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Haru
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『大丈夫か?』
思いっきりずっこけた可愛い女の子に、手を差し出す冷酷無慈悲の王子(攻略キャラ)。
『はい!』
差し出された手に、食いつくくらいに手を取る主人公。
これは人気乙女ゲーム『フェリージ・サンライズ』攻略対象が主人公を狙って争う、よくある普通の攻略ゲームである。
「あんたまたそのゲームしてるのね」
母がいつの間にか私の部屋に来ていた。
「何回目よ、そのゲーム」
呆れながら聞いてくる。
そりゃあそうだ。
「四十九回目」
「よく飽きないねー」
「そりゃあ」
俺の返事に母はもっと呆れた。
「ご飯できたから、終わったらリビング来て食べてよ」
「…」
「またご飯抜いたらそのゲーム売るから」
「うん」
呆れながらリビングに戻る母の足音を聞き、メガネを直してゲームを再開する。
フェリージ・サンライズは、主人公のセルミ・ファージェス男爵令嬢。彼女は生まれた頃から身体が弱く、それでも明るさは誰にも負けない。
そんな彼女は五人の攻略対象キャラと接点を持ち、その五人の誰かと最終的に婚約する。
出会ってから婚約するまでの間、悪役令嬢が邪魔をしてくるのでそれを回避しながら、毎日を攻略対象と楽しく過ごすというハッピーエンドゲーム。
『ずっと俺の傍にいてくれるか?』
『はい!』
エンディングの曲が流れる。
「んー!」
腕をのばしグッと背中を伸ばす。
「三時間四十六分。新記録更新」
疲れすぎてベットに寄りかかる。
やっぱ冷酷王子の攻略はムズいな…あ、日記書かないと。
椅子に座って赤い日記本を取る。本の表紙には『攻略本』と書いてある。
日記を開いて今日書くページと向き合う。
『八月十二日 冷酷無慈悲の王子様は昔母親をなくした..』
俺は出版日から攻略本ならぬ、攻略日記を書いて
「これはいつかの時に必要になるだろう」とか思いながらいつも書いていた。
明日はサンライズを初めて五十回になる。
「明日は必ず早く帰ってこよう!」
俺は晩飯を食べて、風呂入って、歯磨きして、二十二時に布団の中に入ってぐっすり寝る。
翌朝は六時のアラームで起きて、顔を洗って、スキンケアして、朝ごはん食べて、制服を着る。
やっぱ制服は窮屈。コンタクトも付けて…やっぱメガネの方が楽ちん。
ブーっと机に置いておいたスマホが震える。
なんだろう。
スマホの画面を見ると、通知欄には『フェリージ・サンライズ。初のグッズ化!』と書いてある。
俺は喜んだ。すごくすごく喜んだ。
でも俺は登校中にトラックに跳ねられ死亡した。
原因は、飲酒運転で信号無視。俺はスマホの画面を見ながら渡ってたから全然気づかなかった。一回呼ばれた気がしたが、自分には聞こえなかった。理由はゲームの初のグッツ化に夢中だったから。まあそれは俺が悪いんだけど…
それでここはどこ!?
今俺は、ゲームや、アニメなどでしか見たことない大きな屋敷のにある豪華な天井を見ている。
ここどこだ?
手を伸ばすと驚いたことに、手が赤ちゃんのように小さかった。
「あ。あう…」
声出せない!?いや?出してるけど喋れないだけ、か?んーどっちにしても一旦整理しなくては。
まず俺は今井 理久(いまい りく)十八歳。青葉私立高校の三年で生徒会長とゲームオタクだった。
癒しはフェリージ・サンライズ(乙女ゲーム)。
でもトラックに引かれて死亡…で、ここは本当にどこ!で、俺は誰!
でも確信してることがある。俺は今…赤ちゃんで生まれ変わったということ。
部屋の外から足音がする。
…?
足音がこの部屋の前で止まった。
ガチャン!と、ドアが開く音がする。
誰か入ってきた!?うぅぅ…柵のせいで見えない…
「可愛い」
!?
僕の目の前にいる茶髪の女の子って!
「リリスだよ~君のお姉ちゃん!三歳」
やっぱり悪役令嬢のリリス・アレイン!ってことは僕は悪役令嬢の弟か。
「あー、あ」
「手足をバタバタさせて可愛いでちゅね〜♡」
リリスに抱き抱えられる。
あれ、なんで。思った通りに動かないぞ?
「あ。あ」
あー無理だ。
赤ちゃんだと自分の体は自分で制御できない。
「可愛い〜♡ 」
ほっぺをスリスリされる。
「ん〜もっちもち♡」
「あ、あうぅ゛」
「眠くなってきた?」
次は体をゆらゆらと揺らされ、心地よくなり寝た。
「本当に可愛いな…」
次に目が覚めた時、僕の周りに白衣を着た四十代後半のようなおじさん、高貴な服装の男女とリリスが深刻な顔で話していた。
「そうなんですね…」
そう女性が言うとハンカチで涙を拭っていた。
何の話をしているんだ?それにどうしてお姉ちゃん達は泣いてるんだ?
隣にいた、男性がリリスを慰めるように背中を撫でている。
「どうやったって治る保証はない、だから」
「そんな、そんな事ない!絶対に治るもん!」
「こら、リリス静かに」
「やだ!絶対に私は認めないから!」
撫でられていた手を払い除けて部屋を飛び出す。
「リリス!」
女性はリリスを追いかけて行った。
「う、うえぇーん」
赤ちゃんの本能で泣いた。
この体やだぁ。自分が思ったことと違うことしすぎて少し疲れる。
さっきリリスの背中をさすっていた男が僕を抱き抱え、また体をゆらされる。そしてまた寝た。
それからすぐに、五年もの月日が過ぎ、 僕は五歳になった。
僕の名前は、ノアン・アレイン。八月十二日生まれ。艶のある茶髪に、エメラルドグリーンの瞳。
アレイン家は王家直属の公爵家である。
「ノー、アー!」
廊下を歩いていたら、前から金髪で、僕と同じエメラルドグリーンの瞳のリリスが走って来ていつものように抱きついてきた。
「姉様、どうされたのですか?」
「可愛い弟で癒されに来たの」
「で、本題はなんですか?」
「もう、うちの弟は冗談が通じないな〜」
腕を解いてくれた。
「今から街に行くんだけど一緒に行く?」
「うん!行く!」
「じゃあ準備してきて。外で待ってるから」
僕はリリスと別れた自分の部屋に戻り、ショルダーバッグに色々詰め込んで、肩にかけて玄関に急ぐ。
僕の家は屋敷で、広くて昔はよく迷っていた。走っても、走っても僕には廊下が長すぎて屋敷の廊下を全部回るとなると、疲れてしまうくらい広い。
外に出るとリリスが馬車の扉の前で待っていた。
「お待たせしました」
「じゃ、行こっか」
「うん!」
支えられながら馬車に乗り、リリスの膝の上にいつも通り、座らされた。
「ノアは今日も図書館行きたいの?」
「うん!もっとたくさんのことが知りたいから」
「ノアは偉いねぇ〜」
お姉ちゃんは僕の頭をわしゃわしゃ撫でてくる。
「ちょっと、姉様ぁ」
「あぁ〜可愛いぃ♡」
「もう!姉様やめてよ!」
「あぁ〜ごめんね〜」
というやり取りをしていたら大図書館についた。
それから二時間図書館にこもりその後、街で買い物したりレストランで食事をしたりして、屋敷に帰ってきた。
「「お帰りなさいませリリス様、ノアン様」」
迎えてくれたのは僕の専属メイドのリーナと父様専属の執事ガルアさん。
「ただいま」
リーナは僕の上着を脱がせて持ってくれた。
「どうしたの?ガルアまで一緒だなんて」
そうだ、ガルアがここに居るということは父様に何かを命じられたのだろう。
「旦那様からお二人に、後で俺の部屋へ来い。大事な話がある。との事です」
「そう、伝えてくれてありがとう」
大事な話ってなんだろう。姉様は大体は感付いてるぽい。
「ノアン様は先にお風呂に行きましょう」
「うん」
「じゃあ私は先にお父様の部屋に行ってるわね」
姉様はガルアと一緒に父様の部屋へ行った。
僕はお風呂場に行き、大浴場の湯船に浸かった。
「あぁぁ…気持ち〜…」
前世ではあんま大浴場とか入れかなったし。入れた時はほとんど修学旅行とかだったから。それに大浴場を独り占めできるとか、すごく寂しい。
「はぁ…」
湯船から上がり、脱衣場で着替える。
「髪を乾かし致しますね」
リーナは僕の頭に手をかざすと暖かい風が出て、二分半くらいで髪が乾いた。
「ありがとう、リーナ」
「いえ」
今リーナが使ったのは魔法だ。初級魔法のヒートウィンド。火と風の魔法だ。本来違う属性は同時に使えないのだが、気まぐれの精霊と契約していれば同時発動も可能になる。
だが、精霊は属性が決まっている。リーナは風属性の精霊と契約している。
「そんなに私の手を見てどうされましたか?」
「いや、魔法ってやっぱすごいなーって」
「ふふふ。ノアン様も八歳の誕生日に属性がわかって魔法が使えますよ」
そう。八歳になると神殿で魔力と魔法を測る儀式がある。そこで自分の魔力の量と属性が知れる。
「旦那様がお待ちですので早く行きましょう」
「あ、うん」
リーナの手を握って父様の部屋へ行く。
「お待たせしました。父様。母様」
部屋へ入るとみんながわーわーいいながら写真を楽しく見ていた。
…うん。仲良しだな。
「あら、ノアちゃんじゃない。ねえ、これ可愛くない?ノアちゃんが生まれた頃の写真」
めっちゃご機嫌なのが母様。容姿は金髪ロングでエメラルドグリーンの瞳で姉様と同じ。
「アリアンも可愛いよ」
母様にデレデレなのが父様。茶髪で同じくエメラルドグリーンの瞳。僕と同じ。
「もう、娘たちの前でそんな事言わないでよ〜」
「もうお母様もお父様にデレデレで〜」
これがいつもの家族会話である。
僕は姉様の隣に座り本題に入るまで待つ。
「もうほんとこれが可愛くて可愛くて」
「これお父様?かっこよ」
「そうだ。そのせいですごくモテてたんだぞー」
「…」
「そうそう。お父さんてば、私を一瞬だけ見ただけで恋に落ちたみたいで求婚してきたのよ」
「えー恥ずかしいよアリアン」
「もっと二人の話聞かせて!」
「…ねえ!」
僕が結構大きめな声を出すとみんなが止まった。
「話って何?気になるんだけど」
「あぁ、忘れてた」
忘れるなよ!
それから写真などをしまって本題に入る準備をする。みんなが定位置に座ると父様が話し始めた 。
「明日、王城でのパーティーがある」
そのパーティーは第一王子、ルシアス・グリスティーン様の誕生パーティーらしい。
そう。王子と言えば攻略が難しいとされている攻略キャラであり、攻略出来たらめちゃくちゃ溺愛してくる冷酷無慈悲の王子である。
自分の部屋に戻り、手から本を生み出す。
この本は前世で書いていた、攻略日記である。
これが本当に必要になる日が来ると思わなかったけど…まあ良かったのか?
彼が冷酷無慈悲になった理由は、母親の死。
彼の母親、シルディー様はルシアス様を産んでから謎の病にかかった。それから徐々に病が進行し、彼が十歳になった頃に亡くなったという。
彼はそのせいで生まれた頃から王家のものは彼をよく避けるようになった。そして彼もまた、病にかかったのは自分のせいだと思って自分の感情を殺しまくって冷酷無慈悲の王子様になった。
なんて悲しい話なのだろうか。出来れば救ってあげたいけど、ヒロインにしか救えないんだよな。
ゴーンゴーンと時計の鐘がなる。
「もう二十二時か。寝よ」
そのままぐっすり寝た。
翌朝。僕は早起きをし、庭を散歩していた。
そこで綺麗な赤のバラが沢山咲いているのを見かけたので庭師にある相談をした。
王宮に行く時間になり、四人で馬車に乗った。みな、いつもより美しく着飾っていて輝いて見えた。母様と姉様は黄色のドレスにエメラルドのネックレスやピアスなどをつけており、僕と父様は黒スーツにエメラルドのブローチを身につけていた。
「ノアこのドレスどう?可愛くない?」
「世界一可愛いよ姉様」
「うぅなんて可愛いのかしら。ノアも似合ってるよぉ〜」
「ありがと」
「ところでその束になってる薔薇は何?」
リリスは僕の隣に置いてある薔薇の花束に指をさす。
「あぁこれ?朝庭でもらってきた。王子にあげるんだ」
「へぇ〜。やっぱノアは優しいね」
「姉様に一つあげる」
花束の中から一本抜き、姉様の髪に刺して髪飾りにしてあげた。
「ありがとう。ノア大切にするね」
馬車に揺られること二十六分、王城についた。
王城には入る前に身体検査をさせられ通された。
「アレイン公爵家のご来場です」
会場にいた人々の視線がこちらに集まる。 奥から知らないおじさんが来る。
「お久しぶりです、クロリア様、アリアン様、リリス様。そして…」
「この子はむすこのノアンです」
「ノアン様でしたか。お久しぶりですねぇ」
こんなおじさん知らないんだけど。
「確か最近会ったのが四年前ですかね。あの時はノアン様は熟睡でしたっけ」
そりゃあ知らないわけだ。
「こちらはハングルス大公様」
「初めまして。バルロン・ハングルスです」
まさか大公だとは。僕たちよりも位が高く王家にいちばん近い人物。
「初めまして。ノアン・アレインです。どうぞお見知り置きを」
丁寧にお辞儀をすると、ハングルスさんは驚いた表情になった。
「年齢は?」
「五歳です」
「おぉ、五歳でそんなに礼儀が正しいとは…うちの息子にも見習って欲しいものだ」
「そういえば、そちらの息子さんは今、七でしたっけ?」
「はい。私の息子はもう次の年で魔法の計測でして…結構今から心配しておりますところです」
そういえばハングルスってなんか聞いたことがあるような気が…
「それではパーティーを楽しんで」
ハングルスさんと解散した後。
「飲み物取ってくるね。ノアン一緒に行こ」
「あ、うん」
「人混みには気をつけなさいね」
「はーい」
母様の言葉に姉様は軽く返して、僕の手を引っ張る。
うっ…人混みキツイ…
「姉様…」
いつの間にか姉様とはぐれてしまった。
やっぱりこうなったか。
人混みをかき分けて進むと庭に繋がる扉が開いていた。
外に出ると開放感があった。澄んだ空気にそよそよと流れる風に揺れる葉が美しく見えた。
「はぁー」
大きな息を吸っていると、遠くから泣き声が聞こえてくる。
誰か泣いてる?
泣き声のする方へ行ってみるとそこには、黒髪で美しい海のような綺麗な瞳を持つ美男子が、低木のそばで座っている子供がいた。その子は今日の主役のはずの王子だった。
この世界に来て初めて見た…やっぱり美しいな…
「ぐす、ぐす」
「どうしたの?大丈夫?」
「…誰?」
ルシアス様は僕を警戒しているなこれ。
「僕はノアン」
「…君はお父様に僕を呼んでこいって言われたの?」
「言われてないけど?ただ迷子になって、ここに来たら泣いてる子がいたからどうしたのかなと思って」
「そうなの?」
「とりあえず涙、拭いて」
白いハンカチを差し出す。
「ありがとう…」
「辛いなら、言わなくてもいいから。もうすぐ出番でしょ?一緒に行こ」
手を握って立たせて連れていこうとするが、行こうとしない。
「行きたくない。怖い…」
そう、だよな。母親の病で避けられてきたんだから。
「分かった。じゃあここで僕とお話でもしよ」
笑顔で提案する。
「うん」
それから色々話した。最初は好きな色とか物とかだったが、だんだん昔の事とかを話してくれるようになった。
「だから僕は人前とか怖くて…」
「大丈夫。怖くなったらいつでも僕を頼っていいから、ね?」
「うん」
ルシアス様がだんだん僕に心を開いてくれている気がした。
「ありがとう、ノアン」
「どういたしまして」
これからの人生が一変することを僕は知る由もなかった。
コメント
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読了!乙女ゲーム悪役令嬢の弟に転生、しかも前世の攻略日記持ち込みって反則級に強くない?w リリス姉様のブラコンっぷりも可愛いし、何より迷子になった先で出会ったルシアス王子に「怖くなったら頼っていい」ってハンカチ渡すシーン、グッときた…。ヒロインじゃなくても救える可能性あるの熱いな。続き気になる!🔥