祝日、土日の4連休はあっという間に過ぎ、出勤しなければならない月曜日がやってきた。
嫌々歯を磨き、嫌々顔を洗い、嫌々髭を剃り、嫌々スーツを着て嫌々バッグを持つ。
「重っ」
嫌々家を出て、嫌々鍵を閉める。
家が恋人のようで別れたくない、離れたくないという感情が沸々と湧いてくる。
嫌々駅へと歩き、嫌々ホームで電車を待ち、嫌々電車に揺られ、嫌々会社へと歩く。
「おはよーございまーす」
「おはよー」
「おはよーございます!」
元気だな。と思う。イスにお尻を沈める。あぁ〜来てしまった。と思う。
「ワッチュガナドゥ〜ブラザー!」
肩を組まれる。
「お前…マジ元気な」
「まあね!明日はMonday nightですから」
「Monday nightは今日の夜だろ」
「ノンノン!アメリカで、ね?」
「あぁ、プロレスか」
「Yes!!これが楽しみで生きてるんだから。海も見てよー」
「どこで見れんだっけ?」
「MyPipeが一番早い。んでAmaba(アメーバ)が最近日本語実況、日本語字幕でフル放送してくれてる」
「MyPipeで見るわ」
「MyPipeは英語だけどね」
「Amaba(アメーバ)って課金しないとダメでしょ?」
「んー…まあ?でもたしか無料で見れるやつもあったはず。アーカイブ視聴はたしか有料」
「ふぅ~ん?ま、やっぱMyPipeで見る」
「ま、でも美人多いから海もすぐAmaba(アメーバ)で見たくなるよ」
「前見たときは男しか見てなかったからな。女子目当てで見るってのもありか」
「ありあり!全然あり!推し見つけて、その推しのために見るってのもあり。
男もイケメン多いし。CM Pu…あ、そうだ!千葉くんの結婚式さ」
「なんでCMで思い出したんだよ」
「千葉くんの結婚式さ、待ち合わせして一緒に行かん?」
「ん?ま、別にいいけど。赤山だっけ」
「そうそう。だからぁ〜甘谷?で待ち合わせ?」
「そうだな」
「なんかさ、一応先輩として行くじゃん」
「マーケティング部の“元”後輩だからな」
「なんか気まずくね?」
「まあ…な。そんなお世話しました!って感じでもないし」
「そうそう。まあ、とりあえずお仕事でっせ。じゃ、また昼なー」
「はいはいー」
風天(ふうあ)はルンルンでデスクに戻っていった。
その後いつも通りパソコンと睨めっこという仕事をして、時計が12時半に近くなったところで
「昼行くぞー」
とまた肩を組まれる。
「はいはい。行きましょか」
「どお?今度の企画会議でいい案出せそ?」
「いや?全く。だから出世できないんだよな。風天(ふうあ)は?」
「オレも全然ー。なんならプロレス情報サイトで最新情報読んでたし」
「風天(ふうあ)が好きなアメプロの団体がコラボしてくれりゃいいんだけどな」
「それはもう…オレ案件でしょ。オレ主軸で進めないと無理な案件よ」
「ま、お前でも無理だろうけどな」
「流行りで言えば、オレの見てる世界最大の団体なんてヤバいけどな。流行りってかもう文化よね。あれは」
「昼どうする?」
「バーガーでいいっしょ」
「オッケー。ワクデでいい?」
「いいよー。てか毎度思うんだけどさ、なんでワックじゃなくてワクデって関西の略し方で言うの?」
「カッコよくない?」
「それが理由か」
その後近くのワクデイジーでそれぞれお昼ご飯を買って食べた。
食べた後もまだお昼休憩の時間が余っていたので
そのままワクデイジーで飲み物を飲みながら、同僚の泥好木(どろすき)風天(ふうあ)と他愛もない話をした。
「海、彼女できたー?」
「できん。風天(ふうあ)は?」
「できんー。アメプロ好きの子、そこら辺にはいないのよ」
「意外とプロレス女子は多いらしいけどな」
「そうそう。でもそれ日本のプロレスなのよ。肉体が好きーとか単純に顔が好きーとか。
腐女子も多いらしいからね。でもアメプロ好きは聞かないんよ」
「難儀だな。だからあんな若い千葉くんに抜かされるんよ」
「それ海にも言えることだけどね」
「ほんとそれなー」
そり返る。天井に息を吐き出す。
「千葉くん何歳だっけ」
「たしか24?あれ25かな。ま、そんくらい」
「きっつ。わっか」
「奥さん大学時代から付き合ってた人だって」
「じゃあ同級生?」
「さあ?そこまでは知らん。ご祝儀…痛ぇよなぁ〜」
「それな。プロレス観戦行けるぞマジで」
「まあ3万もありゃ行けるだろ。高くて1万くらいじゃねーの?」
「ノンノン。アメプロはするよぉ〜?2万くらいはする」
「ガチ?ヤバ」
「ま、席にもよるけどね。当たり前だけど」
「にしてもこの歳になるとご祝儀で3万飛んでいくのは痛すぎる」
「海ももう何回か行ってる?」
「行ってる行ってる。中学時代のやつがー2人か?高校時代のやつが3人くらいかな?」
「行ってるねぇ〜。6人だから?…18万」
「マッ ジッ で 言わないで。キツすぎる。え。あ、マジか。え、20万も飛んでんの?」
「オレもそんくらい飛んでるよー」
「風天(ふうあ)もそんくらい行ってんの?」
「うん。小学校の頃の友達が1人」
「え、小学校のときの友達からも来たの?招待状」
「来たよー。海も覚悟しとけ?死ぬほど盛り上がらないから」
「盛り上がらないの?」
「二次会とかマジ孤立。小学校のときのメンバーとか2、3人しかいないから
他の1人か2人が仲良くなかったら地獄。オレは幸いクラスメイト全員と仲良かったから
プチ同窓会みたいに少人数で楽しんだけど」
「怖すぎる」
「で、中学が2人ーかな?高校が…」
風天(ふうあ)が視線を上に向けて、指折り人数を数える。
「そんなに?」
「4、5…6…6か?6人くらいかな?」
「1の2…9人か。くさん…27万です」
「20万で嘆いてんなよ?こちとら30万やぞ」
「恐れ入りました」
「30万なんてマジでアメリカへの飛行機代
ホテル代、プロレスのチケット代、んでグッズ買ってもお釣りくるんじゃない?」
「かもな。あぁ〜。まあでもそれくらいしないと補填できないんだろうな。結婚式って」
「補填て。まあ、そうね。商品開発部とかマーケティング部のやつらは
コストカットコストカットって言って奥さんに嫌がられそうよな」
「そんなん嫌がられるだろうね。「一生に一度の結婚式なんだからいいじゃん!」ってな」
「そうな。先輩離婚してるから、再婚したら一生に二度あることになるけどね」
「これ聞かれてたらぶっ飛ばされるぞ」
「まあ美人のほうだし、すぐ相手できるでしょ」
「こんな話をしてるオレらは彼女もいないけどな」
「それな」
腕時計を見る。13時20分近くになっていたので
「そろそろ行くか」
「うい」
と言って紙コップの飲み物をプラスチックのストローで啜り
ズズッズズズズという音が鳴るまで吸い上げてから、グリーンのプレートを持ってゴミを片付け会社に戻った。
その後も相変わらずパソコンと睨めっこ。仕事を続け、上がりの時間になったので
「お疲れっしたー」
と言って会社を後にした。音楽を聴きながら電車に揺られ
行きつけの居酒屋「命頂幸(しょく)」どころか、コンビニにすら寄らずに家の扉を開ける。
ネクタイを外し、ジャケットをハンガーにかける。Yシャツのボタンを緩めていく。
ポケットからスマホを出す。最後にLIMEを交わしたのが2月11日の千葉くんとのトーク画面に入る。
LIMEで送られてきた結婚式の招待状を開く。
「えぇ〜っと?赤山の己参道での?はいはい。…11日だよね」
壁にかけたカレンダーを見る。
「11日、11日…。11日!?」
11日だとわかってはいたけど驚いた。もう今週の金曜日だった。
「あ、マジか。え、あ、もう今週なのか」
とそのままの格好でいろいろと確認した。ご祝儀だったり、ネクタイ。ネクタイピン。
カフスボタン。スーツもいつものだとあれなので、違うスーツを着ていくつもりだ。
そのスーツも念の為確認する。
「オッケーオッケー」
確認をし終え、部屋着に着替えて夜ご飯を食べる。
そんな日々を過ごしているとあっという間に寝たら次の日が金曜日に。
前日の夜は変な緊張感なかなか眠れず、寝酒としてビールを飲んで眠りについた。
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