「嘉村堂 」
とある場所の小さな町に高校の終礼のチャイムが鳴り響いていた。
7限目の授業が終わり、生徒達が各々の準備に入った。
そんな中で僕は授業で理解の追いつか無かったところを先生に質問していた。
先生が「ここは、こうで、こうやって」と順序良く教えてくれた。
先生の説明が終わって、帰る準備に取り掛かろうとしていると、僕の背中に重みを感じた。
「お~い、晴斗。なに、先生口説いてんの~?」と同じクラスの山内が話しかけてきた。
「そんなわけ….」と言いかけた時、背後からの大きな声にかき消された。
「真面目な晴斗がそんなことするわけねえ~だろ」と同じクラスの岩田が言った。
「まぁ、そうだな」と山内が言い、僕は疑問に思ったことを尋ねた。
「今日、おまえら部活無いの?」と言うと、山内がすぐに答えてくれた。
「今日は、代休で無いぜ。だからさ、3人で遊び行かね?」
「あ~ごめん。行くところあるから行けねえわ。また今度な。」
「そっか、じゃあまたな。」
その後、僕は二人と挨拶を交わして、教室を後にした。
校舎は丘の上にあって町全体を見渡すことが出来る。
僕は校門を出ると右手に曲がり坂を下った。
坂を下り終わると左の細道に入り、人気の無い道に出た。
そこから道を真っ直ぐに歩いていくと、小さな道路に出た。
さらにその道をしばらく歩いて行くと、遠くに小さな駄菓子屋が見えてきた。
駄菓子屋の前まで来るとからっていた鞄を手に持ち換えて立ち止まり、一息つく。
その駄菓子屋はお世辞にも綺麗とは言え無い外見だが、木材の年季の入った見た目が歴史を感じさせる。
駄菓子屋の入口には木材で出来た看板に、大きく「嘉村堂」と記してあった。
僕はその嘉村堂の入口の戸を慣れた手つきで開けると、中に入って行った。
店内には、10円、20円、30円と言うように値段別で分けられて置いてあり、その奥には会計台らしきものが設置され、その会計台の横にはアイスなどを入れるアイスボックスが置かれていて、いかにも駄菓子屋ぽっい内見だった。
「菊さ~ん、居る?」
僕が尋ねた後、しばらくして座敷の奥から小さな物音と共に、小柄なおばあちゃんが出て来た。
「あ~晴ちゃん良く来たねぇ~。」とゆっくりとした口調で声をかけて来た。
僕はこの菊さんの話し方が好きだった。
何故か菊さんの声を聞くととても落ちつく。
「今日は何にする?」と優しい声で菊さんが僕に尋ねる。
僕は「これかな」と会計台の上の棚に置いてある1つの饅頭を指差した。
すると菊さんは僕を奥の座敷に上がるように言い、お茶を出してくれた。
「最近学校はどう?」と聞いてきたのでお茶を一口飲んだ後、楽しげに答えてあげる。
「うん、楽しいよ。友達も居るしね。」僕が早々に答え終わると、菊さんは何も言わずにっこりと笑っていた。
菊さんが裏庭の掃除手伝って欲しいと言うので、喜んで引き受けた。
裏庭には沢山のあじさいが咲いていて、とても綺麗だった。
そう言えば、今年の梅雨は長かった気がする。
菊さんとを掃除が終わると、座敷の時計が18時を回っていた。
「来週も来るね。」と菊さんに言い、「嘉村堂」を後にした。
振り返ると菊さんが小さな手で手を振っていたので、僕は小さく振り返した。
細道を抜け大通りに出ると、みんな家に帰っているのか、車の通りが多かった。
僕はその大通りを駅に向かって、歩いて行った。
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