スクラッチャーズは、メンバー五人の人気バンド。
……のはずだった。
写真には五人。名簿にも五人。SNSの紹介文にも五人。
でも、ドラムの音はなぜか六人分ある。
その正体は、顔を黒い「もじゃもじゃ」で隠している謎のドラマー、K-T。日常写真では自分で顔に線を描き、ライブでは強烈な逆光でシルエットになる徹底ぶりだ。
ところが、顔を隠しすぎたせいなのか、メンバーも世間もK-Tの存在をすっかり忘れてしまう。
「Kさん、誰だっけ?」
「最初からサポートじゃない?」
「いや、ずっといたよ!」
忘れられても、K-Tは今日もドラムを叩く。
「問題ない」
顔は見えない。名前も忘れられる。
それでも、彼のドラムだけは、スクラッチャーズを六人組に戻していく。