すぐにギデオンが歩き出す。 リオは首を|巡《めぐ》らせ辺りを見て、目の前の黒髪に向かって聞く。
「あれ?他の人達は?」
「この近くに小さな家がある。先にそこへ行ってもらった」
「えっ!じゃあ狼領主様が直々に捜しに来てくれたの?」
「…その呼び方はやめろ。正確には、アトラスを先に行かせ火を起こしてもらっている。服を乾かさねばならないからな」
「ふーん。ゲイルさんとケリーは?」
「ゲイルはケリーを連れて城に帰った。…リオ、ケリーがひどいことをしたと聞いた。すまない」
リオの心臓がどくんと跳ねた。
ギデオンは、ケリーがしたことを知っている。ケリーは何と話したのか。俺が魔法を使う一族だと疑っているとでも話したのだろうか。それとも全く違う理由を話しただろうか。
しかしリオの不安をよそに、ギデオンは違う答えを言った。
「ゲイルから聞いた。ケリーがアンを崖に放り投げ、それを追ってリオが落ちたと」
「…ゲイルさん?」
「ああ。ゲイルは、ケリーのおまえに対する態度が怪しいと気づいていたらしい。俺が直々に雇ったおまえに何かあれば困ると思い、ケリーを見張っていたそうだ。ただ、おまえが崖に落ちる前に助けられなかったと、深く反省をしていた。だから無事な顔を見せてやったら、喜ぶと思うぞ」
「そうなんだ…」
ゲイルさん…。怖いとか散々思ってたけど、良い人だったんだ。ごめんね、怪しんじゃって。でも喜ぶって、どんなの?笑うのかな?見てみたいな。
リオは、濡れてより黒く見えるギデオンの髪を見つめた。ぼんやりと見つめていたら、心の中で思っていた言葉が口からこぼれ出た。
「俺のこと、心配した?」
「した。ゲイルからリオが崖から落ちたと聞いた時は、心臓が止まるかと思った。思考も止まって動けずにいたら、ゲイルに早く捜しに行けと叱られた」
その時のことを思い出したのか、ギデオンが息を吐く。笑ったのかな。
ギデオンの笑った顔、好きだから見たい!と思うと同時に、ギデオンのことを叱れるほど、ゲイルさんはギデオンに信頼されているんだなとも思った。そんな人を怖い、裏があると思って本当にごめんなさい。ケリーは裏があったけど、ゲイルさんはきっと優しい人だ。
リオは単純だ。優しく接せられると良い人だと思い、嫌なことをされたら悪い人だと思う。
そのせいで散々な目にあったこともあるのだが、また同じことを繰り返す。裏切られても、一度は優しいと思った人は信じたい。
だから、落ち着いたらケリーとじっくり話してみたいと思った。
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