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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。現在ガズウット男爵家の筆頭従士ニフラー相手にお楽しみ……じゃなくて、尋問を行っています。ただ予想より出血量が多かったので、ロメオ君に用意して貰った薬を使う羽目になりましたが。
「なんだこれは……痛みが引いた……!?」
ニフラー自身もビックリしている様子。まあ、急に傷口が塞がって痛みも消えたらビックリしますよね。
「|回復薬《ポーション》ですよ。それも原液です。効き目はバッチリみたいですね?」
ロメオ君に用意して貰ったのは、うちで生産している薬草から精製された回復薬の原液です。
「凄いな、これを使えば死人は居なくなるんじゃないか?シャーリィ」
「事はそう単純では無いのです、ルイ」
この回復薬は、身体の新陳代謝?まあ生命エネルギーを大量に消費して傷を癒してしまうもの。
つまり、使えばどんな怪我も治りますが寿命を縮めてしまう副作用もありますし、病気を患っていた場合悪い……えっと、レイミ曰く菌?ウイルス?まで活性化してしまうので更に悪化してしまうのだとか。世の中美味い話だけでは済まないみたいです。
ただし、尋問する相手に使うなら問題なし。詳細なデータを提供する条件でロメオ君から受け取りました。
「まあ、それは良いでしょう。気分はどうですか?少しはお話をする気になりましたか?」
「っ!申し訳ございません!アーキハクト伯爵令嬢様!どうかお慈悲を!全て話させていただきます!」
おっと、態度が急変しましたよ。まあ、左手の指はなくなりましたし得体の知れない薬を飲まされたんです。恐怖が勝りますよね。好都合ですが。
「では、あの日についてお尋ねしますね?あの襲撃にガズウット男爵家も関与していたと?」
「そっ、それは……」
「ん?」
私が鉈を見せながら笑顔で続きを促すと、彼は青ざめました。はて?
「はい!関与しておりました!」
慌てて答えてくれました。そっか、関与してる……ううむ、その言葉を聞いた瞬間どす黒い感情が胸に渦巻くのを感じますね。
でも、まだ我慢しないと。
「何故ですか?」
「おっ、お嬢様は御存知無いかと思われますが、伯爵様の改革と呼ばれる蛮行は、帝国貴族の長い歴史と伝統を否定するものでありました!」
確かにお父様は民を虐げる横暴な貴族達を排除して、民のために心を砕く本来の貴族のあり方に戻そうと尽力されていました。
その為敵も多かったのは幼いながらに承知しています。
「このままでは、帝国貴族の未来に暗雲が立ち込めるばかり!閣下もその事を深く憂いておりました!そんな時、アーキハクト伯爵家を除いてしまおうと言う動きがあることに気が付いたのです!」
「続けて」
聞けば聞くだけどす黒い感情が溢れそうになりますが、我慢我慢。
「閣下はその一派に加わることを決断されたのです。私も詳しくは分かりませぬがっ……幾人もの貴族が名を連ねたのだとか!」
「首謀者は誰ですか?」
ここが一番重要なポイントです。
「そっ、それが分からないのですっ!閣下曰く、書状によって指示が出され、読んだ後は焼却処分するように通達が来たのだとか!閣下もそれに従った様子で、証拠の類いは……本当です!」
私が鉈を見せると改めて言葉を強めましたね。ふむ、手紙を使ったやり取り。証拠隠滅まで徹底していると。
確かに表沙汰になれば大事ですからね。誰もが証拠隠滅に協力したでしょう。
「では、企みに参加した他の貴族を教えてください」
私が別の質問を投げ掛けると、ニフラーは青ざめた顔をしました。苦渋かな?
「そっ、それを言えば私は殺されてしまいます!」
おや、不思議なことを言う人ですね。
「秘密を話せば殺されると言うことですか?」
「そうです!どうか、その義だけはご容赦を!」
「分かりました」
「あっ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
はて、なぜ感謝するのでしょうか?
「エーリカ」
「はい、お嬢様!」
「小指で良いです」
「はい!」
「はっ!?なにを……ぁああああああっ!!!!」
素早くエーリカとルイが右手を拘束して小指に鉈を振り下ろしました。
「質問に答えていませんからね。それに、話したら殺される?話さなかったら、私から惨たらしく殺される事実を理解していない様子ですね?」
当たり前の話ですよね?
それから私はもう一度同じ質問をして吐かせました。更に吐いた後にもう一本指を飛ばして改めて質問しても同じでしたから、間違いは無いでしょう。
「ラメルさん、記録出来ましたか?」
「ああ、直ぐに調べさせる。嘘は言ってないだろうが、裏を取らないとな」
「お願いします」
今回判明したのは、シリウス子爵家とパウンド男爵家の関与です。シリウス子爵家は東部閥、パウンド男爵家は南部閥。ガズウット男爵家は西部閥ですから、派閥で首謀者を特定するのは難しいですね。
悲鳴が煩かったのでもう一度回復薬を飲ませて尋問を再開します。
「貴方達の役割は?襲撃に関与していたのですか?」
「わっ、私と閣下は直前偵察として、パーティーに参加したのですっ!そのっ、お嬢様のご生誕を祝うパーティーでございます」
あー、そう言えば珍しくガズウット男爵家も参加したと耳にしたような。記憶が曖昧なのは、家族以外に関心が薄かったのもありますし、ドレスで可愛らしく着飾ったレイミをこの目に焼き付けると言う大命を遂行していたからです。悔いはありません。
「旦那様はガズウット男爵と関係が改善できるとお慶びでした。それが卑劣な策略であったとはっ!」
「おいたわしや、旦那様……」
セレスティンは怒りに震え、ロウも涙を流しています。ガズウット男爵はいつも代理の使者を出すだけでしたからね。
伯爵の招待に男爵が大した理由もないのに代理を派遣するなんて普通に考えたら無礼なんですが、お父様はその辺りをあまり気にされていなかったので侮る連中も居ましたね。
「それで?」
「パーティーの後、近くの宿で待機していた茶髪で青い瞳の青年に状況を報告して私達は帝都を離れました!本当です!」
茶髪で青い瞳。ヤンさんが証言した人物と特徴が一致しますね。首謀者、或いはその手の者でしょう。
うん、収穫としては充分です。後はガズウット男爵本人の証言と合わせれば完璧ですね。
「ご協力に感謝します」
「では!」
「ご安心を、まだ貴方を殺すつもりはありません。男爵にもお話を聞かないといけませんからね」
おや、まるで絶望したような顔をしましたね。私の大切なものを奪っておいて、自分が助かるなんて夢を見た様子。
許すはずが無いでしょう?
「貴殿方の企みで、私は全てを失いました。貴殿方から奪わない理由はありませんよね?」
「てっ、帝国貴族を敵に回すおつもりか!?」
「既に手は打っています。誰もガズウット男爵家の滅亡を関知しませんよ。独房へ、自害などされないように気を付けてください」
「畏まりました」
「お任せを」
「お待ちを!お嬢様!お慈悲を!お慈悲をーっ!」
セレスティンとエーリカに引きずられながら部屋を連れ出されました。
「また別の貴族の名前が出たな、シャーリィ」
「問題ありません。少しずつ真相に近付くだけです」
後はレイミが上手くやることを祈りましょう。復讐の時は近い。