フレアの部屋に侵入したユリアは、壁一面に貼られたとある男の写真を見たらしい。
その言葉の途中で、フレアはユリアに襲いかかった。
「ゆ~りぃ~あぁぁぁぁぁ!!!!」
「きゃああああぁっ!!」
そのままフレアがマウントポジションを取り、拳を振り上げる。
「こ、殺す! 殺す! わ、私の秘密をそんな大声でっ!!!」
「痛いっ! お、お姉様、落ち着いてくださいましっ! あれはお姉様のためを思っての……」
「うるさいうるさいうるさーい! 全部あなたのせいよっ! このシスコンのストーカー変態娘っ!」
「ひゃうんっ!」
フレアがユリアの脇腹に一撃を入れた。
最初は顔面を殴打するのかと思ったが、さすがにそれはやめたようだな。
「このっ! このっ!! このぉっ!!!」
「ひゃっ! んぁっ! ひんっ! だ、だから、お姉様、話を、あっ! 聞いて……ひっ! くださいましぃっ!!」
フレアが馬乗りになってユリアの脇腹を突き続ける。
ユリアからは何とも言えない艶めかしい声が漏れている。
姉妹の絡みをずっと眺めていてもいいのだが、今は一応入学式の時間だ。
そろそろ止めてやるか。
「落ち着け、フレアよ。何をそんなに取り乱している?」
「ディノス、違うのよ。別にあんたを盗撮したりはしていないからね? ただ、みんなで撮った写真の中のディノスだけを引き伸ばしてポスターにしただけで……」
「ほう。やはり、壁一面に貼っていたというのは余の写真であったか」
余はリア充を目指している。
いや、目指していた、と言った方が正確か。
フレア、シンカ、イリスという素晴らしい妻を娶った今、余がリア充であることに疑いの余地はない。
まぁいずれにせよ、異性の気持ちに鈍感な余は過去のものである。
フレアの部屋に男の写真が貼られていたと聞いた時点で、それは余のものだろうと推測はしていた。
「あっ!? ち、違うの、その……」
「違う? 余ではない男の写真を貼っていたとなると、その方が問題だが?」
魔王である余の寵愛を受けておいて、他の男に想いを寄せるなどということはあってはならない。
「あ、その……。…………よ」
「うん?」
「ディノスの写真よっ! 悪い!? 学園でいっしょに居る時間だけじゃ足りないから、部屋に帰ってからも存在を感じたいじゃないっ! 何が悪いっていうのよっ!!」
フレアが真っ赤になりながらそう叫んだ。
これは愛されていると自惚れても良いのだろうか?
「クハハハハ!! 何も悪いことなどない! お前は余の愛する女なのだからな!!」
余はそう高笑いをした。
「お姉様、そろそろわたくしの話を聞いてくださ――ひゃうんっ!?」
「お黙りなさいっ!!」
フレアがユリアの脇腹を強く突く。
「ふぇえ……。お姉様ぁ……」
「まったくもう。あなたって妹は……。根性を叩き直してあげるわっ!」
フレアがそう宣言する。
ユリアへの対処は、とりあえず彼女に任せても問題なさそうか。
次に対応しておくべきは――
「へへっ。ユリアがやられたか……。だが、奴は今年の首席合格者の中でも最弱……!」
水色の髪の武闘少女、ヘルルーガだな。
余が対処してもよいのだが、ここはひとつシンカに頑張ってもらうとするかな。
「うーん……。そのアホっぽさ、どこかで見たような気もするんだけど……」
シンカがそんなことを言いながら、ヘルルーガに近づいていく。
確かに、ヘルルーガはややアホっぽい。
今年はたまたま2人同率の首席合格がいたとはいえ、普通に考えて『首席合格者の中で最弱』などという表現には違和感を覚える。
「おっ! やっと釣れたか! ”流水の勇者”シンカ! あたいと勝負しろっ!!」
「あ、僕のファンの人だったのかな? 見覚えがあると思った。でも、こういうのは良くないと思うんだ」
先の大戦において、シンカはそれなりに有名な存在だった。
前線区域の人族、あるいは直接的に戦った魔族の兵士の間では高い知名度を誇る。
だが、比較的平和な生活を送っていた区域の人族や魔族にはあまり知られていない程度でもある。
彼女の”流水の勇者”という二つ名を知っているのであれば、ファンであると判断することはあながち間違ってはいない。
「はぁ!? おいおい、誰が誰のファンだって!? お前、寝ぼけてんのか? いいからかかってこいよっ!!」
「ファンの人となんて戦えないよ。ごめんね。でも、入学式が終わったら少しぐらいなら相手できるかも……」
「だからファンじゃねぇ! あたいはな、一時期はノースウェリアの戦線に駆り出されていたんだよっ! そこでお前と肩を並べ、共に魔族と戦ったじゃねぇか!!」
「あれ? そうだっけ? それじゃあ、君の名前はなんだっけ?」
「はぁぁぁぁっ!? ふざけんなっ! このあたいを忘れただとぉっ!?」
ヘルルーガは怒り心頭の様子で、そう叫んだのだった。
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