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岸本(きしもと)沙耶(さや)は32才。
夫の友也(ともや)は33才の会社員。
二人は結婚5年目で、念願の『一戸建てマイホーム』を建てた。
沙耶は結婚後も仕事を続け、いまも正社員で勤務している。
製薬会社の事務員で、勤務は5時30分まで。
たまに残業があるが、土日祝日は お休みだ。
次の目標は妊娠。
35才までに出産したいと思っている。
夫婦仲は良好で、コウノトリを待つばかりだ。
すべてが順調に思えたが、
新居に転居した翌日、友也の父が心筋梗塞で急逝した。
夫が亡くなったのに、姑の恵子(けいこ)は嬉々としていた。
長年の重荷が無くなった、厄介払いができた、という感情が溢れている。
葬儀の日。
恵子が当然のように「友也と同居する」といった。
恵子は60才。一人暮らしが不安な年齢ではない。
これには理由があった。
「やっぱり友也は、約束を守ってくれたのね」
友也の父は、低収入でギャンブル好きだった。
マイホームなど夢の夢だ。
溜息をつきながら不動産会社の広告を眺める母に、
小学生の友也が「僕が家を建てる。お母さんにプレゼントする」と
約束したらしい。
本人は覚えていないが、恵子は、ずっとずっと信じて待っていた。
「私のために、家を建ててくれたのね」
微笑む恵子を見て、沙耶は背筋が凍った。
違う! 違う! この家は、私が建てるっていったのよ!
[賃貸派]の友也と話し合って、[購入派]に変えたのは沙耶だ。
家の頭金は、沙耶と友也で折半した。
だが痛恨の大失敗は、『家の名義』を友也にしたことだ。
「共同名義にするべきだった!」
沙耶は、何度も何度も後悔することになる。