テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第7話 体育祭と小さな一歩
一時間目。
片雪中学校、2年1組。
「はい、みんな注目ー!」
教壇に立っているのは、2年1組担任の有紗先生。
いつも通り明るい笑顔を浮かべている。
「今日の体育は、体育祭について話します!」
その瞬間。
教室がざわついた。
「体育祭!」
「今年いつだっけ?」
「何やるの?」
有紗は黒板に大きく書く。
『体育祭』
「今年もいろんな競技があります!」
そして――
「その中でも!」
チョークを置いて振り返る。
「今年、絶対に優勝したい競技があります!」
「何ー?」
「ロープジャンプ!」
「おおおお!!」
教室が一気に盛り上がった。
片雪中学校の体育祭では、学年対抗のロープジャンプが恒例になっている。
一つの長い縄を、二人が回し。
その中を、全員が8の字を描くように飛び続ける。
去年。
2年1組は――
惜しくも2位だった。
「去年は2位!」
有紗が拳を握る。
「でも!」
「今年は違う!」
「優勝するぞーーー!!」
「おおおおお!!」
クラス全員の声が体育館まで響きそうな勢いだった。
心愛も拳を握る。
「絶対勝つ!!」
その隣。
静かに話を聞いていた少女が、小さく呟いた。
「……私。」
「ロープジャンプ苦手なんだよなぁ……。」
心愛が振り向く。
「え?」
隣の席の少女。
#恋愛
雪音
31
#スポーツ
眠野ねつき無断転載とか❌
903
40
楽羅。
普段から学校を休むことが多く、行事にもあまり参加したことがない。
楽羅は自信なさそうに視線を落とした。
「私、忍耐力ないから……。」
「自信ないの?」
「うん……。」
心愛は少し考える。
そして。
「あ!」
「じゃあ、回してとかはどう?」
「……回して?」
「うん!」
心愛は笑った。
「楽羅ちゃん、音ゲー上手じゃん!」
「……。」
「それに、小学生の時に一緒に卓球やったじゃん!」
「うん。」
「だから、もしかしたら強いんじゃないかな〜って!」
楽羅は少し驚いたように心愛を見る。
「……私でも?」
「うん!」
心愛は迷いなく頷いた。
「やってみようよ!」
楽羅はしばらく黙っていた。
そして。
「……ありがとう。」
「やってみる。」
「うん!」
心愛は嬉しそうに笑った。
◇◇◇
そして――
体育祭練習。
「せーの!」
ビュンッ!
縄が回る。
「いち!」
「に!」
「さん!」
次々と生徒が縄の中へ入っていく。
そして――
「楽羅ちゃん、回して!」
「うん。」
楽羅が縄を握る。
ビュンッ。
ビュンッ。
ビュンッ。
一定のリズム。
速すぎない。
遅すぎない。
まるで音楽に合わせているように、綺麗に縄が回っていく。
「……。」
心愛が目を丸くする。
「すご……。」
リズムが全く乱れない。
「交代!」
別の子と入れ替わっても。
「回して!」
「うん。」
楽羅は同じリズムを保ち続ける。
練習が終わる。
心愛が駆け寄った。
「楽羅ちゃん!」
「すっごく上手だね!」
「……ありがとう。」
楽羅は小さく笑った。
その笑顔は。
いつもより少しだけ、自信があるように見えた。
そして。
楽羅がぽつりと言う。
「私ね。」
「ん?」
「クロカンやってるの。」
「…………。」
心愛が固まる。
「…………え?」
数秒後。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
体育館中に響く大声。
「クロカン!?」
「う、うん……。」
「スキー!?」
「うん。」
「なんで言ってくれなかったの!?」
楽羅は少し恥ずかしそうにする。
「……恥ずかしくて言えなかった。」
「でも。」
「よくナイターの練習で見てて。」
「かっこいいなぁって思ってて……。」
心愛の顔が一気に明るくなる。
「仲間じゃん!!」
「え?」
「スキー仲間!!」
心愛は嬉しそうに飛び跳ねる。
「やったぁぁぁ!」
その瞬間。
ズキッ。
「――あ゛あ゛っ!!」
心愛の腰に、前日のロードバイク練習による筋肉痛が直撃した。
「…………。」
「…………。」
心愛はその場で腰を押さえる。
「あ゛あ゛……。」
周囲の女子たちが一斉に吹き出した。
「何その声!!」
「人間じゃないじゃん!」
「心愛ちゃん大丈夫!?」
「痛いぃぃ……!」
体育館が笑いに包まれる。
そして。
楽羅も。
「……ふふっ。」
小さく笑った。
心愛はそれに気づく。
「あ!」
楽羅は慌てて口元を隠した。
「……ごめん。」
「いいよ!」
心愛も笑う。
「楽羅ちゃんが笑ってくれたから!」
楽羅は少しだけ照れた。
◇◇◇
昼休み。
心愛は机にべったりと突っ伏していた。
「…………。」
「動けない……。」
腰が痛い。
足も痛い。
昨日のロードバイクの疲れが完全に残っている。
そこへ。
「心愛ちゃん。」
「ん〜……?」
柚希亜がやって来た。
「お疲れ様☺️」
「……目の保養だわぁ〜。」
「…………。」
柚希亜が少し引く。
「う、う〜ん……。」
「?」
心愛は全く気づいていない。
そして突然。
「そういえばさ!」
ガバッ。
起き上がる。
「スキーのみんなって、なんでスキー始めたのか知りたくない!?」
柚希亜も少し考える。
「確かにぃ!」
「でしょ!?」
「そういえば。」
柚希亜が思い出す。
「今度の休日、月乃ちゃんが部活に来るから。」
「聞いてみるか。」
「うん!」
二人は顔を見合わせる。
「楽しみ!」
「ね!」
この時。
二人はまだ知らなかった。
月乃がスキーを始めた理由。
そして――
彼女が背負っている過去が。
どれほど残酷なものなのかを。
◇◇◇
その日の夜。
月乃は、とある家の玄関前に立っていた。
「こんばんは。」
「いらっしゃい、月乃ちゃん。」
月乃は静かに家へ入る。
その手には。
小さな紙袋。
中にはシュークリームが入っていた。
仏壇の前へ行く。
そっと袋を置く。
そして。
線香に火をつける。
白い煙が、静かに立ち上っていく。
台所では、一人の女性が料理をしていた。
「いつもありがとうね。」
女性は振り返る。
「凌も喜ぶわ。」
月乃は優しく微笑む。
「凌とは約束したので。」
少しだけ間を置いて。
「ずっと見守ってって。」
月乃は仏壇を見る。
そこには。
一人の少年の写真。
笑顔の少年。
写真の下には。
「凌」
という名前。
月乃は静かに写真を見つめる。
そして。
「じゃあな、凌。」
そう呟いた。
部屋には。
線香の香りだけが残った。
――第7話 終。
コメント
1件
ああ、第7話……楽羅ちゃんがようやく殻を破る瞬間が描かれていて、すごくじんわり来たなあ。音ゲーが得意→縄回しのリズムに活きる、という発想の転換が素敵だし、そこから自然にクロカンの話に繋がる流れが本当にリアル。心愛が筋肉痛で「あ゛あ゛」ってなるギャグも緩急になってて好き。ラスト、月乃さんが仏壇にシュークリームを供える静かな場面、あの温度差が効いてる。凌くん……何があったんだろう。次が気になる。