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黄昏にある教会。普段はシスターカテリナが住まいとして利用しており、礼拝堂には毎日『聖光教会』の信者達が祈りを捧げに来ている神聖な場所である。
だが、その地下には聖域とは程遠い部屋が存在した。そのまま地下室と呼ばれるその場所は、移転する前にシャーリィが遊び場として活用していた部屋をそのまま再現して作られていた。数々の拷問器具も破棄されることなく密かに運び込まれており、『暁』の秘密尋問施設として機能している。
幾つかのランタンによって室内は明るく照らされているが、その光景は凄惨を極める。
壁には赤錆た無数の拷問器具が飾られており、床や壁にはどす黒い血の後が散乱しており、来る者に凄まじい恐怖を与える。
この部屋は黄昏建設以降滅多に使われることはなかったが、今回捕えたガズウット男爵家のニフラー筆頭従士が椅子に縛られて放り込まれていた。
「平民風情が!直ぐに私を解放しろ!なにをしているのか分かっているのか!?」
ニフラーは震える身体と恐怖心を誤魔化すように大声を発して尋問に当たるラメルを睨み付ける。
彼の前に座るラメルは、気にする様子もなく口を開いた。
「残念だが、ここじゃ貴族様の身分も一切通用しない。お前さんは捕まったんだ。悪いことは言わねぇ。今のうちに洗いざらい話した方が身のためだぜ?」
「ふんっ!貴様ら等に話すことはないっ!こんな虚仮威しで、私を屈服させたつもりか!」
「虚仮威し、ね。それならどれだけ良かったか。なあ、従士サマ。俺が優しく聞いてるうちに話しとけって。ロクでもねぇ結果になるだけだぜ?ん?」
あくまでも諭すように語りかけるラメル。彼はシャーリィの尋問が如何に苛烈か良く知っているのだ。
尚、シャーリィの拷問癖は敵対者にのみ発揮されるので知らない者も多い。
「何度も言わせるな!私はなにも知らん!」
「お前さんが九年前の事件に関わってたのは間違いないんだ。裏付けの最中だが、ボス相手に言った言葉が何よりの証拠だろ」
「知らん!あの小娘も、貴族を騙るなど言語道断ではないか!アーキハクトの小娘は死んだのだ!」
「自白してるようなもんじゃねぇか。ほら、話せよ。素直に話してくれたら、お前さんも死なずに済むかも知れねぇぞ?」
「くどいわっ!」
「ラメルさん、その辺りで」
背後にある鉄の扉が開く音に混じって鈴を転がすような可愛らしい声が部屋に響き、ラメルは肩を竦めてニフラーを見つめる。
「時間切れだな。お前さん、この決断を後悔するぞ」
立ち上がったラメルは椅子を退けてニフラーの前を開ける。そこに変わらず村娘スタイルのシャーリィが現れる。彼女は一人の男性を伴っていた。
「ヤンさん、彼に見覚えは?」
シャーリィの連れてきた男性は、三者連合の『荒波の歌声』を率いていたヤンである。
アーキハクト伯爵家で起きた悲劇に間接的な関わりがあり、素直に自分の知る情報を全てシャーリィに提供することで命を奪われることなくマーサ率いる『黄昏商会』の一員として働いている。
「間違いありません。あの日の前日、私達が荷物をお屋敷へ運び込む際に見届け人としてあの場所にいました」
貴族同士の者のやり取りでは、必ず見届け人が付く。確実に届いたことを証明するためである。
「だそうですが?ニフラー筆頭従士」
「しっ、知らん!その平民の戯れ言だ!ガズウット男爵家の私ではなく平民の言葉を信じるつもりか!?」
「はい、信じますよ。ヤンさん、ありがとうございました」
「お役に立てたならば幸いです、お嬢様」
深々と一礼してヤンは地下室を後にする。
「くっ!今ならばまだ許してやるぞ!直ぐに私を……ひぃ!?」
シャーリィはニフラーの言葉を聞き流しながら壁際に置かれたテーブルに近づき、そこにある板に鉈のような物を何度も叩き付けた。ダンッ!ダンッ!と言う鈍い音を響かせて、ニフラーを驚かせた。
「なっ、なにをしている!?それはなんだ!?」
「ああ、これですか?指を切断する時に使う器具ですよ。しばらく使っていなかったので不安でしたが、ちゃんと使えるみたいで安心しました」
可愛らしい笑みを浮かべるシャーリィを見て、ニフラーは底知れぬ恐怖を抱いた。
「今から貴方に幾つか質問をします。正直に答えてくれたら、五体満足のまま長生きできますよ?嘘を吐いたら、指を一本ずつ切ります。あっ、手足を含めて二十本しか無いので注意してくださいね?」
「気でも狂っているのか!?なぜそんな恐ろしいことを、笑いながら言えるのだ!」
「狂ってる?いえ、正常のつもりですが」
「だから言ったんだよ、従士サマ。俺が聞いている間に話してくれたら終わってたんだ」
「ラメルさん、情報は?」
「知らないんだとさ」
「質問した回数は?」
「四回」
「では四本ですね。最初は左手からいきましょうか」
「おいっ!話を聞け!おいっ!聞いているのか!?」
何をされるか悟ったニフラーは身体を揺らして逃れようとするが、ここで彼は自分が複数人に取り囲まれていることに気付いた。
彼を囲む者達の名は、セレスティン、ロウ、エーリカ。そしてルイス。
アーキハクト伯爵家の関係者達である。
「押さえてください」
周りの者達に押さえられ、左手を伸ばされたニフラー。
「止めろ!おい!止めてくれ!誰か止めろーっ!」
ニフラーの叫びも空しく、板に固定された左手の指にめがけて鉈が振り下ろされ、人差し指から小指までの四本が宙を舞う。
「ぁああああああっ!!!!」
ニフラーの絶叫が響き渡る。
「これで四本ですね。では質問します。貴方はアーキハクト伯爵家襲撃についてどこまで知っていますか?」
構わずシャーリィが質問を投げ掛けたが。
「ぁああああああっ!!!!私の!私の指がぁあっ!?」
絶叫するニフラーには届かなかった。
「質問の答えは、私の指ですか?意味不明ですね。一本です」
そのまま無慈悲に最後の親指に向けて鉈が振り下ろされ、ニフラーは左手の指を全て失う。
「ぁああああああっ!!!!ぁああああああっ!!!!」
泣き叫ぶ彼を尻目に、シャーリィは傷口を観察する。
「思ったより出血が多いですね」
「シャーリィお嬢様、死んでしまいますよ?」
「大丈夫ですよ、エーリカ。ちゃんと準備しています。ロウ」
温厚なロウも黙ってシャーリィに緑色の液体で満たされた小瓶を差し出す。
「ありがとう。はい、ニフラーさん。あーん」
「おらっ!口を開けろよ!」
ルイスが無理矢理口を開かせ、エーリカとセレスティンが頭を固定。シャーリィが小瓶の中身を無理矢理飲ませた。
「んぐっ!?」
すると、瞬く間に傷口が塞がっていき止血することに成功する。それだけではなく、ニフラーは感じていた激痛が無くなったことに気が付いた。
「ふふっ、死なせるつもりはないので安心してください。貴方にはたくさんのことを聞きたいので」
だが、目の前で満面の笑みを浮かべる少女や自分を鋭い視線で見下ろす周囲の者達を見て、自分の地獄は始まったばかりだと強制的に悟らされる事となる。