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第18話「待合室の灯り」
病院の待合室は、白くて、静かだった。
時計の秒針の音だけが、やけに大きく聞こえる。
「……」
なつは、椅子に深く腰を下ろしたまま、前を見ている。
スマホは握っているのに、画面は暗いまま。
「……遅いな……」
ぽつりと漏れた声は、誰に向けたものでもなかった。
「救急って、こういうもんだよ」
いるまが低く答える。
「早い時もあるし、長い時もある」
そう言いながら、足先がわずかに揺れていた。
みことは、壁に背を預けている。
「……さっきの……」
途中で言葉を切った。
「……俺、もっと早く気づけたかも……」
「それ言い出したらキリない」
すちが、即座に返す。
「誰のせいでもない」
でも、その声も少し硬かった。
こさめは、両手を膝の上で組んだまま、動かない。
「……らんくん……」
小さく名前を呼ぶ。
返事がないのは、わかっているのに。
「……楽しい日だったよね……」
その一言に、空気が揺れた。
「……ああ……」
なつが、ゆっくり頷く。
「笑ってた」
「ちゃんと」
「……それが……」
みことが、唇を噛む。
「逆に……怖い……」
誰も否定しなかった。
楽しかった分だけ、
今の静けさが、胸に刺さる。
「……」
すちが、視線を落とす。
「……もし……」
言いかけて、首を振る。
「……いや……」
「考えるな」
いるまが、短く言う。
「今は、待つだけだ」
「待つって……」
なつが、かすれた声で言う。
「……こんなに……」
拳を握る。
「……きついんだな……」
その時。
カーテンの向こうで、足音がした。
全員が、同時に顔を上げる。
看護師が一人、こちらを見る。
「付き添いの方……」
息が詰まる。
「今、処置中です」
「命に関わる状態ではありません」
その言葉に、
一斉に、肩から力が抜けた。
「……っ……」
なつは、思わず俯く。
「……よかった……」
みことは、壁に頭を預けた。
「……ほんとに……」
こさめの目に、涙が滲む。
「……らんくん……」
すちは、静かに目を閉じた。
「……まだ……待つんだな……」
「……ああ……」
いるまが、頷く。
「戻ってくるまで」
待合室の灯りは、変わらず白い。
でも、さっきより——
少しだけ、息がしやすくなっていた。
名前を呼ばれない時間。
それでも、ここにいる全員は、
同じ場所で、同じ人を待っていた。
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