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第10話 優しさは、許可なく踏み込む
違和感は、些細なところから始まった。
(……多いですわね)
リリアーナの机の上。
授業の合間に置かれた資料。
放課後の予定を“気遣う”伝言。
どれも、親切。
どれも、丁寧。
(ですが)
(――誰が頼みましたの?)
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決定的だったのは、昼休み。
「リリアーナ」
声をかけてきたのは、ルークだった。
「次の講義後、少し時間を」
「……事前の約束は?」
静かな問い。
一瞬の、間。
「ないが」
彼は言葉を選ぶ。
「君が空いていると判断した」
(判断)
胸の奥で、
小さく“線”が引かれる音がした。
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放課後。
中庭。
「数分で終わる」
そう言って、
ルークは話し始める。
「最近、君に向けられる視線が多い。
整理のために、私が――」
「待ってください」
リリアーナは、彼の言葉を遮った。
声は、低くも高くもない。
「それは」
一歩、距離を取る。
「条件の一つ目ですわ」
沈黙。
ルークは、初めて眉をひそめた。
「私は、君を守るために」
「“守る”という言葉で」
視線が、真っ直ぐ刺さる。
「私の時間を、
無断で使わないでください」
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空気が、張りつめる。
「善意だとしても」
リリアーナは続けた。
「私が許可していない介入は、
条件違反です」
(言い切りましたわ)
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「……悪意はない」
「分かっています」
即答。
「だからこそ、
一番最初に線を越える」
その言葉に、
ルークは言葉を失った。
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「距離を取ります」
それは、予告通り。
声に、迷いはない。
「当面、
私からの私的な会話はありません」
一拍。
「必要な連絡は、
公的な場を通してください」
拒絶ではない。
だが、明確な“後退”。
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その様子を、
少し離れた場所で見ていた者たちがいた。
エマは、唇を噛む。
カインは、拳をわずかに握る。
(……実行したな)
誰もが、そう思った。
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「合理的だ」
しばらくして、
ルークはそう言った。
だが、その声は僅かに硬い。
「私の判断ミスだ」
「ええ」
リリアーナは、頷く。
「だから、戻る余地はあります」
視線を逸らさず、
静かに告げる。
「“次”があれば、ですが」
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その夜。
日記。
――最初に破られたのは、
――時間に関する条件。
――悪意はありませんでした。
――だから、実行しました。
ペンが止まる。
(……心は、少し痛みますわね)
だが。
(それでも)
線を守らなければ、
私はまた“選ばれる側”に戻る。
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翌日。
学園の空気が、変わった。
リリアーナに近づく者は、
一歩、慎重になる。
予定は、事前に確認され。
視線は、控えめになる。
(効果は、十分)
ただ一人。
カインだけが、
一定の距離を保ったまま、言った。
「……迷わなかったな」
「迷いましたわ」
リリアーナは答える。
「ですが、選びました」
「そうか」
短い返事。
だが、その目には、
はっきりとした敬意があった。
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(次に越えるのは、誰か)
それは、もう時間の問題だ。
優しさは、
最も自然な顔で踏み込んでくる。
だからこそ。
悪役令嬢は、
今日も線を引く。
静かに。
確実に。
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