ユリアとヘルルーガと止めるために、フレアとシンカが動き出した。
まずは、フレアが妹のユリアに対峙している。
「私の実力を確かめる? どうしてかしら?」
「それは――その男の存在ですっ!!」
突然、ユリアが声を荒げた。
彼女が指さしたのは、余の方だった。
「余の存在がどうしたというのだ? 貴様に何か不都合なことでもあるというのか?」
「黙りなさい!! あなたのせいで、お姉様は……っ! すっかり変わってしまったのですっ!」
「……?」
何の話をしているのだ? という感じである。
余は首を傾げるばかりだ。
「わたくしはこの入学式よりも2か月ほど早くこの街に入りました。それはお姉様もご存知ですよね?」
「もちろんよ。事前に手紙でも聞いていたし、街に到着してすぐに挨拶に来てくれたじゃない」
フレアがそう返答する。
2か月も早く街に来るとは、ずいぶんと余裕を持っているな。
引っ越し作業を考慮に入れても、1週間あるいは2週間で十分だろう。
入学までに街の文化や雰囲気に慣れておきたいという思惑があったとしても、せいぜい1か月ほどではないだろうか。
「えぇ。わたくしは楽しみだったのです。1年ぶりに会うお姉様とお話するのが。わたくしがどれほど成長したかをお見せし、驚かせるつもりでした。でも……もうそんなことはできない状態だったのです。お姉様は、変わってしまわれた……」
ユリアは悲し気に目を伏せながら、そんなことを語った。
「わたくしが挨拶をしたときから、異変は感じていました。そして、次に会う約束をしたときにそれは確信に変わりました。なんと……次に会ってくれるのは、1週間後だと仰るじゃありませんか!」
「え? まぁ、これからは同じ学園に通うんだし、そんな頻繁に会う必要もないでしょう?」
フレアが言うことももっともだ。
実の姉妹が同じ学園に通う――これはまったく問題ない。
引っ越しに伴い再会を喜び合う――仲の良い姉妹なら当然のことだ。
次に会う約束を取り付ける――定期的に近況を報告し合うのは結構なことである。
だが、その会う頻度は1週間程度で十分だろう。
逆に、それ以上高頻度で会う理由があるか?
「ひどいですわっ! 実家にいた頃は、毎日いっしょに過ごしていたではありませんかっ!? お勉強に魔法の練習、それにお風呂やおトイレだって……」
ユリアが目に涙を浮かべた。
微妙に聞き捨てならないことを言った気がするな。
勉強や魔法の鍛錬を姉妹でするのは結構なことだ。
風呂も、まぁいいだろう。
だが――
「いっしょにトイレだと? いったいどういう姿勢で致したのだ? フレアよ」
「ばかっ! ただの連れションだから! いっしょにトイレまで行っただけだから!!」
「なんだ、そういうことか」
魔王である余ですら知らない、ハイレベルな世界があるのかと思ってしまったではないか。
紛らわしい言い方をしおって。
「ふぅむ。つまりは、俗に言うシスコンというやつだな? 高校生にもなって、子どものようなことを言うではない」
「うるさいっ! うるさいうるさいっ! 妹は、お姉様のことをずっと慕うものです。そしてお姉様も、わたくしのことをいつまでも可愛がってくださる。それが、世の真理なのですわ!」
「クハハハハ。だが、現にフレアはお前への執着が薄れていたのであろう? 実家にいたときは仲が良かったようだが……」
「黙りなさいっ! その元凶が偉そうな口をきかないでくださいますか?」
「む? どういうことだ?」
余の発言をユリアが遮った。
余が元凶だと?
「あなたのせいで、お姉様は変わったのですっ!!」
「またそれか。なぜそのような話になる?」
「……っ! お姉様の異変に気付いたわたくしは、すぐに調査を行いました。するとどうしたことでしょうか。学園生活において、ある男といつもいっしょにいるではありませんか!!」
「ほほう?」
余やフレアの学園生活を覗いていたのか。
確かに、ここ最近誰かに覗かれている気配を感じてはいた。
負の感情は向けられていたが殺気や害意は感じられなかったので放置していたのだが、まさかフレアの妹だったとはな。
「しかも、その男を見るときのお姉様の目つきときたら……っ!! まるで恋する乙女のように潤み、頬は赤く染まり、吐息は甘く蕩け……。さらに、お姉様のお部屋に侵入したら、そこには驚愕の光景が――」
「ちょ、ちょっと待ちなさいっ! あなた、そんなことをしていたの!!??」
フレアがツッコミを入れる。
確かに、些か行き過ぎな行為のように思える。
尾行して学園生活を覗くくらいであれば、姉を心配するあまりの行為だとギリギリ納得はできる。
だが、勝手に部屋へ侵入するとは……。
もちろん余の魔法技術を用いればフレアに気付かれずに侵入することもできるが、プライバシーを尊重してそんなことはしない。
その一線を軽々と超えるとは、いくら妹とはいえやり過ぎである。
「お姉様の異変の理由を明らかにするには、必要なことでした。そして、部屋に入ったわたくしを迎えたもの。それは……壁一面に貼られた、ある男の写真――うぷっ!?」
「ああああああぁっ!!」
ユリアの言葉の途中。
突如、錯乱したフレアがユリアに襲い掛かったのであった。
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