」


ギルバートさんの言葉に、私は少しだけ考えを変えることになった。

ラナキンスさんのことを、私はただ優しい方だと思っていた。

しかしながら彼の本質は商人である。人情もあるが、きっと損得だって考えるはずだ。


「確かに、身内がいる紹介を優遇する可能性はあるでしょうね。ただそれは、関係が良好な場合でしょう?」

「ええ、ですから賭けなんです。不利益を被る可能性も考慮して、彼はあなたを行かせることを選んだのだと思います」

「なるほど……それは確かに、強かですね」


ギルバートさんの語るラナキンスさんに、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

思っていたよりもずっと、ラナキンスさんは酔狂な人であるようだ。なんというか、これから彼を見る目が少し変わってしまいそうである。




◇◇◇




私は、ギルバードさんとともに東の拠点に来ていた。

そちらで働く人達は、私の来訪にそれなりに驚いているようだ。拠点の責任者が女性を連れて帰ったというのは、確かに結構驚くべきことかもしれない。


「いやまさか、ギルバートさんが女性を連れて帰って来るなんてびっくりしましたよ」

「女っ気がないと思っていましたが、もしかしていよいよ結婚ですか?」

「いや、違いますよ。結婚なんてまだ考えていません」

「まだというと、何れはってことですか?」

「だから違いますって」


東の拠点の人々は、ギルバートさんに対して好き勝手色々と言っていた。

本拠地である私が普段働いている拠点での扱いと大分違う。やはり、日頃から一緒に働いていることが大きいのだろうか。


「彼女は、本拠点の職員の一人です。知り合いに会うために、休暇を取ってこちらを訪れているんです」

「休暇、それなのにここに来させるんですか?」

「それはその、わかるでしょう?」

「え? ああ、いつものですか……」


ギルバートさんの言葉に、周囲の人達は呆れたような顔をした。

当然のことながら、彼の方向音痴は周知の事実であるようだ。それに対して、私は苦笑いを浮かべてしまう。


「あ、それで皆さん、僕はこれからこのアルシエラさんに町を案内しようと思うので」

「案内? ギルバートさんがですか?」

「そんなの無理に決まっているでしょう」

「え? あ、いや……」


ややこしいことにならないように、私の素性はこちらでは伏せておくことになった。

故に、ギルバートさんはどうしても説明不足になってしまう。

それによって、彼は集中砲火を受けていた。事情を知っている私からすると、なんとももどかしい所だ。


「こらこら、男子達」

「空気を読みなさいってば」

「え? ああ、そうか……」

「……ギルバートさん、すみません。こちらは大丈夫ですから、どうぞごゆっくりしてください」

「……ええ」


女性職員の声によって、その場はなんとか治まった。

しかしながら、ここにいる人達には大きな勘違いをされてしまった。それも中々、困ったことではある。


「ギルバートさん、色々とすみません。私のせいで……」

「いいえ、お気になさらず。そもそも、僕がついて行くというのが僕の提案なのですから」

「私は、それが心強いと思って受け入れたのですから、これは私のせいといえると思います」

「そんなことはありませんよ」


そこで私は、ギルバートさんとそのようなやり取りを交わした。

ギルバートさんは、私に同行を申し出てくれた。何かあった時に、誰かがいた方がいいと思ったそうだ。

私はそれを受け入れた。一人は不安だったので、その提案はありがたかったのだ。

こうして私は、ギルバートさんとともにランバット伯爵家に向かうことになったのだった。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

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