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続き楽しみです!
📖 第三章:「少し変な午後 」
昼休みのあと。
教室にはまだ数人いたけど、だんだん人が減っていく。
チャイムが鳴って、放課後になるころには——
残っていたのは、○○と冴だけだった。
○○は窓際の席に座っている。
体を横にして、足をぶらぶらさせながら、外を見ていた。
冴は教室の後ろのドアから入ってくる。
いつも通り、静かに。
そのまま、○○の前の席まで歩いてきて——
椅子を引いて座る。
冴:「……帰らないのか」
○○は振り向かない。
窓の外を見たまま、小さく笑う。
○○:「うーん、どうしよっかな」
はっきりしない答え。
冴は机に肘をつかず、背もたれにも寄りかからず、ただまっすぐ座っている。
視線は、○○の背中。
○○は急にくるっと椅子を回して、冴の方を向く。
○○:「サエくんは?」
冴:「帰る」
即答。
○○は一瞬だけ止まって、それから笑う。
○○:「そっか」
でもそのまま、立ち上がらない。
代わりに、机の上の消しゴムを指で弾く。
コロコロと転がって、机の端で止まる。
○○はそれをまた弾く。
冴はそれを見ているだけ。
何も言わない。
○○:「ねえ」
冴:「……何だ」
○○は消しゴムを止めて、じっと冴を見る。
○○:「なんでさ、ずっと見てるの?」
冴:「見てない」
○○:「見てるじゃん」
冴は少しだけ目を細める。
冴:「気のせいだろ」
○○はくすっと笑う。
○○:「ふふ、変なの」
次の瞬間、○○は急に立ち上がる。
椅子がガタンと音を立てる。
そのまま、教室の真ん中まで歩いていって——
くるっと一回まわる。
○○:「なんかさ、じっとしてると落ち着かないんだよね」
冴は椅子に座ったまま、視線だけで追う。
冴:「……そうか」
○○はまた歩く。
今度は黒板の前まで行って、チョークを一本取る。
そして、小さく丸を描く。
もう一つ、丸。
○○:「これ、何に見える?」
冴:「……丸だろ」
○○は一瞬止まって、それから笑い出す。
○○:「そのままじゃん」
冴は無表情のまま。
○○はチョークを置いて、また机の方に戻る。
途中で、少しバランスを崩して——
机に手をつく。
冴の視線が一瞬だけ強くなる。
でも、何も言わない。
○○は何事もなかったみたいに、自分の席に座る。
そして、また椅子を揺らす。
前に、後ろに。
ギシ、ギシ、と小さな音。
○○:「ねえ、サエくん」
冴:「……何だ」
○○:「こういうの、イライラする?」
冴は少しだけ間をおいてから答える。
冴:「別に」
○○はにやっと笑う。
○○:「ほんとに?」
冴:「ああ」
短い返事。
○○はしばらく椅子を揺らしていたけど、急に止める。
そして、机に頬をつける。
○○:「……つまんないな」
冴は何も言わない。
教室は静かになる。
外の風の音だけが聞こえる。
○○は顔を上げて、冴を見る。
○○:「でもさ」
冴:「……何だ」
○○:「サエくんがいると、ちょっとマシかも」
冴は一瞬だけ目を細める。
でも、すぐ元に戻る。
冴:「……意味わからない」
○○は笑う。
○○:「いいよ、わかんなくて」
そのまま、また椅子に寄りかかる。
足をぶらぶらさせながら、天井を見る。
しばらく、何も話さない時間が続く。
でも○○は、ちらちらと冴の方を見る。
冴はそれに気づいているけど、何も言わない。
ただ、そこにいる。
動かず、変わらず。
○○は小さく息を吐く。
○○:「……ねえ、もうちょっとだけいてよ」
冴はすぐに答えない。
少しだけ間があってから——
冴:「……別にいい」
○○は少しだけ笑う。
今度は静かな笑い。
教室にはまた、ゆっくりした時間が流れる。
誰もいない空間で、
落ち着かない動きと、動かない視線が、
少しずつ重なっていく。
END