防風鈴高校に戻り、仲間たちと一緒に校門をくぐる伊織。その存在に仲間たちの視線が集まり、彼女の戦いぶりが記憶に鮮烈に刻まれていた。
「伊織さん、すごい動きだったね。ほんと感心したよ。」蘇芳隼人が穏やかな口調で彼女を称える。
楡井秋彦も軽く笑顔で続ける。「伊織さん、頼りになりますね。」
その場にいた柘浦大河が腕を組みながら、「ワシ正直、桜の妹がこんなに頼もしいとは思わへんかったわ。ほんまええ感じやな。」と素直に話す。
桐生三輝は優しく微笑みながら、「伊織ちゃん、マジで凄いね。あんなにカッコイイ動き見せられちゃったらオレも頑張らなきゃって思っちゃうよ。」と柔らかい声で言った。
仲間たちの言葉に伊織は静かに微笑み、「見るだけのつもりだったけど、必要なら動きます。」と冷静に返す。
桜遥は伊織の方をちらりと見ながら、わざとぶっきらぼうに言葉を吐いた。「…まあ、頼りにしてるって言ったら喜ぶんだろうけど。別に無理するなよ、勝手に動いて困るのもこっちなんだからな。」
その言葉に、微かな照れと素直じゃない兄の感情が滲み出ていた。
夏休みの日、白い砂浜が陽射しに輝き、青い海の波が心地よく押し寄せる。桜伊織たちは仲間たちと一緒に夏の日差しを満喫していた。
「楡ちゃん、もう少し奥まで行けば魚も見えるかもよ。」桐生三輝が軽やかに笑いながら楡井秋彦に声をかける。三輝のチャラい雰囲気に乗せられた秋彦が「そっすね。行きましょうか!」と答えながら海へ進んでいく。
伊織は波打ち際で二人を眺めながら、「私は見るだけで十分楽しいの。」と静かに呟いた。その様子に蘇芳隼人が優しい声で話しかける。「伊織さん、水も気持ちいいよ。一緒に泳ぐのも悪くない。」
「泳ぐのはあとで考えるね。」伊織は微かに笑みを浮かべながら返答した。
「ワシはバーベキューの準備でもしてくるわ。腹減ってるやろ?」柘浦大河が水鉄砲を片手に持ちながら砂浜を歩いていく。その声には彼らしい関西弁が響いていた。
そこへことはが合流し、砂浜の隅にシートを広げながら「みんな、怪我しないようにね」と優しい声をかけた。彼女は仲間たちを心配する様子で伊織の方にも視線を向ける。
「ことはさんがいると安心する。」伊織が少しだけ柔らかな声を出してそう言うと、ことはは微笑みながら「伊織さんも楽しんでね」と返す。
仲間たちがそれぞれの楽しみ方で砂浜を満喫する中、青空と海が彼らの絆をさらに深めていく。
伊織は青い海で優雅に泳ぐ中、小鞠簪が髪から外れて落ちたことに気づいた。焦るように水中を覗き込む彼女の様子は、いつもの冷静な彼女とは違って見えた。
近くで泳いでいた蘇芳隼人が彼女の様子に気づき、静かに近づいてきた。そして、小さな簪を手にしながら穏やかな声で言った。「これ、君のでしょ。」
その言葉を聞いた瞬間、伊織は8歳の頃の記憶が鮮明に蘇った。幼い彼女がいじめっ子に簪を奪われて泣いていたとき、どこからともなく現れた男の子が、その簪を奪い返してくれた。少年が手渡してくれた時の「これ、君のでしょ。」という優しい声が、今の蘇芳の声と重なった。
伊織は過去の記憶の中に浮かんだ少年の笑顔を思い出しながら、静かに蘇芳の手から簪を受け取った。「ありがとう、蘇芳さん。落としてしまって焦った。」
蘇芳は微笑みながら、「君に似合っているものだし、ちゃんと持ってなよ。」と優しい声で返す。その言葉に伊織は短く頷き、髪に簪を留め直した。
波打ち際へ向かう伊織は、過去と現在が静かに繋がる感覚を胸に秘めながら、どこか安心した表情を浮かべていた。
波打ち際で髪に小鞠簪をつけ直した伊織は、微かに海風に笑みを乗せながら仲間たちの方を振り返った。砂浜では楡井秋彦が水鉄砲を手に持ちながら、「楡ちゃん、もっと狙って狙って!」と桐生三輝に夢中で応戦されている。
伊織はその様子を少し離れた場所から見守りながら、過去の記憶が蘇芳の行動と重なったことを胸に抱きしめた。彼女は蘇芳に軽く視線を向け、静かに「ありがとう。」ともう一度口にした。
その後、伊織は砂浜で仲間たちの輪に加わり、ことはが準備した冷たいスイカをみんなで分け合う時間が始まった。「甘い!」楡井秋彦が嬉しそうに声を上げると、「ワシの焼きそばもそろそろええ感じやで。」と柘浦大河が自信たっぷりに語る。
桐生三輝は笑顔で「伊織ちゃんもスイカ食べてみなよ。冷たくておいしいからさ。」と促しながら皿を手渡す。伊織はその声に応じてスイカを一口かじると、「確かに甘いね。」と短く答えた。
青空と海風に包まれる中、笑顔と絆がさらに強く感じられるひとときが流れていた。
つづく
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