テラーノベル
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弱い奴など惨めで情けなくて嫌いだと思っていた。でも、シンくんと出会ってから僕はその弱さに安堵する様になった。か弱いシンくんを押さえつけるのは簡単で、僕の手からすり抜ける事を防いでくれる。僕に止められないシンくんなどいない。だからずっと、弱いままでいて欲しい。前なんかに進まずに、ずっと僕に捕まったまま。
シン君、愛してるよ。君は知らないだろうけど、僕たちは似ている。世界に置き去りにされたような、孤独な存在。僕の過去は闇に塗れ、君の能力は君自身を孤立させる。君は僕の思考を読み取れないと言うけれど、それは僕の変装が君を欺けないと言う事でもある。まさに運命で、そして必然。僕らは出会うべくして出逢った。
君のあの大きな目、怒ったときの表情、すべてが愛おしい。置いて行かれてしまった癖にずっと前に進もうとする君が眩しくて、憎かった。君の心臓の音、息遣い、すべてを独占したくなった。外の世界は君を傷付け、君は嬉々として傷つけられに行く。坂本くんや他の連中が、君を僕から引き離そうとする。彼らには分からない。僕の愛の深さと、底なしの乾きを。だからシンくん、僕ら二人で幸せになろうね。
side南雲
「……シンくん?なんで逃げるの?」
彼は転がるように走る。雨の帳の向こう、尾を失った彗星のような光が、僕の手から滑り落ちていく。まるで僕を嘲笑うように、軌道を外れてゆらめく。少し、わざと迷うふりをする。君を安心させ、もっと必死に走らせるために。僕のために行動を起こす君が、愛しい。
繁華街を抜け、裏路地へ。ゴミ置き場の金網、閉店の札、唸る業務用の室外機。匂いは金属、油、飴細工みたいに割れたガラス。どれもシンくんには似合わない。僕から逃げるように背の高いものの影に入ってしまう。──自販機、廃コンテナ、油の抜けたドラム缶。
僕はわざと視線だけを彷徨わせ、濡れた地面を舐めるように泳がせる。
「あはは、シンくんってば、かくれんぼしたいの?子供だなぁ〜。いいよ、付き合ってあげる」
愛らしいシンくんは、こんな雨の夜に、僕とゲームをしたいらしい。濡れた髪が頬に張り付き、怯えた瞳が闇に光る。こんな夜、大の大人がかくれんぼだなんて、笑えるほど滑稽だ。でも、君とのゲームなら、僕は喜んで引き受けるよ。
「ここかな〜?」
隣の段ボールを足で乱暴に蹴り上げる。中は空だ。
「それとも、ここ?」
自販機の横、缶の投入口に指をかけて覗き込むふりをする。視界の端で、君の呼吸が一瞬止まる。見つけた。とうに見つけている。影の切れ目に手を伸ばす。濡れた髪を掬い、シンくんの悲鳴が喉を通る前に、指を唇に当て、静かにさせた。
「あは、みーつけた♡」
「っ…!」
シンくんの肩が跳ねる。振り払われた手が、雨に濡れて冷たい。僕の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。必死に生きようとする、か弱いシンくん。あぁ、でもその目は駄目だ。僕に怯えないで。
「ごめんね、シンくん」
「い、いやだ…!!やめろ!!離せ!」
暴れるシンくんを力づくで押さえつける。そんなに見つかったのが悔しかったのかな?子猫みたいににゃあにゃあ言っているけれど、今は夜だ。近所迷惑になってしまうし、人が集まることは避けたい。シンくんの顔を避けて拳を振り下ろす。彼は崩れ落ち、雨音が僕たちの始まりを祝福する拍手のように響き続けていた。
sideシン
目が覚めると、柔らかなシーツに絡め取られていた。頭が鉛のように重く、視界は靄の奥からゆっくりと輪郭を浮かび上がらせる。部屋はあまりにも広く、まるで高級ホテルのスイートルームを模した虚飾の空間だ。俺を飲み込むように深いキングサイズのベッド、枕は羽毛の感触で沈み込み、サイドテーブルにはクリスタルグラスが静かに光を反射している。誰のものとも知れない、ぶかぶかのシャツに包まれた俺以外、全てが完璧だった。
空調の整った温もりに、異物のような冷たさが忍び込む。鎖だ。細く、銀色に輝く鎖が、ベッドの柱に俺を縛り付けている。部屋を這う程度の長さはあるが、扉の向こうへは一歩も届かない。試しに引っ張ってみるもびくともしない。強固なのに、表面は滑らかで、まるで俺の肌を傷つけることを拒むように加工されている。まるで俺を「大切に」閉じ込めたいと囁くように。
「シン君、おはよう。よく眠れた?」
声が響き、部屋の隅から南雲が現れた。スーツ姿、顔には穏やかな笑みが貼り付いている。だが、その目はどこか空虚で、底知れぬ熱が揺らめいている。手にはトレイがあり、朝食が乗っていた。卵料理、トースト、コーヒー。
「ここは…何なんだ、ふざけんな」
声が震える。南雲はベッドサイドに腰を下ろし、トレイを置いた。指先が俺の髪に触れる。優しく、だが凍えるような冷たさで。背筋が、ぞくりと縮こまる。
「ふざけてなんかないよ。これは君のための部屋。素敵でしょ? 今日からここが僕達の楽園だよ!」
声は甘く、まるで蜜を垂らすようだった。
「は?意味わかんねぇよ…この鎖外せ」
「…鎖?やだなぁこれは鎖じゃないよ。僕たちを繋ぐ運命の糸!」
「”繋ぐ”…?縛るの間違いだろ?」
「シンくんったら物騒!それよりさ、おはようのキスは?」
「ふざけんっ…いッ!!!」
ベッドから跳ね起きようとした瞬間、体が無理やり縫い付けられる。ベッドが軋み、悲鳴のような音を上げる。南雲の拳が、俺の骨の上に正確に、だが優しく置かれる。笑えるほど痛い。
「っ痛ぇよ…」
「じゃあ逃げないで」
南雲の声が低くなる。深淵の様な冷たい瞳で見下ろし、俺の手首を音が鳴るほど捻り上げる。
「っ…」
「逃げたら…両足切っちゃうよ。もちろん君もだけど…君の友達も、怪我しちゃうかもね」
喉がひゅ、と勝手に抗議し、視線が噛み合う。コイツは、何を言っている…?交わった視線から感じる熱は俺だけを焼き尽くそうと輝いていて、居たたまれずに目を逸らした。
「……離れろよ」
「離れる代わりに、約束して」
「誰がお前なんかと」
「ふーん。じゃあ、選択肢」
視界の端で、白いトレイがゆらりと揺れる。注射器。透明な液体が、静かに揺らめいている。隣には、ラベルを剥がされた小瓶。心臓が凍りついた。南雲は、どこまで本気なんだ…?
「あのね、こういうものも用意してみたんだけど、必要かな?」
猫を撫でるみたいに柔らかい声。
「愛し合ってる僕らには、こんな物必要ないよね?クスリなんかに頼らなくても…僕たちの愛は本物だし」
脅しじゃない体裁の、純粋な脅し。言葉は甘く、なのに毒のように染み込む。南雲が注射器を手に取り、指先でくるくると回す。その動きは、まるで俺の心臓を弄ぶように緩慢で、どこか淫靡だ。
「……わかった。わかったから、退け」
「流石にそこまでバカじゃなかったか〜。いい子だね、シンくん」
声のトーンが少しだけ軽くなる。鎖はまだ重いまま。南雲は注射器を朝食と同じトレイに置き、代わりに横のスプーンを手に取った。白い皿から、温かな匂いが漂う。甘く、吐き気を誘うような匂い。
「ほら、シンくん。あーん♡」
「今そーゆー気分じゃねぇ」
即答した俺を、南雲はじっと見つめる。笑いは口元に貼り付いたまま、目だけが注射器の針に滑る。脅されている事は明白だった。
「ダメだよ、シンくん。ちゃんと食べなきゃ。こんなに細い体、壊れちゃったら…僕、悲しくて死んじゃうよ。」
その言葉は、愛の告白のようで、呪いのようだった。俺の胃が締め付けられる。
「いいって言ってんだろ!」
思わず声が跳ね、天井でひしゃげて落ちた。南雲は肩の力を抜いたまま、トレーの上の小瓶を爪で叩く。
「……そう。やっぱ使わなきゃダメか〜」
声は柔らかいまま。南雲は小瓶を手に取り、わざとらしく、ゆっくりと振ってみせる。錠剤がガラスの中で踊る。俺に勝てる算段など、どこにもない。
「っわかった。自分で食う。それでいいだろ?」
「だーめ」
「は?なんでだよ」
「いいから、はい。あーん♡」
「だから——ッ」
言葉の上に、南雲の指が顎をそっと支える。親指で口を開かされて、無理矢理温かいスープが流し込まれる。喉の奥に食器が入って苦しい。何度も何度も、餌付けを繰り返された。
「変なことはしないよ。シンくんが賢ければね」
その言葉は、愛撫のように俺の耳を撫で、毒のように心を侵す。舌打ちを飲み込み、諦めて口を開け、食事に集中した。
「上手だね。食事は生きる為の行為だよ、シンくんが僕のためだけに生きようとしてくれるのが嬉しいな」
「……」
「おいしい?」
返事をせずに咀嚼した。味は、ちゃんとしている。ムカつくがうまい。
そんな日が、何日も続いた。朝から南雲は仕事だのなんだの言って消え、カメラとセンサーの気配が部屋の角で呼吸している。夜には決まって戻り、俺に食べ物を運んだ。ため息一つで俺のささやかな抵抗を無効化し、優しい指先で頬を撫でる。その触れ方は、まるで俺の肌を永遠に刻み込むように、甘く、粘つく。
そして、毎日決まった時間に行われる、不気味な行為。
南雲はベッドの縁に座り、俺の胸に耳を当てる。俺の呼吸にあわせて、南雲の頭が小刻みに上下する。そのまま、一時間。何かするわけでもなく、じっとそうしている。
「生きてる……音がする……シンくん……」
ぶつぶつと、いつも同じ言葉。なぜこんなことをするのか、聞いてはいけない気がした。俺の心臓を確かめる行為が、愛情なのか、所有欲なのか、それとももっと深い狂気の何かなのか。
今もそうだ。俺は天井の角を見て、塗装のわずかな凹凸で星座を作って暇を潰す。心の中で逃げ場を探すが、南雲はただ、静かに俺の心音を貪っている。ここに攫われてから毎晩、ずっと。俺の鼓動が彼の狂気を養っている気がして、吐き気がするのに、どこか麻痺した快感のようなものが混じる。
「なぁ、お前さ……気持ち悪いよ」
彼の頭はすこしだけ動き、耳が心臓から離れる。
「こんなこともうやめようぜ。誰にも言わねぇからさ。こんな……閉じ込めるみたいなこと……」
「違う!!!」
被せるように、喉を裂く声。
「閉じ込められてるのは僕の方だ!!!」
「ちょ、っと、南雲…?」
「シンくんのせい、全部シンくんのせい!!ずっと……シンくんに閉じ込められてる……どうすればいいの……?どうしたらよかったの……?もう、訳わかんない……」
「南雲…?」
泣いている、のかもしれない。泣き方を忘れた大人の、ぎこちない模倣。引いた。身体が勝手に後ずさる。ここにいてはいけない、という本能が叫ぶ。空気が重く、俺の喉を締め付ける。それでも鎖がベッドで嘲笑い、俺を逃がさない。南雲の狂気が部屋全体に染み渡り、俺の皮膚を這う。
「な、なんなんだよお前。さ、さっきから……」
「……もういい」
さっきまで癇癪を起こしていた南雲は急に静かに立ち上がり、照明も消さないでベッドの反対側に転がった。枕を顔に押し当て、布の上から声を通す。
「僕、明日は朝早くから遅くまで仕事で家いないから……ご飯食べといてね。じゃあおやすみ」
寝息。嘘みたいに早い。演技かもしれない。本気かもしれない。どっちでもいい。度肝を抜かれた。初めて見た顔だった。あいつの崩れたところを見た。──もしかして。一つの気掛かりが喉に引っかかる。寂しい、のか?いや、違う、違うだろ。流されるな。俺は枕に顔を押しつけ、考えを押し戻した。
明日、いない。朝から夜まで。出るなら、そこだ。出る。ここの空気は、肺を甘やかす。甘やかされ続けると、呼吸は怠ける。怠けた呼吸は、他の空気で溺れる。出るなら、肺がまだ泳ぎ方を覚えているうちに。
朝が来た。南雲は家を出て仕事に向かった。鍵の音。エレベーターの機械音。遠ざかる足音。静寂だけが味方をしてくれる。
足音が消えるやいなや、俺は立ち上がる。鎖は、昨夜のうちに外してある。南雲が、信じられないことに鍵を俺のそばに置きっぱなしで眠ったのだ。ミスか、罠か。考える暇はない。靴箱を開けるが予想通り俺の靴はなかった。捨てられたに決まっていた。
仕方なく南雲の靴を勝手に頂戴して部屋を出た。タワマンの廊下はホテルみたいに長く、エレベーターに乗っている時間でさえも俺を焦らせた。
久しぶりの外の空気は想像より軽くて、なんだか安心した。金もない。スマホもない。この街の名前も、ここがどの端かも、分からない。だが俺にとってこんな事よくある事だった。ここがどこかよりも、どこに行けるか、それが重要だった。
歩く。とにかく歩く。あの薄気味悪い男から逃れられるよう。一時間くらい歩いた所で公園を見つけ、俺は疲れでベンチに沈みこむ。監禁生活から逃げ延びて、やっと一人で息をつけた。坂本さんたちの所に戻らなきゃ。とりあえず、誰かに道を聞いて…
「大丈夫?」
見知らぬ男の影が、俺を覆う。背が高く、細い。俺と同じ明るい髪。初めて会ったはずなのに、笑みがどこか異様に馴染み深い。笑みというより、顔に貼り付けた仮面のような、作り物の温もり。
「うち、おいでよ」
俺は頷いた。とにかくアイツから離れることができればなんでも良かったから。俺はもう何も考えたくなくて、彼にお礼だけ述べて窓の外を眺めていた。相変わらず見慣れない景色。さっき通った交差点。さっき見た看板。さっき歩いた道…?
戻ってる?
そう思った瞬間、膝が浮く。いや、男の家がこちらなら、別に戻っていてもおかしくない。そう自分に言い聞かせる。男がちらりとこちらを見た。
「大丈夫?顔色悪いよ?疲れてるのかな。疲れてる時には甘いもの!これでも食べな」
ポケットから出されたポッキー。もう開いている。先端に欠けがある。食いかけだ。…まさかな。そんなことがあるはずない。
「ふは、食べかけかよ!サンキュ!」
手を伸ばす。ポッキーを渡してくる手。線。見覚えのあるタトゥー。俺は指先を止める。視線が、手から腕へ、肩、首、顔へ。
──南雲。
さっき俺の手を引いた明るい髪の好青年はどこにもいなかった。いるのは目の底に暗さを宿し笑っている男だけ。俺の笑っていた口が、すぐさま固まり、息が止まる。
「おかえり、シンくん」
声は甘く、毒のように染み込む。車はすでに駐車場に滑り込む。無理やり降ろされ、腕を引きずられてエレベーターへ。鍵の音。扉。数時間で、俺はあの「楽園」に引き戻された。南雲の指が、俺の腕に食い込む感触が、まるで愛撫のように熱い。
side南雲
「ッ…!!」
逃げ出した悪い子なシンくんをベッドに無理矢理押さえつける。視界を覆う様にネクタイを巻きつけ、暴れる細い手首を鎖に再び繋ぎ止めた。僕の愛猫はいつも元気だから、こうしていないと今日みたいにすぐ何処か行ってしまう。
「は、離せよ!南雲……っ!」
「……ねぇ、なんで逃げたの?」
耳元に口を近づけて囁くがシンくんはそっぽを向いて答えてくれない。なぜ僕から逃げるのか問うた。僕を好きだと言った女達が喉から手が出るほど欲しがった最高の生活と僕からの愛。それを手にしたのにも関わらず逃げるなんて馬鹿だ。馬鹿でしかない。愚かなシンくんのシャツを捲り上げて脇腹に指を這わせる。
「ひっ!な、なにすんだよ!」
「お仕置き…いや、仲直りだよ。シンくんが飛び出しちゃって僕すっごく傷ついたの。だから謝ってもらいたくて」
「ひぁっ……!」
そのまま指を上に滑らせる。肋骨の一本一本を数えるように、丁寧になぞる。僕が本気を出せばこんなひ弱なシンくんなんてポキっと逝ってしまう。だから大切に大切に宝石箱に隠しておきたいんだ。
「っ……ふ……♡」
「声我慢しないで?仲直りえっちは素直にならなきゃ終わらないよ〜」
「ち、違う!♡♡」
「何も違わないと思うけど」
僕はそのまま肋骨を一本一本撫で上げ続ける。
「一回脱いじゃおうか。どうせびちゃびちゃになっちゃうからね」
「やだ!やめ、ろ……っ!」
否定の言葉を並べながらも浅ましく揺れるシンくんの腰をぐっと押さえつけて、細い足首を掴む。シンくんの奥がよく見えるように大きく脚を開かせて、ソコへ指を突き入れた。
「ひぁっ!?♡♡や、やめっ♡」
「こら、シンくん締め付けすぎ…僕の指もってかれちゃいそう♡」
僕はわざと意地悪な言葉を選んで耳元で囁く。 そのまま彼の中を掻き回すように動かした。ぐちゅぐちゅという音が部屋に響く。性に疎いシンくんはえっちな音が恥ずかしいらしく、映画やドラマのキスシーンに入るリップ音でも顔を真っ赤にする。
「シンくんのここ、ヒクついてるよ」
「ぁ……っ♡ちが、ちがう……!んぁっ!♡♡」
「中指ふやけてきちゃった〜笑」
そのままシンくんの気持ちいいところを強く擦ってやると彼の身体が大きく跳ね上がり、同時に僕の指もきゅうきゅうと強く締め付けられる。そんなに切なそうに締め付けなくてもハイスペイケメン彼氏の恋人溺愛ちんぽは逃げないのに♡
「あ、彼氏の事おいて勝手にイかないの。分かった?」
「……んっ……」
涙目で小さく頷く姿に思わず笑いそうになるけど我慢する。ここで笑っちゃ可哀想だからね。それよりも僕はこれから人生で1番大事な瞬間と向き合わなくちゃいけない。ずっと、この日を待っていた。大切に大切にシンくんの細い腰を持ち直す。
「っはぁ…やっとだ…シンくんのハジメテ、いただきます…♡♡♡」
彼のアナルに僕のモノを押し当てる。彼は小さく悲鳴を上げて僕を見る。大丈夫だよ、すぐに気持ちよくなるからね。ゆっくりと中に押し進めると、彼は甘い吐息を漏らす。それを聞いて安心した僕はそのまま激しく出し入れを繰り返した。
「ん゛っ!あっ♡あ゛ぁっ♡♡!!!」
「シンくん、気持ちいい?」
「んぁっ!♡♡♡やだっ、やめっ……!!」
シンくんは必死に抵抗するけど、力が入らない様だった。小動物みたいな体で無様に暴れて、本当に可愛い。強請る様に差し出されている乳首を摘んであげると彼は大きく身体を跳ねさせた。
「んぁっ♡♡♡」
「あれ?ここも感じるの?」
「ちがっ、あっ!」
「違わないよね。嘘つくのやめよっか。僕嘘嫌いって何回言えばわかるの?」
僕はそのまま指先で転がすように愛撫する。その度にシンくんが甘い声を漏らすから、僕のモノもその声に答えてしまう。
「あぁっん♡♡だめっ、やだっ……!!♡」
「ダメじゃないでしょ?こんなに締め付けてくるくせに」
「ちがっ、あぁんっ!♡♡」
「お〜イってるイってる笑」
彼の奥を何度も突き上げる。その度に中が甘える様にきゅうっと締まるのが堪らない。是非ともシンくんのお口もこの素直さを見習って欲しいものだ。僕は彼の首筋に噛み付くようにキスをする。
「あ゛ぁっ!♡やだっ、!!やめっ…… ♡♡」
「……ねぇ、シンくん」
「んぁっ……♡♡♡な、に……?♡」
「僕のものになってよ」
「え……?」
「僕だけのものになってよ」
「な、何言ってんだよ……っ♡」
僕は彼の唇に自分のそれを重ねる。舌をねじ込んで歯列をなぞる。逃げようとするシンくんの舌を追いかけ絡め取る。唾液を流し込むと彼は苦しそうに咳き込んだが、それでも飲み込もうと必死に喉を上下させていた。
「ねぇ……いいでしょ?シンくんのハジメテもサイゴも僕が良いの。僕だけがいいの」
「……嫌だ」
「どうして?僕の何が不満なの?」
「お前…自分がしてる事を理解してるのか?」
「質問してるのは僕なんだけど。まぁいいや、ダメならその気にさせるだけだし」
聞きたい返事が聞けないため僕は再び腰を動かし始める。今度はゆっくり、焦らすように。
「んっ……♡♡♡」
「ありゃ〜自分から腰振ってるの?変態さんだねシンくん」
「それはッ……なぐもが……♡」
「あ、僕のせいにするんだ?別にいいけど」
焦らしながら奥をついてやるとシンくんはその度に腰をくねらせて嬌声を上げる。早く僕のものになればいいのに。何がそんなに彼を強情にするのか。
「んっ、あっ!やだっ、も…助けて…っさかもと、さん…っあ♡♡」
………
その名前が聞こえた瞬間動きが止まった。たちまち訳のわからない衝動に駆られ、苛立ちの代わりに腰を思い切り打ち付けると彼は背中を反らせて達した。でも動きは止めない。何度も何度も奥を抉り続けると彼は涙を流しながら喘いだ。シンくんは何と言った?サカモト?なんで。なんで。なんで、?
「シンくん酷い…酷い酷い酷い!!!!今シンくんとセックスしてるのは南雲与市でしょ?!シンくんの恋人の南雲与市ッ!!!」
「やっ、あ゛ぁ゛〜〜〜〜〜〜〜ッ♡♡♡♡♡♡ごめ、なさっあ゛ッ!!!!♡♡♡♡許じッぇ♡♡♡ッ〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡」
「シンくんは坂本くんとはセックスできないの!!!シンくんと今セックスしてるのは誰!?答えて!!!」
的外れな事を言っている自覚はある。でもそんな事考えていられないくらいに、イラついた。僕はそのまま激しく動いて彼の首筋に噛み付いた。赤い痕がつくほど強く吸い上げる。置き去りにされた癖に悔しみも憎しみも滲ませず真っ直ぐ友人に着いていくシンくんと言う星を堕としたい。
「な、ぐッ♡♡なぐも、なぐもッ♡♡♡♡」
「そうだよ、君を悦ばせてあげられるのは僕だけ」
あぁ、気持ちいい。最高だよ、シンくん。君は僕のものなんだ。誰にも渡さないし、逃がしてあげない。ずっとここで僕と暮らす。君の居場所はここ。
「あ゛ぁ゛っ!んっ、やぁっ……ッ♡♡♡」
「シンくん、注ぐよ…ッ…全部塗り替えてあげるからね…!!!」
「いや゛ッ!!!やめ、〜〜〜ッ♡♡なか、だめッ♡♡やだやだやだぁ゛ッ♡はなせっ!!!♡ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡」
僕はシンくんの最奥を突き上げたと同時に果てた。それと同時に彼もまた達したようで僕のものを締め付けてきた。僕はそのまま中に全て注ぎ込むとゆっくりと身を引き抜いた。どろりとした白濁液が流れ出るのを見て思わず笑みが溢れた。これでもう後戻りはできない。
「愛してる……シンくん」
sideシン
全部終わって俺が再び目を覚ます頃には、体がベッドの形を覚えていた。もうここが俺の居場所だと脳に植え込む様に体が動かない。南雲が上から覗き込んでくる。
「ねぇシンくん……そんなに僕といるのが嫌?」
弱々しく縋り付く様な声。泣きたいのはこっちだと言うのに、被害者ヅラをして俺の手を握ってくる。
「んな……無理矢理するやつと一緒にいて、いいわけねぇだろ……」
「そっか……じゃあ、はい」
手のひらに、冷たいものが乗せられた。鍵。
「は……?」
「今ここで選んで」
南雲は視線を落として、唇で言葉を切り分けるみたいにゆっくり続ける。
「ここから出ていくか、それとも僕のこと殺すか」
なんの冗談だろうか。どちらにも血の匂いのする選択肢。喉から怒鳴り声が出る前に、彼の顔がさらに暗くなった。目の底に、小さな悲しみが沈んでいる。
「シンくんが出ていくなら、僕は死ぬから」
「…は?」
しおらしい声で告げられた脅迫。ずるい。ずるいだろ。そんなの。出ていけるわけ、ないだろ。大抵の人は、誰かの死を握りつぶせるほど、強くない。少なくとも、俺は。
「あ、なんならシンくんも一緒に死ぬ?心中だね〜。僕ら、2人でいるのが最適解なんだからそれが叶わないなら2人で死のうよ笑」
「笑えねぇ冗談はよせよ」
「……本気だよ」
心臓が勝手に速度を変えるのが分かる。骨が絡まる。見えない鎖が、俺を縛る。南雲が、急に弱々しく見えた。迷子の子供の様な、捨てられた子猫のような、今触れてやらないと次はもう2度と来ないような危なさがあった。
「……わかった……わかったから」
「…」
「もう少しだけいてやるよ。な?」
腕が上がる。自分の意思かどうか、判断ができない。南雲を抱きしめる。体温が移る。移って、戻らない。抱擁はどちらともなく溶け合い、完全にムラを無くし、2度と分離することを不可能にした。
全てを受け入れてここにいると言った日から、南雲の病はさらにエスカレートした。
「これ、花屋さんで買ったんだ。シンくんに似合うと思って」
ある日は花を贈られた。南雲は俺の髪にその花を差し込んで綺麗だよと笑った。
「今日はね、シンくんがテレビで見て行きたそうにしてた所!写真撮ってきたんだ」
ある日は写真を撮ってきた。俺が金で解決できないものに興味を示した時、南雲は大体写真を撮ってきた。
ある意味、少し絆されていたのかもしれない。薄気味悪い心音を聞くだけの行為は毎日続いていたが、朝撫でる様に起こされて、美味いご飯を食べさせられ、愛してると囁かれながら撫でられる。もし俺が南雲の女だったら、この生活を愛と呼べたかもしれない。だから俺は少し忘れていた。南雲の本当の狂気を。
「ただいま、シンくん。今日はこれ、開けてみて?」
「…おかえり、南雲。」
南雲はいつもの様に贈り物を持ってきた。細い封筒。軽く、まるで空気しか入っていないかのよう。中から出てきたのは、黒い髪の束。湿り気を帯び、人の体温をまだ覚えているような感触。吐き気が喉を締め上げる。誰の髪だ? なぜここに?
「ほら……シンくんがよく仲良くしてたお客さんの髪の毛だよ。名前は分からないけど笑」
「っ…え…?は…?」
言葉の調子は、昨日と同じ優しさの温度で、内容だけが異常に急降下する。脳の奥でブレーキが利かない。心拍が勝手に走る。呼吸が上手くできない。
「あれ、あんま嬉しくなかった……?」
悪びれもなく南雲は首を傾げる。やめろ。やめてくれ。南雲の無邪気さが怖い。喉が上下する。その音を、南雲の耳が拾っている。
「シンくんが寂しいと思って……」
寂しいから人の髪の毛を贈るのか?殺したのか?なんで?俺のせい?
「落ち着いて。ほら、手、貸して。やっぱ他人の髪の毛なんてばっちいから捨てちゃおっか。ごめんねシンくん」
差し出された手を、拒めなかった。拒めないことすら、コイツは計算に入れている。指が絡まる。体温が移る。移って、戻らない。
次の日、南雲はまた俺に贈り物を持って帰ってきた。昨日の今日で正直見る気にはなれないが、南雲の機嫌を損ねることの方が危険だった。薄紙の中に、細いブレスレット。見覚えがある。友達がつけていたやつ。金属の目には、赤い拭い残し。
「これはシンくんの友達がつけてたやつ……あ、ちょっと血が付いたままになってる……待ってね、今拭くから……」
撫でるように拭われ、赤は薄まる。言葉が出ない。息を吸うたび、胸が締め付けられる。南雲が怖い。それと同時に、自分の体が彼の支配下にあること、それが最も怖かった。
「プレゼントって難しいね〜!あ、つけてみたら?」
難しいのはお前の頭の配線だ、と言いたくて、言えない。息の仕方だけが、今日も彼の言うとおりになる。肩を上下させる速度まで、彼に合わせてしまっている事実が、いちばん恐ろしい。
なんだか、疲れた。
別の日。南雲は俺をベッドに押し倒した。押し倒す動作に、疼くほどのやさしさを混ぜてくるのが嫌で仕方なかった。
「君がここを楽園にしてくれないなら……僕がしてあげるから……」
南雲の顔が近づいてくる。額が触れ合う瞬間、皮膚の薄さが不気味な親密さを生んだ。気持ち悪いのに、どこか心地よい。もうとっくに、俺は南雲に狂わされているのかもしれない。
「読んで」
言われた通りにエスパーを使うと、何かが流れ込んでくる。偽りの記憶。美しい嘘。見た覚えのない景色なのに、懐かしいという感情が先に立つ。南雲は、俺に偽りの記憶を植え付けようとしている。洗脳、という言葉が遠巻きに首を伸ばして覗いてくる。
俺を散々巻き込んで色々してきた癖に、自分が一番傷ついた顔をしている。俺がこんなやり方で洗脳されない事に気づいているのに、ずっと必死に額を押し付けてくる。見苦しくて、滑稽で、愛おしかった。俺はそれを押し返しながら、南雲の過去を知らないことを知らされる。
こいつはたぶん、ずっと独りで頑張ってきた。必死に俺に縋る南雲を見て、哀しい人だと思った。気がつけば腕が上がっていた。南雲を抱きしめ返していた。頭を撫でていた。撫で方を知っていた自分に驚く。指先で数える髪の束は、俺のものより柔らかい。
「なぁ……」
もう、全てを赦してもいいかもしれない。監禁されてから変わっていく気持ちに蓋をする事に、疲れていた。つまり、潮時。
「もう、いいよ」
南雲の呼吸が、止まる。
「いいよ。一緒にいてやるよ。二人でいよう。なぐっ」
「南雲」と言い終わる前に苦しいほどに抱き寄せられる。俺は抱きしめ返す。骨と骨が穏やかに擦れ、俺達の心臓と心臓にはもう間なんてない、溶け合っていた。温かい。俺は眠気に落とされる。
抵抗は、しなかった。
side南雲
——シンくんが眠りについたことを確認した瞬間、口角が上がる。やっと、手折ることができたのだ。
眉尻の寂しさを丁寧に片付け、瞳の濁りを戻す。濡れた演技は役目を終え、次の出番まで舞台の袖で眠らせておく。シンくんがストックホルム症候群に陥ってくれるかは正直一か八かだったが、やはりシンくんは情に流されやすい。中々に有終の美を飾る結末になったのではないか。
やっと僕のものになったシンくんの胸に耳を当て直せば、美しい鼓動を僕に聞かせてくれた。シンくんの指が、さっきまで僕の髪を撫でていた。撫で方は滑らかで、どこまでもやさしい。僕はその掌の温度をひとかけらだけ記憶に移し、シンくんの体を隠す様に抱きしめた。
約束は要らない。果たされない事が大嫌いだった。繋がれている時間だけが真実を教えてくれる、ただそれだけの話。シンくんを繋ぎ止めている手枷の片方をベッドサイドから外して、僕の片手に繋ぐ。僕はシンくんのもので、シンくんは僕のもの。
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、
シンくんを愛する事を誓います。 by南雲___
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