テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昨日は、サクに早く寝なよ~と急かされていつもより大分早く就寝した。添い寝してあげるよ、とも言って隣に寝転んでいたはずのサクは、やっぱり朝になると見えないのか、姿が無かった。
❤️サク?居るの?
やっぱり返事はない。彼が居ないと随分と静かだ。数日前までずっと独りだったのに、何故か寂しくなる自分が居た。
ふと我に返る。どうしてこんなにサクのことを考えているんだろう。部屋に出た幽霊ともなれば、お祓いしたいとか、早く引っ越したいと思うのが普通だろうに。
でも俺は、サクに会いたいと思ってしまっている。
そんな煩悩にも似た感情をどうにかしようと、顔を洗うため立ち上がる。
鏡を見ると、俺の顔は随分と火照っていた。
❤️なんで、俺…
もしかして俺、サクのことが好きなのか?
そう自らに問いかけると、さらに頬が熱くなった。
また出社の時間に間に合わなかったのは、ずっとサクのことを考えていたからだと思う。
また上司に叱られて、自分のデスクに戻る。向かいに座る幼なじみで同期の翔太が、ニヤつきながら話しかけてきた。
💙なんか涼太、最近楽しそうじゃん。
❤️え?そう?怒られてばっかだけど。
そうじゃなくて、と翔太は笑った。
💙涼太、恋でもしてんの?
❤️はぁ?
💙保育園からあんっだけモテてたのに、誰からの告白もオッケーしなかった涼太が…ついに恋かぁ。相手どんな感じ?
❤️だから、そんなのないって。
💙幼なじみに隠し事は不可能。
❤️…はぁ…。
たまに翔太は幼なじみという肩書きにかこつけて、さらっと痛いところを突いてくる。
今回も嘘はつけなさそうだ。
❤️まあ、いるよ。好きな人
💙うわ!マジか!どんなタイプ?
❤️んー。派手髪で、性格は明るくて、どっちかっていうと可愛い系。
💙はーーん。なるほどなぁ。
翔太は立ち上がって隣に来て、俺の肩を叩いた。
💙頑張れよ。応援してる。
❤️…おう。ありがと。
💙ん!付き合えたら報告しろよな。
❤️はいはい。
💙じゃあ出張いってきまーす。お土産買ってくる!
❤️ありがと笑 いってらっしゃい。
翔太が部屋を出ていくと同時に、目黒が部屋に現れた。
🖤あれ、渡辺さん出張ですかね。
❤️そうらしいよ。今日から3日間だって。
🖤そうなんですか。じゃあ
目黒は俺の耳に顔を近づけて、優しく響く低音で告げた。
🖤俺、涼太さんのこと独占できますね。
❤️…え?
🖤ふふっ。それと、これ今日の会議の資料です。
❤️えっ、ああ。ありがとう。
🖤じゃ、これで失礼します。
目黒は資料を手渡してすぐに颯爽と姿を消した。
今日は何だか上手く行かなかった。会議では、目黒が届けてくれた資料も助け船にはならず、前から頑張って用意したプレゼンも大失敗だった。その後も上司から嫌味を言われ、とにかく散々な1日だった。
帰宅も、日付の変わった深夜になってしまった。
❤️ただいま。
🩷おっかえりーん涼太!
❤️うん。
サクは俺の顔色を見るとすぐに、首を傾げた。
🩷今日なんかあった?
❤️…わかる?
🩷うん。元気ないね。
❤️バレちゃうか。
🩷俺、涼太がこの部屋に来てから、ずーっと涼太のこと見てたもん。分かるよ。
❤️…そっか。
🩷こういう日はね…ついてきて。
❤️え?
サクは俺の手を引いて、ベランダに出た。冬の澄んだ冷気が、俺の頬を撫でた。
🩷ここからでもけっこう星見えるんだ。今日は、オリオン座がよく見えるよ!
❤️どれ?
🩷あっちの方にある、星が3つ並んでて、ちょっと砂時計みたいな形の星座。
❤️あ、あった!ほんとだ。よく見えるね。
🩷綺麗でしょ!
❤️うん!
🩷元気出た?
❤️うん。ありがとう。
🩷ふふ、良かった!
サクは太陽みたいな笑顔で、にかっと笑って俺に抱きついた。
でも、サクは俺には触れられず、俺の体をすり抜けて立ち止まった。
🩷あ…そっか。俺もう死んでるから、触れないんだった。あはは…忘れてた。
❤️そっ…か
サクは俯いて、長い桜色の前髪が顔にかかった。表情は見えない。
🩷ごめん。もう、寝たら。
❤️…うん。サクは?
🩷俺、寝ないんだ。眠くならないし、腹も減らない。だから気にしないで。
❤️…でも、寂しくはなるんじゃない?
無理やり作ったような笑顔で言うサクに、気づいたら俺はそう問いかけていた。
俯いていたサクは顔を上げた。ようやく見えた大きな瞳は、潤んでいた。
🩷…っ。
❤️昨日のことの、答えなんだけど。
🩷うん。
❤️俺も、サクが好き。
サクの半透明な頬に、また透明な涙が伝う。そんな瞬間でさえも綺麗だと思えた。
🩷…ほんとに、こんな幽霊の、俺なんかでいいの?
❤️うん。俺、サクに会えるまで、ずっと独りで寂しかったんだ。誰のことも好きになれなくて。
サクの瞳は、俺だけを捉えて揺れている。ちらちらと降り始めた雪だけが、ふたりの間にある。
❤️でも、こうしてサクが好きって気づけた。後悔なんかしないし、させないから。
俺の言葉が耳に届いたのか、サクは優しいような、それでいて悲しそうな微笑みを浮かべた。
🩷…ありがとう…俺もね、ずっと涼太と話してみたかった。でも俺の声は届かなくて、とにかく寂しかった…一緒だったんだね、俺たち。
❤️そうかもね。でも俺は触れなくても、そばに居るから。
🩷うん!俺も。
サクは、今度は太陽みたいな明るい笑顔になって、そっと俺に歩み寄った。ベランダの柵に置いた俺の手に、サクは手を重ねる。
触れた感覚は当然ない。でも、隣で笑うサクの笑顔を見ていると、自然と心が温かくなった。
Next・第3話 ぶつかる想い