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篠原愛紀
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「ほら、あの子だよ。瑠奈の隣に座ってた子」
リュカの直感が導き出す
夫純也の浮気相手
それは
あの時私の隣に座っていた子
私の隣に座ったのはリュカと
反対隣に居たのは——
——鈴木さんだ
まさに青天の霹靂だった
まさか……鈴木さん?
一番ないだろうと思っていた
人見知りがちで
他の二人に比べて社交的ではない
一番私寄りの
一番あり得ない子
ましてや
純也は既婚者
真面目そうな鈴木さんが
既婚者と不倫などと……
想像が出来ない
純也にしてもそうだ
気軽に遊ぶ相手として選ぶだろうか
二人のタイプが違い過ぎて
知り合うきっかけすら
想像が出来ない
ましてや
接点があるとも思えない
だが
考えようによっては……
仮定してみる
もしも純也のタイプが私ならば
あながちあり得なくもないのかもしれない
私と純也の現状はさておき
私達が結婚まで至ったのは事実
そう考えると
あながちあり得なくもないのかもしれない
あまりに意外な結末が
あまりに衝撃的過ぎて
目を見開いたまま
口を半開きにしたまま
私は固まってしまった
ずっと解らなかった
疑念の核心へ辿り着き
待っていたのは達成感ではなく
自己嫌悪
浮気をされて尚
自己否定へと流れてしまう
何故鈴木さんだったのだろう
何故私じゃ駄目だったのだろう
何故私じゃ満たされなかったのだろう
何故鈴木さんが良かったのだろう
純也にとって必要で
私にないもの
それを鈴木さんが持っているのかな
それって一体……
それを私が持っていなかったから
私は純也を満たしてあげられなかった
私は足りなかったんだ
私では役不足だったんだ
ダメな私の
ダメな思考
リュカと再び一夜を過ごし
リュカと結ばれ
浮かれて忘れていた
私の住まう場所
私の住まう世界
私の思考と
私の精神の
定位置
色彩なきモノトーンの世界
新たな運命に光明が差し込んだかのように思えた
ひとときの幻
溶解しかけた運命の殻が
まるでDNAに施された鍵の様に
再び前に進む事を拒む
(そんな……鈴木さんと……)
夫の浮気もそうだが
相手がまさかの鈴木さんだった事
同期の中では一番シンパシーを感じていた
鈴木さんが私を裏切っていた事
ショックだった——
その現実が
私の心に鍵を掛け
私を元居た運命へと引きずり戻す——
「——奈、瑠奈!」
「……え?」
上向きつつあった私の思考が
下向きへ完全に振れ
気付くとまた私は自分の殻に籠っていた
陰鬱だった運命へと
戻りかけた私の思考を
リュカが寸でのところで引き戻してくれた
不安そうな顔で
リュカの顔を見上げる私に
真剣な顔で
実直な表情で
リュカが言い切った
「俺の女になれよ」
(——え!?)
そう
言い切ったリュカの
顔を見つめ固まる私
真剣な顔の
真摯なリュカの眼差し
それは
会社で見る仕事中の冷徹なリュカとも
プラベートで見せるどこか天然なリュカとも
全く違う
でも
私が知ってるリュカ
男性的で
猛々しい
昨夜に知ったばかりのリュカだった
それまでのリュカのイメージとは異なる
その力強い言葉に
心と
子宮が
キュンと引き締まる
「嫁なんて止めてしまえばいい」
「そもそも旦那は婚姻の契りを守っているのかい?」
それまでのリュカのイメージとは異なり
予想も
身構えもしていなかった
力強い言葉と
力強い推しに
浮足立ってしまい
どう返答すれば良いか解らず
返す言葉が見当たらない
私の気持ちと
私の決断を
焦らず
逸らず
ずっと待ってくれていたリュカの
力強い言葉と
力強い推しが
負に振れかけた陰鬱な運命から
強制的に私を引き上げようとしている
「大丈夫だから、俺を信じて」
「何があっても俺が守るから」
リュカなら信じれる
リュカを信じたい
でも……
私は
煮え切らない私が嫌いだ
ずっと誤った選択をし続けて来た人生だった
それを解っていて尚
決断できず
優柔不断で
陰鬱な人生を自ら体現するような
陰鬱な私自身が大嫌いだ
リュカの言葉に答えず黙り込む私
勘の鋭い
内面を見透かす
人狼のリュカにはどう映っているのだろう
「それはただの慣れだよ」
俯き顔で
伏せた私に言い放ったリュカの言葉にハッとする
(……どういう意味?)
意味が解らず
顔を上げる私に
リュカが続ける
「瑠奈の自分自身に対する認識なんてただの思い込みだよ」
「今までそう思い込み続け、そうであると誤認した自分に慣れてしまっただけ」
「人はね、新しい環境に拒否反応を見せ、飛び慣れた空に戻りたがる習性がある」
「そこには正否も善悪もない、ただの習性ただの慣れなんだ」
「そうであると自分に慣れを強いるのは躾でしかない」
「瑠奈はそんなんじゃないよ、俺には分かる」
「一歩下がって俯瞰して見れば解るはずだ」
「それが出来ないなら一緒に見よう、新しい、本当の自分を」
「今までの瑠奈じゃない、今までの人生じゃない、これからの未来を一緒に」