翌朝。
鏡を見て、確認をする。
カラコンよし、眼鏡よし、ウィッグよし。
…よーし、行くぞっ。
「行ってきます!」
誰もいない部屋でそう言って、玄関を出た。
ドキドキの初登校日…!
まずは職員室に向かう。
職員室は、たしか…。
合格の報告をもらったときに、説明を受けに一度行ったことがある。
校内にはすでにたくさんの生徒が登校してきていて、和気あいあいとしていた。
すれ違う人の目が、気になる…。
すっごくジロジロ見られている気が…。
「なあ、あんなヤツいたっけ?」
「見たことない…侵入者?」
「いや、制服着てるじゃん。まさか編入生とか?」
「それはねーだろ。つーか、すげえガリ勉そう」
コソコソとなにかよくないことを言われている気がして、逃げるように早足になる。
この変装、悪目立ちしてるっ…。
それにしても、本当に広い学校だ…。
初めてきたときは迷うこと間違いなしの広さに、圧巻される。
このほかにも幼稚舎と初等部、中等部まであるなんて信じられない。
そんなことを考えているうちに、職員室が見えてきた。
「失礼します」
ノックをし、そう言って中に入ると、すでにたくさんの先生が来ていた。
「あの、今日から1−Sに入る緑谷出久です」
「ああ、あなたが編入生ね。ちょっと待って」
近くにいた先生が、僕の先生を呼んでくれる。
どんな人かなあ…と楽しみにしていると、一人の先生がこっちへと歩いてきた。
「緑谷出久…だな」
「は、はい」
思っていたより若い先生が来て、少し驚いた。
「…なるほどな」
先生は僕を見るなり、そう口にした。
「…?」
「もうすぐホームルームだから、一緒に教室に向かおうか」
「はい!」
何のなるほどだったんだろう…?
疑問に思いながらも、僕は大きく頷いて先生の後を追った。
チャイムが鳴り、生徒っちが一斉に教室にはいっていく。
とたんに静かになった、突き当たりの見えない長い廊下を進む。
「すでに説明されただろうが、うちの学校は学力順のクラス編成になっている」
「はい」
「…ま、お前は間違いなく、学年トップだろうな」
「え?」
僕が…?学年トップ?
雄英高校って、相当偏差値が高かったはずじゃ…。
「言い過ぎですよ」
「いや…編入生なんて前代未聞だからな。たぶん大騒ぎになるぞ」
「そ、そうなんですか…?」
よくわからないけれど…僕はあんまり悪目立ちせず、ひっそり楽しく学校生活を送りたいなあ…。
「俺もそんなやつが来るだろうと思ったが…想像通りのやつが来たな」
「え、えっと…」
明らかに、僕の変装した見た目で判断している先生。悪い先生ではなさそうだけど、し、失礼な人だっ…。
「ここが教室だ」
先生の声に、ピタリと足を止める。そして【1−S】という表札のある教室に、ゴクリと息を呑んだ。
「俺が呼んだら入ってきてくれ」
先に、先生が教室に入っていく。
どうか優しい人がいますようにっ…。友達ができますように…!
心のなかでそう祈っていると、少しして「入ってこい」という声が中から聞こえてきた。
…よし。
ふう…と深呼吸をしてから、教室の扉を開けた。
ガラガラガラ、と、扉が開く音が響く。
教室の中はとても静かで、クラスメイトの視線は僕に集まっていた。
わ…やっぱり女の子は少ないんだ…。
ぱっと見た感じ、全体のおよそ2割に満たないくらいと少数。
それにしても…視線が痛い…。
みんな、僕を見るなり顔をしかめたり、クスクスと笑ったり、反応は様々。
一つだけわかるのは…よくは思われていない、ということ。
「うわ…超地味なんだけど…」
「あんな絵に描いたようなガリ勉が存在するんだな」
「頭良さそー…くくっ」
コソコソと話す声が、耳に入る。
…やっぱり悪目立ちしている気が…。
ひとまず、自己紹介しようっ…。
「み、緑谷出久ですっ…!よろしくお願いします」
そう言って、ペコリと頭を下げた。
ざわざわとした騒がしさの波は消えず、あちこちから笑い声が聞こえてくる。
ど、どうしよう…友達できそうにないかも…。
「緑谷の席はあそこだ」
先生に言われるがまま、空いていた席に向かった。