先程歩いた道を反対に歩き、駅につき、電車に乗り、自分の最寄り駅で降りる。
暗く、街灯に照らされた家までの道を歩く。小窓から灯りが漏れる自分の家が見える。
玄関のドアのドアノブを下ろし、ドアを引き、家に入る。
ほんのりなにか料理の香りが漂ってくる。
「おぉ、おかえり」
音楽の向こうから聞こえる妹の声。
声のほうに視線を送ると部屋着の妹が階段から下りてくるところだった。
僕は右耳のイヤホンを取り
「あぁ、ただいま」
と言いながら靴を脱ぐ。シューズクローゼットに入れて、まず洗面所に向かう。
妹はそのまままっすぐリビングへ入っていった。手を洗いうがいをする。
バッグを持ち2階へ上がる。部屋に入り、部屋着に着替える。
スウェットパンツのポケットにスマホを入れ、脱いだTシャツ、靴下を持ち、1階へ行く。
洗面所の洗濯籠にTシャツと靴下を放り込む。
リビングへ行こうと洗面所を出たとき、ガッチャンと玄関のドアが開く。父が帰宅した。
「あ、おかえり」
「おぉ、ただいま」
革靴を脱ぎ、シューズクローゼットに入れ、僕と入れ替わりで洗面所に入る父。
僕はリビングへ行き、キッチンで料理をしている母とソファーに座る妹に
「父さん帰ってきたよー」
と言いながらキッチンに入り、グラスを取り、氷を入れ、冷蔵庫から四ツ葉サイダーを注ぎ
涼しい音を奏でるグラス片手にソファーへ行く。
いつも通り夜ご飯を食べて、いつも通りリビングで家族団欒。
その後各々のタイミングで部屋に戻る。
部屋に戻り、スマホで妃馬さんや音成さん、鹿島、匠とLIMEをして
動画の編集をしてベッドに入る。微かな光で照らされた暗い部屋。
色などは識別できず、かろうじて輪郭だけ識別できる部屋。
ふかふかの枕、少し硬めのマットのベッドに体を預け、目を瞑る。
明後日、もう時間的に明日か。明日、姫冬ちゃんの誕生日
ということや不貞腐れた妃馬さんの顔や笑顔
そして今日、時間的には昨日の妃馬さんとの会話が頭の中を巡る。
音成さんに押されて僕のほうに飛んできたときの
服の洗剤の香りなのか、シャンプーかコンディショナーの香りなのか
はたまた香水の香りなのか、ふわっと香る香り。不貞腐れた顔で
「同級生トーク楽しそうですね!」
「悔しい」
「私より出会ったの後なのに恋ちゃんが私より怜夢さんと仲良くなってて」
と言っていたこと。そのとき時が止まったかのような空気感。
「安心して気が抜けちゃったのかな?」
と言った笑顔の妃馬さんから目が離せなくなっていたこと。
「サキちゃんばっか見て私に気づかなかったって言うし」
余計なことを言った音成さんも思い出した。
「余計なこと言いおって」
そう呟く。その音成さんの後の
「そうなんですか?」
と言うどこか嬉しそうな、でも悪戯っぽい微笑みの妃馬さんも思い出す。思い出してニヤける。
そんな気持ち悪い振り返りをしていたら
いつの間眠りに落ち、気づけば鳥の囀りが聞こえる陽の差し込む部屋が視界に映っていた。
姫冬ちゃんの誕生日の前日。それ以外に変わったことはなにもない。
いつも通り、妹が部屋に起こしに来て、1階へ下り、歯を磨き、顔を洗う。
リビングで家族と朝食を食べる。制服に着替えた妹が学校へ向かう。
少し後で父も会社に出掛けた。母に
「今日大学は?」
と聞かれ1限もあったがいつも通り
「5限ある」
と1限をサボる気満々で答える。部屋に戻り、LIMEを返したり
スマホをいじったり、ダラダラして、早すぎる昼寝をした。
1時前くらいに起きて、スマホをいじっていると母が起こしにに来てくれる。
お昼ご飯を食べ、ゆっくり支度をし、家を出る。
いつも通り駅に行き、電車を乗り継ぎ
大学の最寄り駅で降りる。大学校内に入る前にコンビニに寄り、飲み物を買う。
正門から大学校内に入り、講義室を目指す。講義室には妃馬さん、音成さん、鹿島がいた。
鹿島の隣に座り、講義中、お互いに違うゲームをしながら喋っていた。
たまにスマホで妃馬さんとメッセージのやり取りをした。
講義が終わり、その日は妃馬さんと音成さんとは一緒に帰らず、鹿島と帰路についた。
とは言っても鹿島とは駅までで電車の方向が違うので
そこからは1人寂しく…もないが1人で帰った。
正直、鹿島と駅で別れた後、妃馬さんや音成さんが一緒の電車に乗ってるかな?とか
一緒に帰れるかな?と思ったがそんな淡い期待は淡い期待のまま消えていった。
家の玄関の扉を開き、家に足を踏み入れる。
料理の香りが漂う中、靴を脱ぎ、シューズクローゼットに入れ
洗面所で手洗いうがいを済ませて2階の自分の部屋へ行く。
部屋着に着替え、その日着たTシャツ、靴下を持ち1階へ。
洗面所の洗濯籠に放り込み、リビングへ向かう。
その日は父は遅くなるらしく母、妹、僕の3人で夜ご飯を食べた。
食べ終えてゆっくりしているときに父が帰宅した。
お風呂が沸き、妹、母、僕、父の準備で入る。
リビングでバラエティ番組を見ながら笑い、各々のタイミングで部屋に戻る。
部屋の扉を閉じ、ベッドへ腰かける。テレビを点け、スマホをいじる。
音成さん、妃馬さん、鹿島や匠とLIMEをしながら
見てもいないテレビをボーっと眺めているといつの間に日を跨いでいた。
姫冬ちゃんとにトーク画面へ行く。
「お誕生日おめでとう!」
と送ろうとするが打ち込みすらせずにトーク一覧に戻る。
鹿島や匠といった付き合いが長いやつらなら日を跨いだ瞬間に
おめでとうメッセージを送るのも抵抗はないが
まだ知り合って日が浅く、お姉さんの妃馬さんならよく話す、よく会う仲だが
姫冬ちゃんはまだ数回しか会っていないし、話してもいない。
なので日を跨いですぐのおめでとうメッセージはやめて
大学でプレゼントを渡すときに言おうと思った。
その後は鹿島からワメブロ(ワールド メイド ブロックス)の実況を撮ろうと誘われ
3時近くまで実況を撮った。その後は通話したまま、動画を編集し、僕が先に寝落ちした。
カッチャ。扉の開く音で目が覚める。
「お兄ちゃん朝ー」
ボヤけた視界が次第にはっきりしてくるが、ボヤけていた視界とあまり変わることのない景色。
やけに首が痛いと思ったら、ローテーブルに置いたパソコンで編集をしながら寝落ちしたため
そのまま後ろにそり返り、ベッドに首を預けた状態だったらしい。
視界に広がる景色は天井だった。僕は変な体勢で寝てしまったことを後悔しながら
痛む首をゆっくりと前に倒し、妹に視線を送る。
「なにその顔」
痛みで顔が歪む。
「首…やった…」
「寝違え?」
「…なのかな?変な体勢で寝たときも寝違えっていう?」
「知らん」
「あぁ〜…痛」
ゆっくりと首を動かすが鋭い痛みが襲う。
「ご飯だよ〜」
スマホをいじりながら言う妹に
「あいあい。行きますよっと」
首に気を遣いながらゆっくり立ち上がる。
「おじいちゃんみたい」
と笑う妹。
「おい。年齢差別だぞ。今お年寄りでもピンピンしてるお年寄りだっているんだからな」
「はいはーい。すいませーん」
首に気を遣いながら部屋を出る。妹と廊下を歩き、階段を下り、妹はそのままリビングへ。
僕は洗面所へ行き、歯を磨き顔を洗う。
首が痛いというだけで、歯を磨くことさえも顔を洗うことさえも
普段通りできないことに驚き、なおさら変な体勢で寝たことを後悔した。
タオルで顔を拭くのも首に気を遣いながら行った。リビングに入り、静かにイスに座る。
「いただきます」
家族がほぼ同じタイミングでバラバラの言い方で言う。
「どうかしたの?」
母が疑問を持った顔で聞いてくる。
「あぁ、寝違え?た?」
「あら。痛い?」
「痛いね」
「ご飯食べたら冷やしときなさい」
「ん」
その後はニュースの話やそのニュースで出た芸能人の話など
他愛もない話をして朝ご飯が終わった。
「ご馳走様でした」
みんなが食べ終えた中
僕は普段よりゆっくりと食べていたため、まだ食べ終わっていなかった。
妹と父は2階へ行く。母はキッチンで食器を洗っている。
「ご馳走様でした」
小さく呟く。僕は首に気を遣いながら食器を持ち、キッチンへ向かう。
「あぁ、ありがと」
そう言う母に食器を手渡す。
僕は冷蔵庫の一番下の冷凍庫から少し大きめの保冷剤を出す。首にあてる。
しかしめちゃくちゃ冷たくて、手が耐えられなくなり
右手が限界になったら左手、左手が限界になったら右手と
忙しなく保冷剤を支える手を変えながらソファーへ向かい、腰を下ろす。
程なくすると階段のほうから足音が聞こえてくる。
今は首を捻り顔だけを音のほうに向けることができないので
僕は保冷剤で首を冷やしながら体ごと音のほうを向く。
するとまず父がスーツ姿で下りてきた。父は革のバッグをダイニングテーブルの足元に置く。
そしてダイニングテーブルの父の席のイスに座り、ニュースを見ながらスマホをいじる。
テレビのほうに体を向けると今度は妹が、父が下りてきてから程なくしてから下りてきた。
幽霊でない限りそうだとそちらを向かずともわかる。妹は僕の座るソファーの左側に座った。
「首そんな痛いの?」
「まぁ動かさなきゃへーき」
「今くすぐったら?」
「しばく」
すると妹はニヤニヤした顔で
こちょこちょをするいやらしい手つきで指を動かしながらゆっくりと近づいてくる。
「マジでやめろ」
まだニヤニヤしながら近づいてくる。
「やめろ」
まだ近づいてくる。
「マジで」
妹はそこで止まり、笑った。
「ヤバすぎ。貸し1ね。あぁ〜ウケる」
「は?なんで貸し1になんだよ。ふざけんな」
「だって命救ってあげたんだよ?貸しでしょ」
「夢香がオレの命奪おうとしてたろ」
アニメやマンガのように口笛を吹き誤魔化す妹。
パッっとテレビを見た妹はソファーから跳ねるように立ち上がり
「んじゃ!首、お大事に!」
「はいはいどーも」
そのままリビングで
「んじゃ、いってきまーす」
と言いながら玄関に向かう。僕は首に気を遣いゆっくりと立ち上がり、母と玄関へ向かう。
妹がローファーを履き、爪先をトンカンと玄関のタイルにあて
「いってきまーす」
と本日2回目の「いってきます」を言う。
父、母、僕で「いってらっしゃーい」と言う。ゆっくりとリビングに戻り、ソファーに座る。
妹が出てから30分ほどが経った頃
「それじゃそろそろ出るかな」
と言い、革のバッグを持ち玄関へ向かう父。
僕はまた首に気を遣いながら、ゆっくりと立ち上がり、母と玄関へ向かう。
父も革靴を履き、爪先をトンカンと玄関のタイルにあて
「いってきます」
と妹と同じく本日2回目の「いってきます」を言う。母と僕で
「いってらっしゃい」
と本日2回目の「いってらっしゃい」を言った。父の姿が扉の奥に消えた瞬間
「今日大学は?」
と母に聞かれる。僕は瞬間的に
「午後から」
と答えた。
「何時に出るの?」
「あ〜…っと?ん〜4時…だから…3時10分くらいに出る」
「お昼は?どうする?」
「あぁ〜お〜茶漬け?」
「お茶漬け!?」
「なんかひさびさに食べたいなぁ〜って」
「あぁそう。わかった」
僕は階段で2階に上がり、自分の部屋へ戻る。
首に気を遣い、左手で保冷剤を支えながら右手でスマホをポケットから出す。
ゆっくりとベッドへ座る。電源を入れると鹿島からメッセージがあった。
「今日怜ちゃん1限行く?」
「行かん」
と呟きながら「行かん」と打ち込み、送信する。
そこでふと思ったことがあり、妃馬さんにLIMEをする。
「おはようございます。
あの今日姫冬ちゃんって講義何限に入ってるとか知ってたりします?」
その後にフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
いつもなら早すぎる昼寝をするところだったが妃馬さんからの返信までは寝れない。
なんなら妃馬さんの返信の内容次第では寝れない。そう思いながら、テレビを点ける。
朝のニュース番組と違い、8時過ぎのニュース番組は
ほんの少しバラエティー要素が強まっていた。そのため、笑う要素があり、笑って見ていた。
しばらくしてからスマホを手に取り、電源を点ける。
すると妃馬さんからのLIMEが来ていて、通知欄で読む。
「おはようございます。珍しく早起きですね?w
あぁ!誕生日プレゼント!姫冬はですね」
そこで画面が暗くなった。
もう一度電源を点けて、今度は妃馬さんから通知をタップして
妃馬さんとのトーク画面に飛んで、ゆっくり安心して読む。
「おはようございます。珍しく早起きですね?w
あぁ!誕生日プレゼント!姫冬はですね、今日は2、3、4らしいです。」
そのメッセージの後に猫が「じゃーん」と
なにかを紹介しているようなスタンプが送られていた。
めちゃくちゃ悩んだ。悩みながら妃馬さんに返信をする。
「実は毎朝妹が起こしてくれるのでw
ですです。プレゼント渡さないとって。なるほどなるほど。ありがとうございます」
その後にフクロウが「ありがとう!」と笑顔で言っているスタンプを送った。
僕が5限、姫冬ちゃんが2、3、4限。
被ってはないし、仮に被っていたとしても3年生と1年生で講義が違うと思うし…。
どうしようか悩み続けた。結局お昼休みに渡そうと思い
ゆっくりと立ち上がり、部屋を出て、慎重に階段を下り、リビングへ向かう。
リビングに入り、掃除機をかけていた母に
「あのさー」
と声をかける。最近の掃除機は音が静かになったとはいえ
やはり掃除機の音にかき消され、聞こえていないようだったので
「あのさー!」
と大きな声で声をかける。すると掃除機の電源を切り
「ん?なに?」
と言う母に
「今日ちょっとお昼前に出ることになったので」
と言うと
「あらそう?じゃ、お昼は?どうする?」
と聞かれる。たしかに。考える。
「軽く食べて行くわ」
「また軽くね?お茶漬けでいいのね?」
「お願いします」
「何時に出るの?」
「あぁ〜と。11時半とかかな?」
「ん。わかった」
「お願いします」
と頭だけを軽く下げるとピキーンというような鋭い痛みが首に走る。
僕は先程よりゆっくりリビングを出て、先程より慎重に階段を上り、自分の部屋へ戻る。
そろそろ9時。11時半に出ると母に言い、軽くご飯も食べると言った。
お昼ご飯を食べる時間、着替えや準備の時間を考えると
10時ちょい過ぎくらいに母は僕の部屋を訪れるだろう。
寝るには短く、なにかをして時間を潰すには中途半端に長い時間に感じた。
結局僕はあつまれせいぶつの森で日課をこなすことに決めた。日課をすべてこなし
あつまれせいぶつの森で自分のキャラがジッっとしていると画面左下に出る時刻の表示で
現在の時間確認する。9時32分。ベッドの上で胡座をかいていた僕は仰向けに倒れる。
「痛った!」
時刻を確認してマジかと呟きたがったが首の痛さが勝った。
首の痛さが落ち着き、時刻を思い出す。あと3、40分ほど。
これまた微妙な時間になってしまった。
僕は首に気を遣いながら体を起こし、パスタイム スポット 4に近づき
コントローラーを手に元の位置に戻る。コントローラーのホームボタンを押し
パスタイム スポット 4の電源をつけ、テレビのリモコンで入力切り替えを行う。
残りの時間ひさしぶりにパスタイム スポット 4で
トップ オブ レジェンズのランク戦をやることにした。
やり始めてからは時間は気にならなかった。
初動で負けたり、なぜかうまいこといってトップ5に食い込んだり
ランク戦を楽しみ始めたところでコンコンコン。ドアがノックされる。
「はいー」
「もうそろそろご飯食べるかなー?って」
「あぁ!っ。すぐ行くー!」
「はーい」
初動で負けた。
「はぁ〜」
別に母に声をかけられたからとかじゃない。
ただただ僕が下手だっただけだが、行き場のない悔しさで胸、心がモヤモヤしていた。
僕はパスタイム スポット 4とテレビの電源を切り、1階へ下りる。
リビングに入るとキッチンから母が
「どんくらいかわかんないから自分でよそって」
と僕に空のお茶碗を渡す。僕はお茶碗を受け取り
開かれた炊飯器から、しゃもじを使い、3口分くらいを入れる。
炊飯器の蓋を閉め、蓋の上にしゃもじを置く。
ポットの前に置かれた様々な「お茶漬けの素」の中から一番シンプルなものを選び
お湯を注ぐ。お湯の注がれたお茶碗は熱く
底や側面を持てないため、両手の親指と人差し指を使い
縁を持ってダイニングテーブルへ運ぶ。僕を待っていてくれた母と
「いただきます」
と言い、箸を手に持ち、お茶碗内のお米をかき混ぜる。
あられが浮き、海苔が沈み、お茶漬け特有の香りが鼻に届き
つい1時間前に朝ご飯を食べ、お腹は空いていないはずなのに
その香りでお腹が空いた気になる。
しかしどう考えても、まだお茶碗は熱いのでどうしたものか考える。
なぜか母は平気な顔をしてお茶碗を手に持ち、熱そうにせず、お茶漬けを啜り食べている。
そのジュルズルジュルという海外の方が嫌いそうな音が日本人の僕には空腹を促進させる。
テーブルに置いたまま、息を吹きかけ冷ます。水面に波が立つ。しばらく時間を置く。
さっきまで浮かんでいたあられが水分を含み、沈んでいた。
恐る恐るお茶碗の側面に触れる。まだ熱かったが持てるくらいの熱さになっていたので
お茶碗を持ち上げ、縁に口をあて、啜り食べる。ジュルズルジュル。
少し濃いめの汁に解けてなくなる海苔、カリカリの要素がどこにもなくなったおかき。
すごくシンプル。シンプルだけど奥深い。汁の味、香り、海苔の味、香り、おかきの味、香り
そのどれもが邪魔することなく
かといってどれか1つが大きく主張することなく調和していた。
「お茶漬け早く食べないとお米増えるよ?」
大昔、僕がまだまだ子供の頃、田舎の祖父母の家でお茶漬けを出してもらい
猫舌で食べれず、ただお茶碗を見つめる僕に祖母がかけた言葉を思い出す。
そんな訳あるか。そう思いながら少しニヤつき、お茶漬けを啜り食べ進める。
お腹一杯になってきたな。と思ってきたところでちょうどお茶碗の底が見えた。
「ごちそうさまでした」
母も少なめによそっていたのか、僕とほぼ同じタイミングで食べ終わった。
お茶碗をキッチンへ持っていこうとしたが
母が僕のお茶碗とお箸も持って、キッチンへいった。僕は軽く頭を下げ
「あざっす」
と呟くように言った。点いているテレビを眺める。
じわじわと早めに大学行こうと決めたことを後悔し始める。
「あぁ〜」
ダイニングテーブルのイスの背もたれにもたれ、首を後ろに逸らし、視線を天井に向ける。
たぶんもうすぐ眠くなるな。
そう思い、意を決して立ち上がる。
意を決して立ち上がったはずなのに2階の自分の部屋へ行く足取りは重かった。
渋々部屋着を脱ぎ、ソラオーラの瓶の蓋が開けられていて
夏らしい涼しげな写真のTシャツにGジャンを羽織り、カーゴパンツに足を通す。
ピアスも棒状のチャームが1本ぶら下がっているピアスに変える。
バッグをベッドに置き、プレゼント用に包んでもらった服の入ったビニール袋も
忘れないようにバッグの隣に置く。スマホの電源を入れる。妃馬さんからのLIME。
「妹さんとは仲良しですか?」
そのメッセージの後に猫が「?」を浮かべているスタンプが送られていた。
僕はベッドに座り、妃馬さんとの通知をタップし
妃馬さんとのトーク画面へ飛び、返信を打ち込む。
「まぁ〜…悪くはないですね?」
その後にフクロウが悩んでいる様子のスタンプを送った。
トーク画面の一覧に戻り、電源を落とす。
「あ…ふぁ〜あ」
あくびが出る。涙が目に溜まり、いつも通り袖で拭う。Gジャンの硬い感触が心地悪い。
いつも通りパーカーだと思って、何も考えず拭った自分が悪いくせに不快指数が高まる。
Gジャンの袖の涙を拭った部分の色が濃くなっていた。
ボーっと扉側の壁と天井のぶつかる角を眺める。鼻から息を吸い込み、口から出す。
「行っくっか!」
今度こそ意を決して部屋を出る。階段を下り、リビングに寄って
「んじゃ、出るわ」
と母に声をかける。
「んー」
となにか食べているのか、声にならない声で返事が返ってくる。
玄関で靴を履き、ドアノブに手をかける。
「いっへらっはい」
なにか食べながら「いってらっしゃい」と言ってくれる母に背を向けたまま、笑い
「いってきます」
と言いながら家を出る。
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