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翌日、折西はいつもより早く目が覚めた。
…というよりは寝れなかったのだ。
「そんな…あんなことした記憶が全くない…」
思い出そうと頭を抱えても首を絞めた
記憶なんて出てこなかった。
「…外に出て空気でも吸おう。」
折西は部屋から出て外へと向かった。
・・・
「…お姉さんはあの日の記憶、ありますか?」
街中を歩いている時、折西はお姉さんに聞いた。
「融くんが働き始めてからは私、
出てこれなかったから分からないや…」
「出てこれなかった?」
「うん…働く前までは融くん、
私と一緒に鍵開けしてたんだよ。
けれど部署が変わった時から私の声が届かなく
なっていつの間にか私、気を失ってて…」
「…そうなんですね。どうしてでしょう…」
どうしてだろうね…?とお姉さんはうーんと
思考をめぐらせていた。
折西もあの日倒れた時や部署が変わった時に
ついて考えていた。
「そういえば、部署が変わった時にすごく
怖い人がいて…名前が…『白花(はっか)』…」
途端に折西にフラッシュバックが
襲いかかってきた。
「あの時、嘘の資料を徹夜で作らされたり、
職員の前で罵声を浴びせられたり、
僕の弁当がひっくり返されていたり…」
折西の目の前はぐにゃりと曲がり、そのまま
倒れ込んでしまう。
「大丈夫ですか、折西さん?」
どこかで見た事のある手が差し出される。
折西はその手を取ることしか出来なかった…
・・・
折西が目を覚ますと手術のライトが
目の前にあった。
「おや、目を覚ましましたか。」
目の前には影街の中にあった心療内科の
先生がいた。
ネームプレートには『白花(はっか)』と
書かれており折西ははね起きそうになる。
しかし折西の手足は固定されておりその場から
動くことは出来なかった。
「あ〜あ、動いちゃダメですよ。
安静に、です。」
白花は折西の首を絞めるように押さえつける。
「カハッ…!」
「全く、急に病院に来なくなるから
心配したんですよ?」
心配しているのか分からなくなるくらい
首を絞める手の力は強くなる。
折西の意識が薄れていく。
(…まだちゃんと、昴さんにごめんなさいを
言えてないのに…)
「…ヒューッ、ヒューッ…」
折西の発したごめんなさいは誰にも届くこと
なく空気の出入りの音だけを出した。
「やっと手に入れた。アイツの大事なもの!!!
俺の勝ちだ!!!!!!」
首を絞めたまま高笑いする白花は不気味な程に
恍惚とした表情をしていた。
「これで俺は昴の人生をめちゃくちゃに、」
「そうか、手に入れられてよかったな。
奪われることを念頭に入れなかったか?」
「…は?」
白花が後ろを振り向くと上から見下ろす
昴の姿があった。
突如白花は昴のスタンガンを腹部に受け、
その場に倒れ込む。
呼吸ができるようになった折西は
ゼーゼーと呼吸をしている。
「…折西も易々と捕まるな、うちの組が
なめられる。」
「…昴さん!!!あ、あの!!!
あの時は本当にごめんなさい!!!」
「…あの時?なんの事だ?」
「あの日僕が昴さん…隼人さんの
首を絞めた日の…」
「ああ、あれか。別にいい…だって。」
昴はスタンガンを折西の腹部に当てる。
「うっ」
折西はよろけ、ぐったりとしている。
ただ白花と異なりその場に立ったまま姿勢を
崩していない。
「…あの時俺の首を絞めたのは融じゃない。
…融の中にいた「災厄(さいやく)」だ。」
折西はニイっと笑うと昴を睨みつけた。
「やっぱり勘の鋭い奴だなお前。」
「フン、お前の管理が甘いだけだろ。」
「チッ、やっぱ俺コイツ嫌い。」
言い合う二人を見て白花は目を輝かせる。
「これだ!!!!!これが私が折西くんに
求めていたものだ!!!」
「白花、やっぱりお前…折西の中にいる
災厄を出させるつもりで麻薬を…!」
「まるで汚いものを見るかのような目だな。
私は手段を選ばないだけだよ。」
白花が折西の傍に行くと両肩を掴んだ。
「大木が災厄を産み、災厄がファージを産む。
そうとは聞いていたけどまさかファージでは
なく災厄と契約する人間がいるなんて!
そんなの実験対象じゃないか!!!」
「クソが…趣味の悪い。」
「勝手に吠えてなよ、影街のわんちゃん。」
バチバチと火花を散らす2人を退屈そうに
災厄は見ていた。
「なぁ、俺に用事があるってことだろ?
何なんだよ、要件は?」
災厄が面倒臭そうに聞くと2人は声を揃えて、
いや、不揃いで答えた。
「災厄を滅ぼしに来た。」
「折西 融を滅ぼしたいね!」
「ふーん、そしたら俺は白花に助太刀するか。」
「チッ…まあ1人になることは分かりきっては
いたが…」
昴は小型コンピュータを取り出し、構えた。
「…あの、昴さん…1人じゃないですよ…?」
お姉さんが昴の肩をぽん、と叩いた。
「…あ?」
「やっぱり!私の姿見えるじゃん!!!
おかしいと思ったんだよね〜!!
催眠スプレーした時も私を睨んだでしょ!?」
「チッ、たかがお前如きに助けることなんて…」
「できるんだな〜!!というか!
多数決で言えば私たちの勝ちだし!」
「お前を人数に加えても2対2だが…?」
「失礼だね!!災厄くんが乗っ取ってる
あの身体の中で取り返そうとしてる
融くんは!?」
「…は?アイツ意識があるのか?」
「うん、なんか出ようとしてる。」
昴は災厄を見ると余裕ぶった表情が一瞬崩れ、
災厄が顔を歪ませていた。
「何を話してるんですか〜??限界すぎて
幻覚でも見えてるんですかね、可哀想〜!」
「…なるほどな。」
昴がドローンを解き放つとそれらは
砲撃を開始した。
「そんな陳腐な砲撃如きで私が怯むと
思ってるんですか、ねっ!!!!!」
白花は注射器のような形のファージに
命令を下す。
すると壁から大量の注射器が現れ、
砲撃するかのように昴目がけて発射された。
ヒュンッ
注射器のひとつが昴の頬を掠めると
そこからじんわりと血が滲んできた。
「…ぐっ!!なんだこれ、視界が…」
「私の武器に毒が仕込まれていないとでも?」
「チッ、汚ぇ手段だな…」
昴はドローンの砲撃を続けるが視界が
注射の毒の影響で黒に覆われ、
的確な指示が出せずにいた。
お姉さんの指示でなんとか攻撃を避けるだけで
精一杯だ。
「クッソ…ドローンすらどこに砲撃しているか
分からん…!」
試しに砲撃ボタンを押すと自分の後ろで
爆発をし始める。
ドォン!!!!!!!
すると砲撃の煙とともに折西が後ろから現れる。
「これで終わりだ、邪魔者。」
折西は黒い帯状の攻撃を喰らわそうと
構えている。
「クソッ、避けられな」
「隼人さん、少し我慢してくださいね。」
「…!」
折西の表情は一瞬柔らかくなり、
黒い帯は収束した。
ーそして、鍵を昴に差し込んだー
「さっき災厄に抗っていて分かりました。
隼人さん、貴方の首を絞めたあの時の
言葉は僕じゃなくて災厄自身のものだ。」
「けれど、自分が管理しなきゃいけない
災厄が隼人さんを傷つけた。
それは僕自身にも責任があります。」
「…そもそも契約はお互いが了承して
執り行われるものだ。
折西はただ違法契約されていただけで…
…もっと早くそれに気がつくべきだった。」
「違法契約とはいえ、問題行動を起こした時に
『自分は悪くないんだ』と思ったから災厄に
いつまで経っても気が付かなかった。」
折西は両手拳を強く握りしめる。
「…入院する前は3人ほど怪我人を出したものの
珈琲の中に誰かが麻薬を混入していた事が
判明して『麻薬のせい』となって仕事は
継続することになりました。」
「…けれど、大量殺人を犯してクビになった時、
麻薬は見つかりませんでした。
結局は災厄を管理しきれていない
『自分のせい』だったんです。」
「…結局僕は何も変わっていなかった。
影國会の皆さんは変わっていくのに、
僕だけは何も…
けれどもう僕は変わるって決めたんです。
だから僕は災厄に勝ち続けます…何度でも!!」
「だから、昴さんは御自身を責めないで
あげてください。貴方の文通、すごく
嬉しかったです!」
「…融…」
折西が勢いよく鍵をひねると白が
視界を包み込んだのだった…
・・・
「なっ、なんださっきの光は!?」
白花は慌てふためいている。
「おう、ただいま。テメェをぶっ殺す案を
折西と話していただけだ、気にするな。」
「…本当にどこを切り取っても腹立つ発言
ばっかりだねぇ、君のは。」
白花は引き攣る顔面を片手でおさえた。
「んじゃ頼んだよ、ファージ。」
白花はファージに指示を出すとまた
砲撃を開始し始めた。
「よし、テメェがその気なら…
ファージ、真契約だ!」
昴が左手を目の前に掲げると
ファージが光り始めた。
やがてその光は昴を包み込み、
青い雷を放ち始める。
そして光が消える。
そこには天使の羽と輪のようなものに
ロングブーツ姿の昴が立っていた。
インナーのようなものも着ているが…
「な、なんか…破廉恥な衣装ですね…?」
折西が恐る恐る聞く。
「こんなッ…親御さんの前に立てないような
スーツをどこで仕立てたんだ
このクソファージ!!!!!!!」
顔を真っ赤にした昴はファージに掴みかかる。
「アア!!!!!イタイッテ!!!!!
タタクナバカ!!!!!!!
フクハ イマイチ カモ ダケド セイノウ ハ
カンペキ ダカラサ!!!」
そう言うとファージは試しにここを
押すようにと袖にあるモニターを指さす。
左袖のモニターを押すと盾が、
右袖のモニターを押すと剣が出てきた。
「か、カッケェ…」
昴が感動しているとファージは
「ダロ!?」とドヤ顔をしている。
「いい加減にしてくれませんか!?
敵はここにいるんですよ!?」
白花は自分に構わない昴にキレながら
攻撃を再開する。
しかし昴は盾で庇うと針はぐにゃりと
曲がって地面に力なく落ちていった。
「よし、次は俺の番だな。」
そう言うと白花と距離を一気に詰める。
白花も焦って攻撃を開始しようとするが
武器を召喚するのに時間がかかってしまう。
そんな無防備な喉元に昴は剣を突き刺した。
ザシュッ
白花はそのまま力なく倒れ込んだ。
「や、やりました!!!おめでとうござ」
昴は勝利に喜ぶ折西にすかさずスタンガンを
腹部に突きつけた。
「ああっ!!融くんになんてことを!?」
お姉さんはすかさず折西の手を握ろうとする。
しかしお姉さんの手は払い除けられてしまった。
「ったく、うぜーな…」
手をパンパンと払うと昴をキッと睨みつけた。
「なんだよ、俺は負けたつもりはねぇぞ。」
「俺も勝ったつもりは無い、
お前を殺すまではな…」
奇遇だな、俺もだ。と昴は災厄を見下ろした。
するといきなり、昴の足元から黒い帯が伸び、
足を掴むと宙吊りにした。
持っていた剣や盾で帯を切ろうとするが
帯は硬くかえって剣に刃こぼれを生じさせた。
「チッ、汚ぇ戦い方だな。お前によく
お似合いだよ。」
「だろ?一生逆さまの世界眺めてろよ。
よくお似合いだよ。」
小言を小言で返され、腹を立てた昴は
ファージにこっそり他に武器はないか聞いた。
「ブキナラ アレガ アルケド…ダ、ダサイトカ
イワナイ…??」
「は?ダサいのか?殺す…」
「ダ、ダッテ!!!テンシノ イショウ
キライナンデショ!?ブキモソレッポイカラ…」
「…天使っぽい武器…?なるほど、
それならいい。むしろ好都合だ、貸せ。」
「ハ!?ホントウニ!?オ、オコラナイ…?」
「すぐ貸さないと怒る、貸せ。」
2人でブツブツ言っているのを見て
災厄をため息をついた。
「おい、何2人で騒いでんだ?
今置かれてる状況に泣きたくなったか?」
災厄はあぐらをかいている。
「ああ、そうだな。今泣きそうだ。
…テメェを始末出来そうでな!!!」
昴は右袖左袖のモニターをくっつけ、
弓矢を出した。
「お、おいまさか…この中に折西も
いるんだぞ!?!?!?正気か!?」
「知らん!折西なら何とかするだろ!!!
じゃあな災厄、二度と来んな!!!!!」
弓矢は昴の指から放たれ、災厄の右肩を貫く。
すると折西から黒い固まりが弾き飛ばされた
ようにして出てきた。
「し、しまった!!!出てきちまった…あっ」
災厄の目の前には昴が弓を構えていた。
災厄は溜息をつき、降参だ。と大人しく
昴に捕らえられたのだった…