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#異世界転生
K-Takasaka
49
#人狼
目を覚ますと、見知らぬ天井があった。
白い石造りの部屋。壁には見たことのない紋章。窓の外には、紫色の空と、空を泳ぐ巨大な魚。
そして、ベッドの脇には角の生えた美少女がいた。
「よかった……! 目を覚ましたのね、ユウ」
「……誰?」
少女は、見るからに悲しそうな顔をした。
「私よ。アキラ」
「……は?」
アキラ。
俺の高校時代からの親友と同じ名前だった。
ただし俺の知っているアキラは、角など生えていなかった。ましてや、腰まである銀髪でも、赤い瞳でもない。
俺が呆然としていると、少女は胸元に手を当てた。
「本当に私。あなたと一緒に死んで、異世界へ転生したの」
「死んだ?」
「覚えてないの?」
言われて、俺はようやく思い出した。
仕事帰り、駅のホームでアキラと話していた。突然、線路へ落ちた子ども。俺たちは同時に手を伸ばして――その後の記憶はない。
「じゃあ、あの子は?」
「助かったわ。私たちが代わりに……」
アキラは微笑んだ。
「だから、悪くない死に方だったと思う」
相変わらず、妙に達観している。
俺が起き上がると、銀色の鎧を着た兵士たちが部屋へ入ってきた。全員が跪く。
「魔王陛下、勇者ユウ殿がお目覚めになりました」
「魔王?」
俺の声に、兵士たちは一斉に顔を上げた。
アキラは、困ったように笑った。
「そう。私、魔王なの」
聞けば、この世界では五百年に一度、異世界から勇者と魔王が召喚されるらしい。
勇者は人間の王国へ。
魔王は魔族の国へ。
そして俺は、召喚の儀式に巻き込まれた勇者だった。
「でも、どうして俺がここにいるんだ?」
「私が迎えに行ったの」
「迎えに?」
「あなたを殺したくなかったから」
アキラは静かに続けた。
魔族の国では、勇者を倒した者が真の魔王として認められる。反対に、勇者が魔王を倒せば、人間の王国に平和が戻る。
つまり、俺たちは敵として生まれ変わった。
「勇者を殺せば、あなたは魔王として完成するんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、俺を殺すのか?」
「絶対に嫌」
即答だった。
その言い方があまりにも昔のアキラらしくて、俺は思わず笑った。
「じゃあ、どうする?」
「あなたを隠す。勇者が魔族に捕らえられたと発表して、私が保護するの」
「それ、ばれたら?」
「私もあなたも処刑」
「壮大な友情だな」
「友情だけ?」
アキラが、赤い瞳で俺を見た。
その瞬間、胸の奥が妙に騒がしくなった。
俺たちは前世でも親友だった。何でも話せた。何でも笑えた。
けれど、恋人ができたことだけは、互いに話さなかった。
アキラが誰かと歩いていると、なぜか胸が痛んだ。
俺が他の女の子と話していると、アキラは不機嫌になった。
それでも、俺たちは何も言わなかった。
言ってしまえば、今の関係が壊れる気がしたからだ。
異世界で再会しても、やはり同じだった。
俺は魔王城の一室に匿われ、アキラは俺を守るために人間の王国と交渉を続けた。
だが、平和な日々は長く続かなかった。
ある夜、魔王城に勇者の軍勢が攻め込んできた。
先頭に立っていたのは、白銀の鎧を着た男だった。
「魔王アキラ! 勇者ユウはどこだ!」
俺は隠し部屋の扉に手をかけた。
俺が出れば、戦いは終わるかもしれない。魔王であるアキラを倒せば、人間たちは満足する。
だが、扉の前にアキラが立ちはだかった。
「行かせない」
「アキラ、どけ」
「嫌」
「俺を渡せば、お前は助かる」
「違うわ」
アキラは震えていた。
「あなたがいなくなったら、私は助からない」
遠くで爆発音が響く。
城の壁が揺れ、天井から砂埃が落ちた。
「私はね、前の世界でずっと後悔してた」
アキラは俺の胸元をつかんだ。
「あなたに好きだと言えなかった。友達のままでいいふりをした。あなたが誰かと付き合っても、笑って祝うしかなかった」
「アキラ……」
「だから今度こそ、失いたくない」
その瞳から、涙がこぼれた。
「魔王でも、怪物でもいい。あなたを守れるなら、私は何にだってなる」
俺は、彼女を抱きしめた。
銀髪が頬に触れる。かつて何度も隣に座った友人の匂いがした。
「俺も、好きだった」
「……いつから?」
「たぶん、前の世界からずっと」
アキラが顔を上げる。
「だったら、どうして言わなかったの?」
「怖かったんだよ。親友じゃなくなるのが」
「馬鹿ね」
「よく言われる」
俺たちは笑った。
そのとき、隠し部屋の扉が吹き飛んだ。
勇者の軍勢がなだれ込んでくる。
「魔王を討て!」
白銀の勇者が剣を振り上げた。
俺はアキラの前に立った。
「待ってくれ!」
勇者の剣が止まる。
「俺は勇者だ。魔王を倒す使命がある。でも、アキラはこの世界を滅ぼそうとしている魔王じゃない!」
「騙されるな! 魔王は魔王だ!」
「なら、聞いてくれ!」
俺は腰に下げていた魔導具を取り出した。
これは、魔王城の記録庫で見つけた古い水晶だ。歴代の召喚儀式を記録していた。
水晶から映し出されたのは、五百年前の真実だった。
魔王は人間を滅ぼすために選ばれたのではない。
人間と魔族が争い続ける世界で、双方の憎しみを一身に集め、戦争を終わらせるための役だった。
魔王が倒されれば、人間は勝利したと思い、魔族は復讐を始める。
勇者が倒されれば、魔族は勝利したと思い、人間は討伐軍を組む。
召喚の儀式は、戦争を終わらせるどころか、五百年ごとに憎しみを繰り返していた。
「この仕組みを壊す」
俺は勇者を見た。
「魔王を倒すんじゃない。人間と魔族が戦う理由そのものを終わらせる」
「そんなことができるのか?」
「二人なら」
アキラが俺の隣に立った。
「魔王と勇者が、互いに殺し合わなければいい」
長い沈黙が落ちた。
やがて、白銀の勇者は剣を下ろした。
「……俺も、召喚される前はただの学生だった」
「え?」
「こっちへ来て、いきなり勇者だと告げられた。戦えと言われた。正直、帰りたかった」
彼は苦笑した。
「魔王が友人なら、俺も戦いたくはない」
その日、世界中に発表された。
勇者と魔王は戦わない。
五百年続いた召喚の儀式を終わらせる。
もちろん、すぐに争いがなくなったわけではない。人間も魔族も、簡単には互いを信じられなかった。
それでも、少しずつ変わっていった。
国境には市場ができ、魔族の薬草と人間の小麦が取引されるようになった。魔法を学ぶ人間も現れ、剣術を学ぶ魔族も現れた。
そして一年後。
俺は、魔王城の玉座に座るアキラの隣に立っていた。
「本当に王になるの?」
「あなたが補佐してくれるなら」
「俺、勇者だぞ」
「勇者だからこそ、魔王の隣にいて」
アキラはそう言って、俺の手を握った。
玉座の間には、人間と魔族の代表が並んでいる。
皆の前で、アキラは俺に向かって微笑んだ。
「ユウ。私の友人でいてくれる?」
「それだけでいいのか?」
「……恋人でもいてほしい」
「もちろん」
歓声が上がった。
俺は笑いながら、彼女の手の甲に口づける。
異世界転生したら、友人が魔王だった。
世界を救うことになるなんて、転生前の俺には想像もできなかった。
ただひとつ確かなのは――
今度こそ、俺たちは言葉にできたということだ。
ずっと好きだった、と。
コメント
3件
うわあ、これ、めちゃくちゃ良かったです……!「親友のまま終わらせなかった」勇気が、異世界転生の形でようやく報われるの、心が温かくなりました。特に「友情だけ?」からのアキラの震えと、最後の玉座でのやりとりでじわじわ泣きそうに。召喚の儀式が実は憎しみのループだったっていう設定の裏を、二人で壊す決断をする展開も、構造としてすごく好きです。伏線が綺麗に回収されてて読後感が爽やかでした!