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ついに戦闘シーン。これからはバトル魔法を展開していきます。
ステー「なんだか…静かな村ね。いつもこうなの?」
サイネ「…まあ、そうだね。今の時期はいつもこうだよ。」
エリカ「時期?なんかお祭りがあったりするの?」
サイネ「うん…そう、かな。」
先程までとは違う、煮え切らないサイネの様子に我慢できなくなったステーファメルは村の中にどんどんと入っていく。
ラカトス「これは…」
村にあった家屋は決して多くはなかったが、それにもかかわらずそれらを際立たせていたのは、家の壁一面に描かれた真っ赤な紋様だった。
ラカトス「サイネ様、もしかしてこれらは『創世教』の紋様ですか?」
サイネ「…」
ステー「創世教?」
ラカトス「はい。主人様の国では広まっていませんでしたが、創世の三女神を主神とする熱狂的な宗教です。」
創世教は世界全体に広まっている過激な信仰集団である。三女神に合わせて、3人の「団頭」と1人の「幹部」、その他の「信仰者」によって形成されている。
ステー「この世界は創世の三女神によって作られたのは常識でしょう?『りんごが木から落ちる』と同じぐらい。それなのにそんな宗教ができるなんてね。」
ラカトス「だから、より過激な思想なんです。絶対的に創世の三女神が正しい。創世の三女神に報いなくてはいけない。そういう強い思想がありますから。それに…団頭、トップがかなり優秀らしく、多くの者は団頭を狂気的に崇拝しているらしいですよ。」
エリカ「さて、そんな危険な宗教のマークがデカデカと描かれてるわけだけど…ね、サイネちゃん?」
サイネ「…そう、この村の人たちはみんな創世教の信仰者。私と、私の妹を除いてね。
…だからさ、ねえ、一つ聞きたいの。エリカちゃん、貴女は何者?」
エリカ「私?」
サイネ「うん。エリカちゃんのさっきの技…あんなの見たことない。それに魔力の感じもなんだか変だった…そう、まるで宝玉の発する創世の女神の魔力みたいで。
ねえ、もしかしてエリカちゃんは……神様、なんじゃないの?」
創世教の紋様を見られたことで隠しきれなくなった女神への敵意がサイネから垣間見えている。
ステー「…確かに、結局わたくし達はエリカの何も知らないわね。ねえエリカ、どうなの?」
エリカ「…あー」
エリカ「やっぱり”外”はダメだね、思考が変になっちゃうや。箱庭から出たってのに全部無駄になっちゃう…」
ぶつぶつと呟きながら、突然、エリカは左手の手のひらをサイネの方に突き出す
エリカ**「”壊罪“」**
気味の悪い魔力が一瞬の間に集約してサイネに放たれる。
ステーファメルは体の芯が震えるような恐怖に声を出すこともできなかった。
ラカトス「ッサイネ!!!」
ただ一人動くことができたラカトスでも間に合わず、サイネにその技が命中した、瞬間…………
サイネ「…あれ?」
エリカ「え?」
ラカトス「…なんとも、ない?」
確実にサイネに全ての魔力がぶつかったのに、サイネは傷一つなくけろりとしている。
エリカ「………じょっうだんだよ〜!ごめんごめん。ちょっと驚かせようと思っただけ!」
突然エリカはまるで己の失態を隠すかのように明るく笑ってみせる。
ステー「待ちなさい、何も解決してないでしょエリカ。急に…どうしたのよ。」
エリカ「いやあ、ちょっとサイネちゃんの言葉にびっくりしちゃってね。要するに、サイネちゃんは私が創世の三女神なんじゃないかって言いたかったんでしょ?」
サイネ「う、うん。みんなが女神の刺客なんじゃとか思っちゃって…」
エリカ「だったら違うよ。私は創世の三女神なんかじゃあない。そうだな、そろそろ話すよ。私のこと。」
エリカは一歩後ろに下がり、大袈裟な手振りで話し出す。
エリカ「私はね…確かに、本当に女神なんだ。みんなは知らないと思うから、少し昔の話、してあげる。」
その昔、「無」そのものだった世界に3つの光が降り立った。その光のうち
一神柱 シェントット・カタストロフは、
何もなかった世界に時や空間等の概念を作った。
ニ神柱 スタリス・ラム・フラッシアは、
世界に様々な生き物や土地を生み出し、其れ等に力を与えた。
三神柱 リアリー・プロテリアは、
生き物達に感情を与え、世界に善悪のバランスを生み出した。
そして生まれた原初の生き物達は、神に代わって多くの命を生み出し、守ってきた。
しかしある日、創世の三女神はある決断を下した。
「もう原初の生き物達は要らない」
「お前たちの力を奪い、忠実な新たなる使徒を我らが生み出す」
三女神から独立した原初の生き物達に立場を奪われることを恐れた三女神は、原初の生き物を殺し、新たに1人の神を作った。それが「降臨の神」である。
しかし今や、その降臨の神でさえも、行方を眩ませている…
エリカ「原初の生き物達は他の生き物達に神と呼ばれていた…けど、創世の三女神はその神の記憶さえも民から消し去った。私は…唯一の神の生き残り。でも、力を奪われてどうにもできなくて、逃げてきたんだ。三女神にバレないように、今まで誰にも話さなかったんだけどね。」
ステー「…そんな過去があったなんて…」
ステー(エリカは、わたくしも創世の三女神に力を奪われたのだと言った…なら、何故?もしかしてわたくしは、原初の生き物の一人…? )
頭を抱えるステーファメルに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるラカトス。
ラカトス「創世の三女神がいい女神なだけではないことは知っていましたが、まさか…」
エリカ「さて、私は自分の事をちゃんと話したよ?サイネちゃん、君の話を聞かせてくれるかな。君はどうしてそんなに創世の三女神が…嫌いなのかな?」
サイネ「…バレてるんだね。
そう、私は創世教も、創世の三女神も大っきらい。だって…あの、あの忌々しい宝玉のせいでみんな気が狂っているから!」
サイネは溜め込んでいた感情を爆発させるように話し出した。自分と同じように創世の女神を敵対視する人に生まれて初めて出会ったからだろうか、たかが外れたのだろう。
サイネ「フェイフ村は十年ごとに魔力の強い人間を宝玉への供物として捧げてるの。その子の意思は無視して、殺して、神のためってニヤニヤ笑って!!いい生け贄を作る為に幼い頃から宝玉の近くに何日も無理やり拘束して力を付けさせる。宝玉が出す女神の強い魔力は大人にとっても毒なのに!!!
私の妹は宝玉の魔力にやられて今じゃ歩くことすらままならない。宝玉さえ…宝玉さえなければ、私のお姉ちゃん達が死ぬ事も無かったのに………」
サイネの言葉は途中から嗚咽に変わり、最後は涙になった。悔しそうにキリキリとなるサイネの歯の音が痛々しい。
サイネ「これをなんとかしてくれない創世の女神なんて、クソ喰らえだっ…!!」
ステー「本当に酷い風習ね。もしかしてサイネ、貴女は供物だったの?」
サイネ「…そうだよ、でも逃げてきたんだ。最適の供物が無ければ生け贄の儀式は先送りになる。儀式さえ終われば、供物になって死ぬ子の寿命を延ばせる…」
ラカトス「ですが、村には誰もいませんね。供物無しでも儀式だけは執り行うのでしょうか…」
4人が話していたとき、何者かの足音が聞こえた。
ステー「誰?名乗りなさい。」
?「私は…」
アグリエラ「そこにいるサイネの母親、アグリエラ・ウェンダよ。」
サイネ「お母さん!?なんでここに?」
アグリエラと名乗ったその女はサイネとよく似たくすんだ桃色の髪をしており、長く艷やかな髪は不思議な妖艶さを醸し出していた。
アグリエラ「私はね、貴女を待っていたの。サイネはとてもいい子だからきっと私の所に帰ってくると思って。」
一呼吸置き、アグリエラはさも悲しそうに眉を歪めて話し出す。
アグリエラ「でも…貴女は遅すぎたの。」
ラカトス「なんだと?」
先ほどまでの表情と一変する。アグリエラの顔は気味が悪いほど真顔になる。目は焦点があっていない。
アグリエラ「儀式は予定通り執り行います。幸い”予備の供物”があったからね、サイネよりは出来が悪いけれど、素直なあの子をリアリー様も気に入ってくださるわ。」
サイネ「は?」
サイネは目の前の女の言葉を理解できなかった。脳が理解することを拒んだ。
アグリエラ「今回の供物は貴女の妹、ピュリティ・ウェンダに決まったわ。」
恍惚とした表情で告げる。まるで、此方にもそれを喜ぶように強要しているように笑いながら。
サイネの中で何かが弾けた。妹の笑顔が頭に浮かぶ。サイネが振りかぶった拳は、アグリエラの顔の目の前で止まった。アグリエラはその事を知っていたかのように微動だにしなかった。
サイネ「…ピュリティを助けなきゃ」
アグリエラ「無駄よ、もうあの子は死んでるわ!魂が浄化されたのよ!!神様のおかげで!!!」
サイネ「うるさい、もう、喋るな……」
言葉を発し終わると同時にサイネはその場からすぐに駆け出し、村の奥の山に一人で走っていった。
ラカトス「サイネ!一人では危険だ!!」
ラカトスの声はサイネには届かない。なぜなら、ラカトスとサイネの間に突然魔力の障壁が現れたからだ。不気味なその壁は、うずくまり笑い続けるアグリエラの身体から放射されていた。
瞬く間に魔力はラカトス達を覆い、4人は密閉されてしまう。
ステー「まずいわ、逃げられなくなった!」
ラカトス「仕方がありません、主人様、武器を構えてください。戦闘のコツは…相手が人間である事を、忘れることです。」
エリカ「さあ、来るよ」
アグリエラ「うふふふふ!!!!全てはリアリー様の為に!創世の女神様の為に!!創世教のためにぃぃぃ!!!!」
アグリエラの俯いていたからだがぐるんっと捻るように起き上がる。その目は血走っているが、眼球はステーファメル達を鋭く捉えている。
アグリエラ「武装顕現 終わりへの夢想!!!」
アグリエラの手に、細長い白蜜の杖が握られる。
ラカトス「スキル展開、氷魔法…」
その瞬間、ラカトスは狼のような素早さでアグリエラの懐に入り込む。
魔法使いは近距離戦を嫌う。魔力が魔法となってこの世に顕現するには一瞬の誤差があり、その誤差が近距離戦では常に命取りになるからだ。
ラカトスはハンマーを杖に向かって振り込む。目指すは武器破壊。
ラカトス「氷狼の咆哮ッ!!」
ラカトスのディセラフィから強力な氷の魔力が吹き出し、台風のようにディセラフィを覆う。ブルーレンはラカトスが編み出した、ラカトスだけの”スキル”。
魔力を持つ人間は皆、固有のスキルを持っている。得意属性なら5つ、それ以外なら一つ。それらは神から与えられるものではない。自分で自分の為に技を作り出すのだ。
ラカトスの場合、重厚なハンマーから繰り出されるそれらは、圧倒的質量の物理攻撃。避けられるはずもない。
アグリエラ「…うふ」
_しかし、アグリエラはまるで細長い刀剣を使うかのように軽くラカトスの攻撃を捌いてみせた。
アグリエラ「女だから手加減してくれたのかしら?嬉しいわぁ…」
ステー(相手は手練れ。ならばより強力な攻撃をしなければいけないわ。それなら…)
ステー「スキル展開、水魔法 天使の涙!」
水を纏った矢を7本放つ。高速で進む水は、普段とは違う恐ろしい硬さを備えている。
矢が当たるかと思われたその時、アグリエラがステーの視界から消えた。
ステー「なっ…消えたっ!?」
アグリエラ「貴女…凄く優しいのね…」
いつの間にかアグリエラはステーファメルの目の前に来ており、ステーファメルの頬を両手で掴んでいる。
アグリエラ「きっと、人に対して暴力を振るったことがないんでしょう?迷っているのね、恐れているわ。”自分が命を奪うことのできる人間であること”を。」
ステー「ッ…離れなさい、わたくしは何も恐れなど!」
口にしようとして、声にならなかった。
目の前がどんどんと暗くなっていく。思えばわたくしは別に暗殺者というわけでも無いし、兵士でもない。むしろそれと程遠い貴族の令嬢だ。いつから魔物の命を奪うことに疑いがなくなった?なぜ平気で人に矢を放った?心の何処かで世界を軽んじていたのだろうか。それとも自分の目的の為なら人の命を奪うことも当たり前であるということが、元々の価値観だったのだろうか?
いや
わたくしは今
何のために戦っている?
なぜ強くなりたい?
エヴァンのため?
クリスティーナに勝ちたいから?
違う
強くないと愛してもらえないから
例えばステファニーのように
死んでしまうかもしれないから
それに……
わたくしは知りたい
自分が何者なのか
なぜ力を奪われたのか
もしかしたらそれには、あの「ウェポン」という女神が関わっているのかもしれない
奴を探し出し、ステファニーの死について解き明かしたい
この世界を
もっと知りたい
わたくしはもう箱庭の中の小さな鳥じゃないのだから
もう自由に羽ばたこう。羽ばたきたい。羽ばたいてみせる
そのために
力がほしい
そのために
絶対に負けてはいけない
「魂は、世界に還るんだよ」
「循環する。新しい、清い魂となって。」
「そうして魂は新たな身体に帰り、また世界を支える一つの歯車となる。」
「ステーファメル、貴女は」
「そうやって人々を、世界を救い、導いていかなければいけないんだよ。」
「貴女ならできる」
「私は知ってる」
「貴女は誰よりも自由で強い子なんだから」
誰…だろう…?
顔が分からない
けど、わたくしは貴女を知っているの
「ステーファメル」
なに?
「いつまで、こんなところにいるの?」
…わからない
でももう、わかった
わたくしは、自分の目的の為に力を使う。
全てはわたくしのため。ただそれだけ。
今、この世界の正と悪は決められた。
わたくしの邪魔をする者は悪。
大層な大義名分なんて要らない。
きっとそれが、一番迷いのない選択になる。
「そう」
「なら、もういいよね?」
ええ
「早く帰ろう、ステーファメル」
そうね、長く悩みすぎたわ
「全く、帰ってきたら私に感謝してよね」
ウェポン「それじゃあ、もっと私を楽しませてね、ステーファメル」
Next___