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カラン.と音を立て、店の看板が裏返る。
少しおかしな見た目をした、シッポの分かれた店主が、雪が薄く積もるベンチに座っている、灰色のマフラーをした常連さんに微笑む。
常連さんの優しい笑顔の返答をもらったところで、店主はそそくさと店の中に戻り、カウンターに立つ。
カウンターの端の方には、店主の夫が机に突っ伏して寝ている。
その夫を自称していた人は、悪魔のような特徴的な角と尻尾を有しており、尻尾を重力に任せ、左右にゆらゆらと揺らしている。
いい夢を見ているようだ。と思い、店主は彼に毛布をふわりとかける。
少し経って、その常連さんが扉を押して店に挨拶する。常連さんは、挨拶ついでにいつものをください、と店主に言い、日当たりのいい窓際の席に座る。
どうやらそこは常連さんがいつもいる席だそうで、常連さんは頬杖をつきながら、外の行き交う人々を眺めている。
しばらくし、店内に溢れんばかりの珈琲のいい香りが立ち込める。淹れたての珈琲と、可愛らしいチョコレートが入ったクッキーを常連さんの机に置く。
常連さんは、微笑みながらありがとう.と優しげで落ち着いた声で答える。
常連さんのその優しい声と笑みに、店主の心がすぅっと優しい何かに包まれるような気がした。
優しい何かの余韻を心に残しながら、エプロンを締め直し、姿勢を正してカウンターに立つ。
なぜって彼女は、これから来るお客様に笑顔を振りまき、お客様の注文に沿うものとお金を交換する必要があるからだ。
店内にまだ残る珈琲とクッキーの甘い香りと、視界の端に眠る彼の寝息で、店主─彼女の1日が始まる。