◇◇◇◇◇
第5章 魔皇イベント
◇◇◇◇◇
レキたちが逃避行を続けて10日ほど経った。
ブリトーン王国の国境も超えて、リオの元故郷であるドルアド帝国の東に入っていた。
逃避行の間、ハデルと遭遇することもなく、無事に辿り着く。
マリスの状態も完全に回復している。
因みにリオが暮らしていたエドワーズ辺境伯領は帝国の西側、サンスクリッド王国の国境付近に位置しており、今いる現在地とは最も離れた位置にある。
レキ:「マリス、ヤヌリス。
あれがヘルサイズ本部だ。」
マリス:「へえ。こんなところにあるのね。
これはなかなかわからないわね。」
ヤヌリス:「やっと辿り着いたか。
暇すぎて退屈だったぞ!本当!
で、ここからどうするのだ?」
レキ:「ああ、土産がないのが痛いが、とりあえず、本部に行ってみる。
お前たちはここで待っててくれ。」
マリス:「わかったわ。」
ヤヌリス:「とにかく、生きて帰って来るんだぞ。」
相手の出方はわからないが、とにかく交渉だ。解呪されるまではこちらが不利なのは間違いない。行き当たりばったりになってしまうが、今後の行動は行ってから決めるしかないな。
レキは一人、翠帳頭の頭巾をかぶって、ヘルサイズ本部に向かっていった。
◇◇◇◇◇
ヘルサイズ本部にて。
紅蓮頭:「総統!参謀長!こちらに例の噂の少年が来ています。総統に会いたいと申しておりますが、いかがなさいますか?」
地下に造られたヘルサイズ本部は、中に入れば大都市の城程度の広さがあり、総統がいるのは一番奥に陣取った豪華な造りの部屋である。
ガミラス:「ほう。たしかレキと言ったか。他には?」
リルミア:「いえ、一人で来たようです。」
ガミラス:「そうか。一人か。もう一人の女の方が気になるのだがな。
で、どうする?リルミアよ。」
リルミア:「そうですね。私も連れの女性が気になるところですが、とにかく、会って話を聞いてみましょう。」
ガミラス:「よし。おい。ここに連れてこい!」
紅蓮頭:「ハッ!」
紅蓮頭の男は、レキを呼びに急いで引き返していった。
◇◇◇◇◇
先程、声をかけた紅蓮頭の男がヘルサイズ本部の入り口に戻ってきた。
紅蓮頭:「翠帳頭、総統がお会いになるそうだ。
俺についてこい。」
レキは黙って男について行った。
入り口を入るといきなり地下に降りる階段があり、それを下っていくとここが地下かと思うほどの広い造りになっていた。
ここには拾われて以来だな。
やっと来たな。
レキたちは奥へと続く廊下をひたすら歩いていく。途中に何回も降る階段を下り、最奥の大きな部屋に辿り着くと、そこには総統と参謀長が待っていた。
あれが総統のガミラス・ヘルサイズだ。
ヘルサイズを継承した第15代総統。
会うのは2回目か。
そして、その横にいるのが、参謀長のリルミア・ノアール。
こいつがヘルサイズのナンバー2であり最強の呪術師。
噂では影の支配者と呼ばれており、総統が代替わりする間、この参謀長は代替わりをした形跡がないらしい。
本当に人間なのかも疑わしいと噂されている人物である。
そして、まず、ヘルサイズに加入するとこいつの呪術によって、忠誠を強いられる。
たぶん、解呪もこいつにしてもらわなければならない。
ただ、以前は気づかなかったが、何かあいつらと同じ感覚がする。
どういうことだ?
レキは、この参謀長に違和感を感じていた。
ガミラス:「お前がレキか。よく来た。
マスクを取って顔を見せろ。」
総統に言われた通り、レキは翠帳頭のマスクを取った。ただ、レキは総統よりも参謀長の方が気になっていた。
ガミラス:「ほう。いい面構えだ。
お前の噂は聞いている。だいぶと暴れているようだな。
しかし、お前には連れがいるはずだが、そいつはどうした?」
レキ:「俺一人だ。途中ではぐれた。」
レキが総統に向かって返事をすると、ものすごい剣幕で紅蓮頭の男が声を発した。
紅蓮頭:「お前!総統に向かって何という口の聞き方だ!」
紅蓮頭の男の一人がレキに殴りかかる。
グハ!
それをレキは振り向きもせずに逆に殴り、紅蓮頭の男は壁に吹き飛び、意識を失う。
それを見た周りの男たちは、一瞬のうちに戦闘体制に入った。
ガミラス:「よい!周りの者どもよ!下がれ!」
総統の重低音の声の威圧に全員が強張った表情で下がって行った。
すごい圧だな。これが総統の力か!?
覇気を発したかのように、レキもその場で立ったまま、一瞬固まってしまう。
ガミラス:「レキ。お前は紅蓮頭より数段強くなっているみたいだな。頼もしい。
まあ、連れに会いたかったのだが、今回は諦めよう。また、会えることもあるだろう。
で、話というのを聞かせてもらおうか?」
物凄い威圧で俺に逆らうなよと言わんばかりだな……。
それに参謀長の俺を品定めするような視線も気になる。やはり、雰囲気が似ている。
レキ:「頼みがあってここに来た。
まずは、俺を幹部に昇格してくれ。
見ての通り、その辺の紅蓮頭よりも役に立つと思う。」
レキはすでに紅蓮頭の男を一撃で倒している。来る前は一度手合わせする必要があると思っていたが、手間が省けた。
ガミラス:「そのようだな。お前の戦闘力は認めざるを得んな。ただ、なぜここに来た?
お前の所属は南方だったと聞いているが。」
レキ:「知っていると思うが、俺のいた南方のサザンオール王国の拠点は全滅した。」
ガミラス:「ああ、それは知っている。
だが、なぜお前はここにいる?」
レキ:「俺は拠点の外にいたからな。
戻った時にはすでに殲滅された後だった。
それから、ひたすら北上してきた。」
レキは余計なことは言わない。
総統のガミラスは黙ってレキを眺めている。
その眼力にレキは耐えるのに必死だ。
でも、ここで引けない。レキはガミラスが口を開くのを黙って待っていた。
もう少しで眼を背けそうになった時、参謀長のリルミアが予想外に口を開いた。
リルミア:「いいんじゃないですか。総統。」
ガミラス:「ん?どうした?
リルミアが口を挟むとは珍しいな。
まあ、リルミアがそういうならいいだろう。
よし。レキとリルミア以外はこの部屋から退出しろ!」
部屋にいた紅蓮頭たちがざわつくも指示された通り全員が出て行った。
そして、この部屋には総統のガミラス、参謀長のリルミア、あとレキだけが残っていた。
正直、助かったが、人払いをした理由はなんなんだ?
レキは不安を覚えつつもガミラスの言動を待つしかなかった……。
◇◇◇◇◇