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吸血鬼の世界線マッシュル3
【レイン視点】
最近、フィンが担当する教会が完成したら
しい。
アイツは弱虫だが、俺のたった1人の家族だ。
そんなフィンが修道士になり、兄弟で話すことは減っていった。
ある日俺はフィンのいる教会へと足を運んだ。
奥深い森の中は魔獣がわんさかいる。
やはり、こんな場所にフィンを修道士として
派遣するのは反対した方が良かったか……
そんなことを思っていた。
いくら修道士が教会の中にとどまっているとしても心配でたまらない。
だが、フィンは
「僕も兄様みたいに人の役にたちたいからさ」
そう言っていた。
本当に優しい子に育ったものだ。
昔を懐かしむように足を進めていると、
開けた場所にポツンと建つ、教会にたど
着いた。
(ここか……フィンは上手くやっているだろうか……)
俺は教会の重い扉を開けた。
そこに居たのはフィン、と……
見知らぬヤツだった。
「おい、フィン。修道士の仕事はどうだ」
俺がそう声をかけると、フィンは驚いたのか
こちらを見た。
「あ……兄様……!」
なんだか焦ったような上擦った声に俺は違和感を覚えた。
俺はフィンの隣にいるヤツに目を向けた。
「……誰だこいつは…っ!お前、吸血鬼か!」
すぐにわかった。
俺は魔獣や吸血鬼を狩る”狩人”と呼ばれる役柄に就いていた。
だから吸血鬼と一般人の見分け方など簡単にわかる。
俺は懐から杖を取り出し、そいつに向けた。
すると横からフィンが俺を止めに入った。
「待って!兄様!マッシュくんは僕の友達なんだ!」
「友達だと…?吸血鬼とか?
お前……忘れたのか?俺たちの両親は吸血鬼に殺されたんだぞ?」
平和に暮らしていた俺の家族が、
血に飢えた吸血鬼に殺された。
あの時のことは忘れたくても忘れなれない。
だから俺は吸血鬼を殺せる狩人になったんだ。
もう、何も失わないために。
「で、でも!マッシュくんは他の吸血鬼とはなんだか違くて…!」
「吸血鬼に違いもクソもあるか。見てろ、
フィン。これが吸血鬼の醜い姿だ」
俺はフィンの言い分は無視し、ナイフで自身の腕を切りつけた。
そしてその腕から流れ出る血をそいつの方へと向けた。
「ほら、お前の大好きな血だぞ」
俺は稀に生まれる”希少種”だ。
希少種というのは血が特殊な人間のことを言うらしい。吸血鬼の最高の食料だと言う。
だから俺の血の匂いを嗅いで襲ってこない吸血鬼などいなかった。
そいつも同じだと思っていたんだ。
だが、
「…何してるんですか?痛そうですけど…」
そいつには効かなかった。
「……!?なんだと?お前は吸血鬼だよな?」
「はい、そうですけど」
動揺する俺にそいつは淡々と答えた。
「じゃあなぜお前は血が欲しくならない」
「え…説明しなきゃダメですか?」
そいつはあからさまに面倒くさそうにした。
そこへフィンが口を挟んだ。
「実はマッシュくん人間とのハーフかなんかで、血を飲むのは1ヶ月に1回程度でいいんだって。その影響かもしれないけど、
兄様の血にも反応しないんじゃないかな?」
「説明ありがとうフィン君」
「いや、そんな他人事に言われても…」
そんな会話が2人の間で繰り広げられていた。
「…その話を本当だと信じよう……だが、フィンに何かしてみろ。その時は覚悟しておけよ」
一旦納得はしたが、フィンに何もしないよう、釘を刺しておこう。そうゆうつもりで言ったのだがそいつは
「もちのろん。大切な友達に酷いことしないよ」
「そうか…」
腑抜けた声でそう言うヤツの声にさっきまでの緊張感や、怒りの感情が吹っ飛んだ気がした。
「あ、名前教えてください。
僕はマッシュ・バーンデットです」
「……レインだ」
「じゃあレインくんだ。よろしく」
そう表情を変えずに言うそいつは俺にそっと手を差し伸べた。
だが、吸血鬼はタチの悪いやつが多い。
裏切る可能性があるため、俺はその手を取らなかった。
「悪いが、まだお前を信頼している訳じゃない」
するとそいつはあからさまに肩を落とした。
「そうすか……じゃあ僕もう行くよ。
シュークリームありがとう、フィン君」
「あ、うん……」
そうフィンに手を振り、そいつは教会を出ていった。
「なんだか腑抜けたヤツだな」
「うん……僕もそう思う」
アイツ……もとい、マッシュがいなくなった教会でそんな会話をしていると、
「そういえば兄様!腕の傷!治すから見せて?」
「あぁ、すまない……」
俺自身でも腕から血が出ていることを忘れていた。
俺は腕を差し出すと、フィンは杖を取り出し、
呪文を唱えた。
「フィン、アイツとはいつから知り合った」
フィンに治してもらっている最中に俺は話しかけた。
「え…教会が出来る数週間前からかな……」
そんなに前から……そう思っていると、
フィンが口を開いた。
「僕、ここら辺の下見に来ようとした時、魔獣に追いかけられて、、、逃げ切った時に、
マッシュくんに出会ったんだ。僕も最初は動揺したけど、なんだかマッシュくんのあの態度に気が抜けちゃって……」
そう話すフィンはクスクスと笑い、治療が終わったのか「終わったよ、痛くない?」そう聞いてきた。俺は「あぁ」と軽く返事をした。
俺もなんだかアイツは大丈夫なヤツなんじゃないかと思い始めた。
確かにアイツの腑抜けた声は俺の気を紛らわせた。
素直にこんな吸血鬼がいるのか、そう思った。
「……なぜ、報告しなかった。伝書フクロウがいるだろう」
「だって言っちゃったら兄様、マッシュくんのこと殺しちゃうじゃん!」
食い気味に言われた。
「まぁな……そういえば、なぜアイツはこの森にいるんだ?吸血鬼が住んでいるのはもっと北の方だろう。」
俺はふと疑問に思い、フィンに聞いた。
「ほら、マッシュくんは人間とのハーフだって言ったでしょ?
それで追い出されたんだって……それに、後で聞いたんだけど、マッシュくん魔術が使えないらしいんだ。」
「魔術が、使えない?」
魔術は吸血鬼が使うことができる、魔法の様なものだ。それが使えないとすると、本当に彼は人間とのハーフなのかもしれない。
「それでね、追い出されて、森の中を彷徨っていたら人間の老人に保護されたんだって。
もう亡くなっちゃったみたいだけど…」
「……そうだったのか」
不覚にも同情してしまった。
「でもマッシュくん、すごく面白いんだよ?
魔術が使えなくたってなんでも出来ちゃうし!僕、ここに来たらずっと1人だと思ってたからさ……マッシュくんがいて本当に良かったって思ってる」
フィンがそう微笑んだ。
俺でもその表情を見たことがなかった。
吸血鬼に両親が殺されてからフィンはずっと
なにか思い詰めているようだった。
だが、今の表情は友達といるのが嬉しいのか
声を弾ませていた。
アイツのおかげか……そう思った。
今度アイツにあったら謝らなくてはな。
心の中でそう思った。
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