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あやかが言った『コミュ力お化け』の意味を、俺は数日で理解した。
アイツは人当たりが凄くいい。
どんな相手でも、するっと懐に入り込む。
満面の笑顔で挨拶されたら、誰だって悪い気はしない。
『人たらし』ってヤツだ。
その代わり、本心も見せない。
見えない壁が一枚ある。
いや、一枚どころじゃないのかもしれない。
でもそれは、誰にも分からない。
「なぁ、どうしたらこうなるんだよ。」
「ごめんねぇ、飲もうとしたら、手が滑っちゃって。」
俺は今、床を拭いてる。
隣で、奴も同じ体勢で床を拭いてる。
ペットボトルの中身をぶち撒けたせいだ。
「若井くん、腰痛くならない?ありがとね。」
「…若井で、いい。」
「ふぇ?」
なんでそんなマヌケな声が出るんだよ。
開いた口、閉じろよ、みっともないから。
「呼び捨てで、いい。涼ちゃん。」
「はえぇ?」
コイツ、人の決心を!
「いだい、いだい、やーめーてー!わーかーいー!」
耳を引っ張ったら、大袈裟なくらいソイツは騒いで。
「今、若井が!りょうちゃんって、呼んだ!」
元貴がついでに騒ぎ出して。
「お、ついに認めたか。」
「ひろぱも陥落ー。」
結局、全員が騒ぎ出した。
いや、騒ぐ程のことか?
俺がコイツの名前を呼んだ事が。
「なんか…嬉しいね。」
俺に引っ張られた耳をさすりながら、ソイツは笑った。
ドキッとするくらい、可愛い笑顔だった。
「名前呼んでもらえるの。ありがとう、わかい。」
なんで男が可愛いんだよ。
おまけに年上だし。
バカじゃねぇの、俺。
「…別に。」
横を向いて。
俺は床を拭くのを再開した。
「よし、記念に飲みに行くか!」
「なんでだよ!」
何の記念だよ!何の!
「行くー!」
「お前ね!」
この前飲み過ぎて吐いた人が、何を言ってんですか!
元貴だけが、このやりとりを見て、笑ってた。