「そろそろだ」
駅のプラットホームに、古びた電車が到着した。
彼女と私は、十年来の付き合いである。
青春を共にした人であり、大切な友人だ。
その友人が今、遠い地へ旅立とうとしているのだ。
昨年の春、私たちは同じ大学に進学したいと話していた。しかし、お互いにやりたいことが見つかり、それぞれ違う大学を選ぶことになったのだ。
なかなか言い出しづらかったものの、自分の本心を伝えることができたのはやはり、他の誰でもない彼女だったから。私にとって彼女は、本当に大切な友人なのだ。
頑張ろうと手を取り合ってそこから一年、ついに別れる日が来てしまった。
「またね。絶対会いに行くから」
朗らかに笑った私の誇れる友人はそう言って電車に乗り、大きく手を振った。
彼女はどんどん遠ざかっていく。
電車が出発してから数秒後、ホーム風が通り抜けた。それは、私の濡れた頬を乾かした。
彼女と過ごした日々を振り返れば、たくさんの笑顔が溢れ出てくる。
私たちは糸のように、紆余曲折を繰り返しながらも進み、絡みあい、固い絆を築いてきた。それが今、距離が離れると共に解けていってしまっている。物理的距離が遠くなることはすなわち、心の距離が遠くなることだろう。すごく寂しい。こころに穴が会いたようだ。
その時、スマホの画面が明るくなり、メッセージが一件入った。
「私たちなら大丈夫」
その一言に救われた。
そうだね。どんなに離れようとも、大丈夫。私たちなら、きっと。
どこからかどんできたのか、桜の花びらが一枚、目の前をふわふわと舞っている。
この瞬間を切り取ったならば、それは名画と呼ばれるだろう。
美しく、儚いこの瞬間は、新しい生活の始まりである。
春である。
別れと出会いが連なり、そうしてまた自分が形成されていく、春である。
心地よい日差しとうららかな空気の中、明るいプロムナードが見える。
歩いて行こう。
お互いに成長して、また会った時には変わらないあの笑顔で笑ってね。
そよ風に背中を押され、私は一歩を踏み出した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!