「……おい」
「ん?」
あの後、ラグーザと一緒に聖堂のおおまかな掃除を終え、居住空間に戻ってお互いが着替えてからそう呼び止められる。
「お前、あの時俺で遊んだだろ」
「……はて、あの時とは、」
「惚けんなよ。あれだよ、女人が話しかけてきた時」
「…なんでそう思ったんですか?」
「なんかニヤついてた。お前の顔が」
遊び心というか、少しばかりの悪戯心が全く気付かれていないとは思っていなかったが、まさか顔に出てたとは全然思わなかった。
「え、嘘。それ信徒の皆さんに見られてたら僕の印象が……」
「お前そんなこと気にしてたのかよ…」
「もちろん。神父がしっかりしてるかどうかって結構気にしますよ、皆さんも」
「無神論者のくせに」
「まぁ言うほど気にしてるわけでもないんですけど」
「本っ当になんなんだよお前は」
今更彼に対して取り繕うのも可笑しいので、ちょっとしたフェイクを会話に混ぜながらも素直に本心を言えば、呆れたような疲れたような表情が投げられる。
表情豊かな彼に悪戯をするのは楽しい。
彼には悪いが、ここ数日ですっかりと覚えてしまった僕の娯楽のひとつでもあった。
「でもラグーザ、アドリブが上手いんですね」
「あ?」
「人間離れしたその深紅の瞳、咄嗟に疎外された理由にしたでしょう?」
「あ〜…それ……」
するりと空を向く視線。
彼にしては珍しくほんの少しだけ間を置いて発せられた言葉は不意に、彼が人外であることを思い出させた。
「人間は、愚かだから」
「え?」
「…俺の住む魔界と違って、純粋な強さだけじゃなくて恐怖の対象を嫌う。俺ら魔族をお前ら人間が排除しようとするのだってそうだ。害をなすからだけじゃない、自分たちとは違い過ぎる姿形をしているからだ。受け入れようとする前にその存在ごと拒む。」
空へと逸らされていた視線がこちらを射抜くような鋭さを持ってこちらに寄越される。
けれど、その瞳は何か別のものを見ているような気がした。
「これだって正当な防衛本能なんだろうけど、俺が人間が愚かだと思うのは、それが同じ人間にも向くからだ。……人間のあれは、もはや狂気だ」
口調は不気味なほど淡々としているのに、紡がれる言葉の節々に滲み出るのはぼんやりと漂う苦しげな響きだった。
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