r「かわいかったなぁ…」
1人になったリビングに、ひとりごとが静かに響く。元貴はというと、顔を赤らめたまま少し怒ってお風呂に行ってしまった。
時計の針は午後9時を示している。
ソファに1人腰掛けて、意味もなく天井を仰いでみる。こんなにゆったりした時間は久しぶりかもしれない。なんだか眠くなってきてしまって、ゆっくり目を閉じる。今日の出来事がどこかで見た映画のように映像として流れていく。ハイライトはやっぱり夜ごはんかなぁ、、そんなことを考えているうちに僕は意識を手放した。
m「あれ、ねてる。」
お風呂から上がって涼ちゃんを呼ぼうとしていたのだけれど。
起こそうとも思ったが、思いの外気持ちよさそうに寝ていたので、起こすのも申し訳なくなってとりあえず隣に腰掛けてみる。
m「りょうちゃーん…ねちゃったの、?」
なんとなく小声で話しかけてみるが、やっぱり起きそうにない。することのなくなった僕は、改めて涼ちゃんを観察してみる。
すらっとしていて長い指。
意外と広い肩幅。
可愛らしい雰囲気の割にたくさん開いているピアス。
昔、もう既に何個か開いているのにまだまだ開けたいとか言ってたなぁ。
柔らかいアーチを描いた眉。
優しく垂れた目尻。
今は、小さく結ばれた唇…。
“今は”こんなに可愛らしい口があんな蕩けるようなキスの仕方を知っていると誰が思うだろうか。
思い出すと、冷めたはずの頬が再び熱を持ち始めるのを感じる。
あの時、、涼ちゃんがキスをしてくれた時。
実は、その先を期待してたなんて。
そんなこと言えるはずもなく、1人持て余した期待を紛らわすように、りょうちゃんの胸元に顔を埋めてみる。
m「りょうちゃんのにおい、、」
バニラの、けれど決して嫌な甘ったるさはない優しい香り。涼ちゃんの体温と溶け合ってとても落ち着く。
静かで規則的な鼓動が子守唄のようで僕もだんだんと眠くなってくる。
いつまでもこうしていたい。
そんなことを思いながらうとうとしていると、
r「ん、、あれ、もときぃ?」
もう出てたの?と目を覚ました涼ちゃんが僕に聞いてくる。
僕はというと、自ら涼ちゃんの腕の中にすっぽりと収まっていたことがバレて羞恥に顔を赤らめておどおどとしていた。そんな僕の態度を見て何かを察したのか察していないのか、元貴はやっぱりかわいいねぇと言いながらいつもの優しい笑顔で僕の頭を撫でてくる。
m「んぅ、いやぁ、なでんなぁ、//」
r「ふふ、そーだよねぇ、ごめんねぇ」
そう言ってぱっとやめてしまった。いつもならもうしばらくはやめないのに。
そのまま、お風呂に入ってくると言い、何も言い出せずにいる僕を横目に洗面所の方へ行ってしまった。
r「ちょっと悪いことしちゃったかなぁ」
シャワーを浴びながら、また少しいじわるをしてしまったことを思い出し反省する。やっぱりついつい試したくなってしまうのは僕の悪い癖だ。次はいつゆっくり二人になれるのかもわからないし。
そんなことを思いながら、少し急ぎ足でお風呂場を後にした。
再びリビングに戻ってくると思っていたより床が冷えていて少し身震いをする。
r「わっ思ってたより寒いね」
暖房つけよっか、と言ってリモコンを探す。
ソファの近くの机にあったかもしれないと思い元貴の側を通りかかると、
m「ねぇ、暖房…別にいい」
そう言って僕の袖をくいっと摘み、ぐいっと体を引き寄せると、再び先ほどのような体制になる。
r「あの…、もときさん?」
m「なに?りょうちゃん。」
r「その、、さむくなぁい?暖房、よかったらつけるよ?」
m「……、これでいい。つけなくてもあったかい。」
r「そーお?もときがいいならいいけど、、」
さっき少しいじわるしてしまったし、何かしてあげたいなぁっと思ったのだけれど。せめて何か掛けるものをと思って少し離れようとすると、
m「…んもぅ!別にいいって!//」
そう言い、さっきよりも強く体を引き寄せる。絡まった指の先が少し冷えていてつい気になってしまう。
r「…指、冷えちゃってるよ?」
m「、、じゃありょうちゃんがあっためて。」
r「えっ」
m「だからぁ、//涼ちゃんが僕のことあっためてくれたらいいじゃん///」
なんてかわいいんだろう。耳の縁もほっぺも真っ赤で、目は少し潤んでいる。それなのに僕のことを離さまいときゅっと袖口を握っている手は少し震えている。こんなにかわいい子を試してしまったことを、出来心とはいえやっぱり申し訳なく思った。
r「そうだね。今日、寒いもんね。」
じゃあお望み通り、もっとあったまろっか?
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