サイネ「ちょっと助けて欲しいんだよね」
暗めの桃色の髪に、下の方で結んだ2つのお団子。そこからまた伸びているツインテールは幼げな印象を与えるが、元気いっぱいのその姿に反して瞳には一定の知性を認められる。
しかし、だからこそステーファメル達は目の前の異変に敏感になった。
ステー「いやよ」
サイネ「即答!?ねえちょっと話だけでも聞いてよ!」
ラカトス「貴方が賊でないという証明はできますか?それができないのならここから直ちに去りなさい」
エリカ(…ステちゃんの中戻るタイミング逃しちゃった)
警戒心を剥き出しにする2人に、サイネは大振りな動きで必死に説明する
サイネ「あ、あなた達フェイフ村に行きたいんだよね?私、フェイフ村の出身だからあなた達を案内できると思うんだ!」
ステー「…なんですって?」
サイネ「盗み聞きしちゃってごめんね、でも私もフェイフ村に用事があってさ」
ラカトス「待ってください、どこから聞いていたんです?」
サイネ「え?えっと〜…旅の目的なんちゃらから?」
ラカトスは目の前の少女の言葉に目を見開く。自分達の話の内容が異常である事を分かっていたからだ。
ラカトス「じゃあ創世の三女神の話も聞いていたということですか?」
サイネ「はっ、はい。聞いちゃいました」
エリカ「あら、じゃあ私たちの欲しいものも分かってるんだ?」
サイネ「フェイフ村にある宝玉、だよね?実は私、それをみんなに持っていってほしいんだよ。だから声、かけたんだ。」
ステー「持っていってほしい?宝玉が要らないの?」
サイネ「少なくとも…私はね。あんなもののせいで…」
そこまで言った所で、サイネは「やってしまった」とでも言うようにハッと顔を上げた。
エリカ「まあなにか、事情があるんだね?ねえステちゃん、この子を手伝ってあげよーよ」
サイネ「ほんと!?」
ステー「待ちなさい、どう考えても危険でしょう?騙されていたら…」
ラカトス「ですが、今はフェイフ村の手がかりが目の前の少女しかいません。君、何かフェイフ村出身を証明できるものを出してください。」
サイネ「えっ、ど、どうしよう。フェイフ村にろくな特産品とか無いし証明できないかも」
ラカトス「エリカ様、それは本当ですか?」
エリカ「え〜っと、確かリアリーの宝玉付近は…うん、そうだね、フェイフ村には本当何もなかった筈だよ。」
ラカトス「分かりました、あなたを信じましょう。」
サイネ「えっ、なんで?!」
ラカトス「何もないことを即答できるのは、少なからずフェイフ村を知っている者か、それとも何も機転の利かないバカのどちらかです。僕達の身なりからしてこの辺りの出身でない事だって貴女はおわかりでしたでしょうから騙すのは容易と考えるはずですから。
さらに、この女神は宝玉以外のことは何も知りませんが、逆に宝玉付近の事に関しては詳しい事も分かっていましたし。」
サイネ「へ〜、そうなんだ」
ステー(そうだったのね)
エリカ(言われてみれば確かにそうだね)
ラカトス「…僕達はあなたを頼りについていきます。裏切った場合、あなたの頭蓋骨を叩き割りますからご注意を。」
サイネ「りょ、りょうか〜い。」
ステー「念の為わたくしも武装顕現はしておきましょう。サイネ、頼んだわよ。」
エリカ「よろしくね、サイネちゃん」
サイネ「うん、任せてよ!」
*迷いの森___
サイネは流石フェイフ村出身を名乗るだけあって、地面に剥き出しになった木の根や大きな岩を軽々と飛び越えて進んでいく。
そんな軽快な様子を際立たせているのは、森の暗くてすべてを飲み込んでしまいそうな異様な雰囲気だった。
ラカトス「この森、太陽光もほぼ入ってきませんね。」
エリカ「魔物もほとんどいないもんね。」
一行はサイネの生み出す魔力の炎の光で道を照らしていた。
ステーファメルの元いた国では一定の年齢になると魔力適性と魔力量の検査をするものだが、その検査の労力は殆ど最高魔力量の調査に割かれていた。だから、目の前のサイネという少女が明らかに炎を得意としていることは素人のステーファメル達の目でもよく分かった。
サイネ「ねえみんな、そういえば自己紹介とかしてないよね?」
エリカ「ああ、確かにそうだね。」
サイネ「だよね!じゃあ改めて私から。
私はサイネ・ウェンダ、お花のサイネリアからとってるんだ。得意なのは〜、炎属性魔法!あと、普通の25歳の大人の魔力量が大体5000ぐらいなのに対して、私は15歳で6000あるんだ。すごいでしょ!」
一般的な15歳の魔力量は3000程度とされている。サイネが今作っている炎の消費魔力が大体15ほどである。
ラカトス「それはまあまあすごいですね。」
サイネ「ふふん。じゃあ次はあ、貴族ちゃん!」
ステー「……まって、わたくし?」
サイネ「うん」
ステー「分かったわ、でも次そういう呼び方したら貴方のそのツインテール剥ぎ取るからね。」
サイネ「怖…」
ステー「わたくしはステーファメル・エリアトス。…まあ、元貴族令嬢よ。」
サイネ「えっ、そうだったんだ!貴族なんて大帝国『エジンクスン』でしか見たことないかもなあ。」
ラカトス「エジンクスン…ですか。」
大帝国『エジンクスン』
ラカトスはその言葉に軽く顔をしかめたが、すぐに何事もなかったように真顔になった。
サイネ「あ、話を遮ってごめんね。」
ステー「わたくしの得意属性は…………特に、ないわ。魔力量は、今は1万あるわ。 」
ステー(昔は最高まで高めても60しか無かったけれど…)
サイネ「ステちゃんって得意属性ないの!?」
ステー「…はあ……ええそうね」
ステーファメルがため息をついた理由が2つ。1つはサイネの自分に対する呼び方への呆れ、諦め。もう一つは、得意属性が無いことで「何もできない」とからかわれてきた過去を思い出したこと。
しかし、サイネの反応は完全に予想外だった。
サイネ「じゃあ、全部にすごーーーーい可能性を持ってるってことじゃん!!ステちゃんすごい!」
ステー「…え?」
サイネ「いや、だって、『何にも適性がない』って事は、逆に言えば努力次第で何にでも染まる事が出来る権利を持ってるってことだよ?こと魔力においてはね!」
サイネのように楽観的とも取れる考え方はまさにステーファメルにとって初めてのものだった。
サイネ「それに、適性なんていうので決められた道を漠然と埋め込まれるのなんてつまらないよ。自分で運命を決める権利があるステーファメルはきっと、誰よりも自由で強いんだよ!きっとね!」
ステー「……ふっ、そうね。その通りよ。」
ステーファメルの表情が幾らか柔らかくなり、密かに張り詰めていた警戒心の膜が少しだけ緩くなる。
サイネ「じゃあ次は、そっちのハンマー持ってる人お願い!」
ラカトス「僕ですね。僕はラカトス・アガイン。得意属性は氷、魔力量は大体8000程度です。年齢は…主人様の一個上、16歳です。」
周囲を警戒しながら、ラカトスは冷静に自己紹介を行う。その警戒の矛先が自分にも向いていることを理解しているかどうかは不明だがサイネは笑顔を崩さず返答する。
サイネ「へ〜、魔力量多いんだね…頼りになるね!よろしく!」
エリカ「もしかして最後は私かな?
私の名前はエリカ、普段はステちゃんの中にいるよ〜。」
サイネ「中!?そ、そっか。確か女神なんだもんね。」
エリカ「ふふ、そうだよ〜。ちゃんとそこまで聞いてたんだね。私達は、てか私とステちゃんは自分の力を取り戻す為に旅してるんだ。」
ラカトス「僕は主人様の従者ですので。」
ステー「そういえば、どうして貴女はわたくし達の計画を聞いてもなお、宝玉の所に案内しているのかしら?」
サイネ「え〜…なんていうのかな、私はさ、あんまり神って存在が好きじゃなくてさ…あエリカちゃんは別としてね!」
ステー「ふーん…まあいいわ。理由は後で教えてもらうから。」
サイネ「あはは…」
その時、近くから微かに人の悲鳴が聞こえた。微かだが、恐怖と緊急性を声高に表していた。
サイネ「誰かが襲われてるッ!」
サイネは素早く方向転換をして声の方に向かおうとする。
ステー「待ちなさい、何故罠の可能性もあるのにわざわざ行くのよ。他人の為にわたくし達が被害を受けるのは…」
サイネ「それでも、今あの人を救える可能性があるのは私達だけなんだよ!!お願いステちゃん、一緒に来て!」
ラカトス「主人様、今はサイネに従いましょう。お願いします。」
ステー「………しかたないわね、さっさと終わらせましょう。」
そうしてサイネに続くように木々の間を掻き分けていくと、何匹ものオオカミの魔物に襲われている商人がいた。身なりはボロボロで、恐らく何日もこの森にいたであろうことが推測できた。
ラカトスとステーファメルは即座に武器を構えた。
サイネ「武装顕現、一等級の夢!」
サイネの言葉に合わせて、円形の鋭い手裏剣のような刃が二対、サイネの手の中に現れた。
サイネ「ふんっっ!!」
サペリッシュの一つを投げ、商人の後ろにいた魔物を即座に処理する。後ろにいるステーファメルが放った矢を避けながら、柔らかな身のこなしでオオカミ達を倒していった。
すると、森の奥から音を聞きつけたオオカミ達が続々とやってくる。
ステー「全く、キリがないわっ!」
エリカ「仕方ないなあ、こんな所で体力を消費したくないからね。今回だけだよ」
そう言うとエリカは手を前に出し、小さな光の玉を作る。
エリカ「『神衣』」
その瞬間、世界から音が消えた
凄まじい光が連鎖的に爆発し、魔物たちの身体を灰にしていく
エリカの掌にあった小さな光の玉から、無数の光線が飛び出したのだ
再び音が帰ってきて、木々がざわめく音が耳を刺激する頃には既に魔物の群れは居なくなっていた。
エリカ「よし、終わり♪」
サイネ「す………すっごー!!!!エリカちゃん強すぎっ!」
エリカ「ふふ、でも私力の加減苦手だから、魔力はあんまり使わない主義なの。」
ラカトス「…それで、先ほどの商人は?」
商人「あ…あ、め、女神よ…!ありがとうございました!!!助かりました!」
ステー「…女神?」
商人「女神様たちがいなければ私はどうなっていたことか…お礼させてください!!」
ラカトス「僕達を女神と勘違いしているのか…まあいいか…」
サイネ「その言葉、ほんとう?じゃあ、これから何か困った事が起きたら商人さんに頼ることにしますね!」
商人「そ、そんなことでいいんですか?」
エリカ「私達、別にお金とかには困ってないもん。」
商人「そうですか…わかりました。私はしばらくここに滞在します。帰り道は分かりますから気にしないでください。何かあったらここに来てくださったら、そのときは全力でお助けします!」
ラカトス「わかりました。ありがとうございます。」
商人「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました…!」
サイネ「みんな、手伝ってくれてありがとう!」
エリカ「いえいえ〜」
ステー「あなた、何時もあんなふうに他人を助けているの?」
ステーファメルにとって他人を助けるなんていうことは殆ど無価値に等しいことだ。だから、サイネの行動が理解できなかった。
サイネ「うん。私が本で読んだ言葉でね、『情けは人のためならず』って言葉があるんだ。この言葉の意味は、『人を助けたらその恩は必ず自分の徳となって返ってくる』みたいな意味なんだよ。だから私はできるだけ人を助けるようにしてるの。」
ラカトス「思ったより損得勘定で動いているんですね。意外でした。」
サイネ「そうだよ、慈善事業で生きるほど良い奴じゃないからさ、私。」
そんな話をしながら歩いていると、ふと4人の頬を風が掠める。風の吹き込む方を見ると、光が差し込んでいた。
ステー「もしかして…」
4人は少し早足になって光の方へ向かった。
サイネ「___着いたっ!ここが、フェイフ村だよ!」
森の中に空洞のように空いた平原には確かに村があったが、その村からは、一切の生気すら許さない程の強い静寂が放たれていた。
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コメント
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神依 魔力を超圧縮し、その魔力の塊が弾けるまで小さくする。弾けた魔力は弾丸のように放たれ、正確に敵を撃つ矢となる。